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6歳編 その6

 

「薬草採集の依頼な。この手の依頼は、見分けが難しいからお前の得意分野じゃのう。まあ、戦闘狂が多いからのう、薬草採集しかしないあやつももうしばらくは帰ってこないから助かるわい」


 しばらくは薬草採集に重点を置いて依頼を受けるつもりでいて、殺意を向けて来た魔物とだけ戦い、実戦経験を積むつもりでいる。


「討伐系の依頼はまだ僕には危ないってことはわかってるから、しばらくは採集系の依頼を受けることにしたんだ」


(……叔父様が心配するって言うこともあるけど、僕も少しでも危険性があることはまだ、すべきじゃないことはわかっているから)


「……あやつは心配し過ぎなのじゃ。れいちゃんは過小評価をし、行動を考えておる。無茶することはまずないと言うのに」


 内心を読まれ、そう言っているのかと思うくらい、会話のキャッチボールが出来ていて、思わず吃驚して固まってしまった。

 そんな僕に、朱基さんは声を上げて笑った。「お前は分かりやすいのぅ」と呟いているのが聞こえて、僕は恥ずかしくなった。

 間違えなく顔に出ていることだろう、自分の顔が熱くなっていくのを感じたのだから。

 顔を赤くしている僕に微笑ましげに笑いかけた後、朱基さんはこう言った。


「どれ、今日は鍛練がない日みたいじゃが、ちとお前が望む後天性スキルの使い方を教えてやろう。それとプラスして、それに役立つ後天性スキルを伝授してやろうかの」


 珍しいこともあるもんだ。

 朱基さんが教えてくれたものほとんどが生き抜くために、僕にあった〝知識〟だったから。


「……? わかった。今日のところは、依頼が終了次第、ギルドに帰ってくるね」


 普段とは違う朱基さんに疑問に思いながらも、学んでおいて損はないと、僕はその提案を了承する。

 了承したことにどこか安心している顔をしていることを不思議に思いつつも、それを朱基さんに追求してはいけないような気がした。

 その勘を信じ、あえて気づいてない振りをした。


 交流をしている時には必ずと言っても良いくらい気配を消している圭介さんに声を掛け、僕は依頼をこなすためにギルドから出るのだった。


 依頼はなんら問題もなく完了することができた。

 調合師として、勉強している僕には難しい依頼ではなかったからね。だから、多少墓守の森を探検しても、余裕で鍛練の時間を作れるはずだったんだ。

 最初はそうするつもりだった。……だけど、どうしてもあの表情が引っかかって、集中出来なかった。初めてのソロでの冒険者活動は楽しむ気持ちよりも、もやもやとする気持ちが勝っていて。

 こんな状態では駄目だと、殺意のない限り魔物と遭遇しても、逃げの一択とすることにし、依頼が終了次第切り上げることにした。


「……お早いご帰宅でございますね、零姫」


 早い帰宅に意外そうな顔をする圭介さん。そりゃそうだ、僕があれだけ興味関心を持っていた〝墓守の森〟から早々に切り上げてきたのだから。

 一番側にいて、一番熱心に〝墓守の森〟に関係しているのではないかと思われる謎について話す僕の聞き手でいてくれたのだから、そりゃ驚くだろう。


「まあね。寄り道をしなかったからね。あれくらいの薬草に関する依頼なら、調合師である僕にはこれくらいの時間があれば十分だよ」


 僕には〝調合師〟としての薬草の知識もあるし、後天性スキルの鑑定《植物》もあるから、短時間で薬草関係の依頼はこなすことができるんだ。

 それも、指導もしてくれていた圭介さんはわかっている。だから、寄り道していなかったと言えば、その短時間での帰宅は納得できるはず。

 現に、彼は「なるほど」と呟いていたから。


「……朱基さんの様子がいつもと違うことを気にして戻って来られたのですか? 本当に、貴方と言う人は情が深いお方でいらっしゃいますね……」


 あまりに的確な指摘だったから思わず、肩を揺らす。……どうしてここまで読み取られてしまうのか、そんなに僕は態度や顔にでるのだろうか。

 複雑な気持ちになれば、顔もそうなってもいるのだろう、圭介さんにクスクスと笑われる。


「……勝手に話すのはルール違反なのでしょうが、これに関してはあの3人は口に出しづらいことでしょうから、お話しましょう。昔、俺が新人冒険者の頃、同期にいたのです。……貴方のような、人から慕われやすい人間が。愛嬌があって、憎めないそんな人間がいたのです」


「そんな、買い被りすぎだよ……っ!」


「そんなことありません。俺が慕っている貴族は有栖家の血を引く貴族しか今はいません。話は戻りますが、そんな憎めない彼でもそれでも貴方とは根本的違いがありました。……彼は自分の強さには傲慢で、生意気だったのです。それさえなければ、今頃、S級冒険者になっていたと思うくらいの人材でした」


 ……でした? ……なんで過去形?


「……殺されたのです。本来なら、A級冒険者が倒さなければならない魔物に。……盗賊に。討伐対象の盗賊に、魔物を誘き寄せる先天性スキルを持つ奴がいて、押し付けることで盗賊達は逃げ、そして奴らは〝近くに村があることを逆手に逃げられない状況〟を作り上げ、彼を殺めました」


 ……だからか。だから、僕がソロで冒険者活動をしたいと言うまで、叔父様にそうするようにと言う人がいなかったのか。

 僕に似た性質を持つ人が実際に亡くなっているから、言い出せなかったのか……。


「……その盗賊は捕まったの?」


 そう聞けば、圭介さんはふるふると首を振る。


「盗賊団自体は捕まりましたが、その〝魔物を誘き寄せる先天性スキルを持つ奴〟だけは未だに捕まっていないのです。彼は冒険者活動をする時はソロでの活動が多かったですし、この先天性スキルの存在がわかったのは残っていた〝かすかな甘い香り〟だったので、そいつを捕まえるには情報が不十分でして」


 ……なんかもやもやする。なんだろう、この話には矛盾点があるような気がしてならないのは、僕だけなのだろうか。


「……言いづらいこと聞くけど、……遺体は?」


「えっと、ありませんでした。大量の血液から、賢者様のスキル、〝検査〟による、冒険者データの血液型の一致から、死亡と判断されました。周囲には、傷を負ったまま歩いたような痕跡は残っていなかったので」


 ……やっぱりね。だから、こんなにもやもやしていたのか、と納得できた。でも、さらにその確信が明確になるまでは安易に憶測を言うことは出来ない。だから、さらに質問を続ける。


「発見されたのは、彼が依頼を受けてから何日後? 移動時間は含めないようにね」


「……あっ、はい。依頼は墓守の森で、移動時間はかかりません。彼は遅くても、盗賊撃退の依頼は3日すれば解決するので、4日目に捜索を開始されていました」


 ……やっぱりおかしい。それを自分の中で明確にするために、さらに聞く。


「……そう。周辺に魔物はどれくらいいた? 行くまでに魔物と接触した?」


「……その場には全くいません、でした……。行くまでには何体か討伐はしました」


 ……おかしいよね。そう考えるのは僕だけじゃないようで、質問に答えている圭介さんまで困惑するような顔をし始めたから、感じていた違和感は間違っていなかったと確信に変わる。

 普通、野良の魔物は人と対立する存在だ。生きるための糧とする対象に、……人間も含まれている。

 だから、血の匂いがすれば、普通なら数匹魔物がいてもおかしいことではないはずなのに。


 圭介さんは、〝魔物は全くいなかった〟と言った。そして、たどり着く前までには魔物と接触したとも言った。


「……ねぇ、その四日間、全く雨は降らなかった?」


 ……僕は結論を出すために、最後の質問として聞いた瞬間、圭介さんは固まった。


「……ッ! 降りました! 3日目の夜に降りました!

 俺、覚えているんです。自分の実力に自惚れないために、このことは絶対に忘れないって決めたから! 当時、全部記録したあるから間違えないです!!」


 その一言で、僕の考えは固まった。


「……おかしくない?大量の血液があるのに、魔物が寄り付いて来ないのってさ。……だってさ、それまでは魔物と接触したんでしょう? おかしいよね? 」


「……はい」


「雨が降ったのに、流されないで〝血液が綺麗に、ましてや大量に残る〟なんてあるの? 多少、残るくらいならまだしも、さ。……おかしいと思わない?」


 僕が矛盾点を指摘する度に、圭介さんの表情は固まっていく。……それでも、僕はやめない。


「ねぇ、魔物を誘き寄せる香りって言ってたけど……、それって本当にそうなのかな?それってさ、考えを混乱させる作用があるお香じゃないの? それなら、つじつまが合うよね」


 そう言えば、圭介さんは呆然とした顔をしたからたたみかけるように僕は話を続けた。


「だって、あれほど頭が切れる3人が〝ここまで不自然な点〟に気づかないんだよ? ……あれほど証拠を残していったのに、盗賊団は捕まっても犯人が捕まらないことをおかしいと考えるはずなのに、どうしてそうしないのかも」


 ……だって、8割の確率で犯人はいないんだろうから。そう考えると、沸々と腹の底から怒りが湧き上がってくる。


「……自作自演、の可能性が高くなるでしょうね。今思えば不自然なことばかりだ。もしかしたら、傷つかなくて良いことで先生が傷ついていたと言うことですね……ッ!」


 圭介さんも僕と同じ結論に達したことで、この違和感は間違っていなかったと完全に安心できた。

 その瞬間、圭介さんは怒りのまま、地面に拳を打ち付けて、小さなクレーターを作った。

 その事実に僕は思わず、驚きのあまり固まってしまったのだった。




 ※※※※※※




 圭介さんはギルドに帰ってすぐに、叔父様や雷紀さん、朱基さんに伝えると言う行動に出た。

 雷紀さんや朱基さんは、僕がしたような誘導により、この事件の違和感に気づいたようだが、叔父様は違和感に気づきながらも否定し続けていた。


 そりゃそうか。叔父様は、誰よりも教え子に愛情深い人なのだから、信じたくないのもわかる。


 だから、実力者の朱基さんとの鍛練であるため、僕はその時間の間のみ、護衛の職務から離れることを許した。


「……有難うな、れいちゃん。これで後悔が1つ減った。これで、罪悪感なくお前に指導することができそうだ」


 朱基さんは安心したような、そして裏切られたことに対する悲しんでいるかのような複雑そうな顔をして、そう言った。

 そんな表情を見て、僕は余計なことをしてしまったのではないかと、針で刺されたような痛みを心臓辺りから感じた。


「そんな顔しなくて良い良い。お前は悪くない。さて、鍛練としようじゃないか。儂が教えるのは後天性スキルの『札結界』と『札術』じゃ。本当は夜兎に任せようと思っていたんだがな、やはり儂の得意分野だから儂が教えるべきだと思い直したんじゃ。……このスキルはお前がこれから身を守るために必要となるじゃろう、スキルよ」


 そう言って不敵に笑う、朱基さん。

 そんな表情を見て、これはまた厳しい鍛練になりそうだと現実逃避をしたくなった。




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