その2!
ぼんやりと考えているうちに、思考回路の渦に巻き込まれていきそうになった瞬間、圭介さんは咳払いをして考え事から現実へ意識が戻る。
「今日のご予定はどうされますか?」
そういえばそんな話もしていたね、と自分のことながら他人事のようにそう考える。
「今日は本屋とか古本屋巡りかな。あとは、薬剤店巡りと花屋、あと植物園とか公園とかでもいいな、あとは図書館とかもいきたいかな!」
行きたいと思うところはそれくらいだな。本とか、雑誌とか全部お父様が仕入れているし、たまには自分で選んだものを読みたいと考えていたんだ。
街によって品揃えも違うし、それに古本屋にある古本の種類も違うからな。楽しみだ。
図書館、王の書斎にしか置くことができない本があるらしいし、図書館にも行ってみたかったんだ。
それに温室もできるらしいし、どう言う植物が育っていて、育ちやすいのか見ておきたい。
「あ、ハッサクとサクアはどっか行きたいところある?」
ハッサクとサクアにだって行きたいところだってあるよね。移動している最中、あんなに街並みをガン見していたんだから。
そう聞けば、意外にも2匹とも触手でばつ印を作った。見たことのない景色だったからあんなにガン見していただけか。
「じゃあ、行きたいところがあれば遠慮なしに言うんだよ? わかったね?」
そう言えば、サクアとハッサクは了承したのか、触手で丸を作ってくれた。
そんな姿を見て、圭介さんは首を傾げながら、
「ユニークモンスターは確かに他の従魔よりも賢くなるらしいが、そんなに人の言葉を理解出来るほどではなかったような気がするのですが……」
その言葉に思わず、肩が揺れそうになるのを抑えながら、僕は言う。
「個人差もあると思うよ。この子達は従魔にする前、怪我していて保護した子達なんだ。だから、逃げるために必死に賢くなったんだと思うよ」
これは半分本当で、半分嘘。
だって、言えるわけがないじゃないか。この子達は神様からの贈り物だとは。
それでは転生者だとバレてしまう。
「そうだったんですか……」
良かった、ここで顔が出やすい性分が出なくて。
ここまで意思表示がはっきりしているのも珍しいことなんだろうが、この子達は個性の面で考えても特別なユニークモンスターだ。
(まあ、それは当たり前だろう。この子達は僕の要望に合わせて天界から来た、神様からの贈り物なのだから)
なんで考えていると、籠のようなものを持って叔父様が中に入ってきて僕の目の前にある机に、「昼飯だ」と言っておいた後、事情を聞いてきたから概要だけ伝えれば、周囲を騒つかせるようなことを言い放つ。
「何言ってんだ。本来なら従魔の先導の仕方は、零の方があっているんだぞ? テイマーとは絆を深め、そして綿密な連携で戦う。本来なら従魔に戦わせるのではなく、絆を深め、綿密な連携で戦うのがテイマーの戦い方だ。
まあ、ハッサクやサクアはずば抜けて知力は高いが、本来なら動作でコミュニケーションを取ることは昔のテイマーには可能だったようだ。だから、本来のテイマースタイルは零が正しい」
(テイマーの文献にはそんなこと書いてなかったような……?)
そう考えながら首を傾げていれば、放心状態な周りを放ったらかしにして続けて言う。
「今は従魔は武器扱いだ。従魔にも心があると言うのに、今の人間はそれに気づかない。だから、従魔の本当の力の3分の1すらの力も引き出せていない」
確かに叔父様の言う通り、親密度を上げておかないと、モンスター達は進化はしない。まあ、例外にハッサクとサクアは進化は出来ず、代わりにスキルをくれるのだけど。
そう考えていると、圭介さんは懲りずにまた食いついて来た。知りたがりを直さないといつか、厄介なことに巻き込まれそうだなと考えながらも、質問することを止めたりはしない。
「3分の1すら力を出せていないと言うのはどう言うことでしょうか? それに、さっき言ったことを踏まえて、本来のテイマーの戦い方だってそんな文献、図書館でも見たことがありません」
(……見たことがない? それはどう言うことだ? 確かに本来のテイマーの戦い方についての本は見たことはないけど、進化することは本に記されているものもあったはずだ)
前世の記憶を持つからと言って、チートを望まない僕に、神様が公開されていない知識を与えないはずがない。それは、恐らく伝承性スキルの存在は知っていたのに、スキル説明の時に説明しなかったと言う事実で証明できる。
しかし、なぜ『神様が問題ないと判断したテイマーの進化についてこの世界の人間は知らない』のだろうか。
「それについては踏み込まない方が良い。俺は初め、王都の学園の教員になるか、冒険者の教員になるか迷っていたが、偶然あることを知ってしまってな。悪事に手を貸すつもりもないから、王都の学園の教員を選ばず、冒険者の教員になることにしたくらいだ。
これに関しては好奇心で安易に首を突っ込むことはおすすめしない。下手すれば、不慮な事故として不可思議な死を遂げたと言うことになるぞ。まあ? 俺の場合は緑水の位であったこと、そして現当主を敵に回すことで自国の行方に影響を与えることに恐怖しているから、王族達は手を出してこない」
まあ、そうだろうね。お父様を敵に回すことは、自国のことを滅ぼしてくださいと言っているようなもの。戦のことしか考えてないような人でも、敵に回せば勝てないと言うことは理解してるだろうなとは思う。
「しかも嫁はS級の冒険者、次期当主の息子もまたA級の冒険者と来た。ますます、手を出せずにいるだろうなぁ。
だが、圭介は違う。お前は俺達のように命が狙われた時に、命を奪われないための盾がない。まあ、そうそうお前がやられることはないだろうが、王族の暗躍部隊にはお前を瞬殺出来るような奴がいる。だから、今回は好奇心に負けて調べるような真似をするなよ。
好奇心に負けて死ぬようなことをお前はするんじゃないぞ。関わるな」
……なるほどね。神様から与えられた情報にはあって、世間一般的には一般常識ではないのは、人によって隠蔽されていたからか。
全く、許せないな。従魔達はテイムされる理由としてテイムのスキルは資格でしかなくて、自分が惹かれる何かを持っているから、従っていると言うのに。
まさか、自分が彼らを選んだと勘違いしているわけではないだろうね。それは違う、とんでもない勘違いだ。人間が従魔を選んだんじゃない、従魔が人間を主人として選んだんだ。
(……その思いを戦争に使う? 人間の幸せのためだけに? 許せないな)
僕はそう思うことしか出来ないから、見て見ぬ振りをしているのと何のかわりはない。王国軍に使える従魔達を解放してあげられるほどの力はないし、解放したとしても忠実な彼らは、主人の元へと戻ってしまうだろう。
(……例え、そこが戦場であろうともね)
「ここにいる者全てに命じます。この件には一切今後関わること、そして今聞いたこと全てを誰であろうと話すことを禁じます。これは有栖の本家からの命令だと考えなさい。
この件は我々が解決する問題ではありません。しかし、貴族であろうと自由に生きる緑水の位は王族の味方になるつもりはないと、現当主の代わりに断言します。
これだけは約束しましょう。王からの命令であろうと僕は王家の従魔に関する考え方を肯定することはないことだけは約束すると。
この件については終わりです、これから出かけます。守衛の皆さん、準備するので少々待ってて」
真剣な顔をするのをやめ、僕はにっこりと微笑んだ後、パタパタ走りながら準備をするために自室へと向かうのだった。
※※※※
「流石は先生の甥ですね。貴方より、自分がこの場を収めるべきだと判断され、あの年であの収め方は見事です」
「いや違う、本当は俺がこの場を収めるべきだった。無意味な周りの当主争いは無くすためにはな。……まあ、あの子は当主になるつもりはないみたいだから大丈夫だろうけどな」
(それに、零には継ぐべき立場がある)
「先生、何か言いましたか?」
「いや、何も?」
なんて会話をされていた事を知るのは、数年後のことだ。




