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スモーキー教授  作者: 目262
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 今、霊園の入り口に立つ助手はスモーキー教授からの手紙を思い出して溜息を吐いた。教授の墓を掘ることに対する報酬は魅力的だが、本当に不死の薬など作れるのか?これは何かの罠なのではないか?手紙は悪意のある誰かがスモーキー教授の筆跡を真似て書いたもので、自分が恩師の墓を掘り返しているところを盗撮してインターネットに公表するつもりではないのか?そんなことになれば自分の学者生命は終わりだ。一方、手紙が本物で、スモーキー教授が本当に生き返ったとしたら、自分が墓を掘らなければ見殺しにしてしまう。散々迷った末、半信半疑ならぬ三信七疑の気持ちでここまで来た。

 しかし、死者の墓を掘り出すなんてホラー映画そのものではないか。しかも教授の死亡推定時刻は真夜中なのだ。ジャスト一週間後ではやはり真夜中になる。助手は元来気の弱い、人一倍怖がりな男で、そんな時間に墓を掘り返すなど絶対にできなかった。だから彼は早朝に来る事にした。この時間なら人もいないだろうし、棺の中にもいくらかの空気があるのだからわずか数時間遅れたくらいで窒息死などしないだろう。助手はそのように考えたのだ。

 スモーキー教授の墓は霊園の一番奥にある。助手はしきりに周囲を見渡し、人目がないことを確かめつつ慎重に足を運んだ。こうして霊園の奥に達したとき、前方に白い煙が巨大な塊になって立ち込めていることに彼は気付いた。それは研究室で嫌というほど嗅いだ、スモーキー教授愛用の煙草の香りがした。

 充満する煙にむせながら助手は駆け足でスモーキー教授の墓にたどり着いた。そこは煙の発生源で、墓を覆う土の至るところから、温泉地の如く白い煙が立ち昇っている。しかし、匂ってくるのは煙草の香りだ。呆然とする助手の足元から微かだが耳慣れたスモーキー教授の、苦しげな声が聞こえてきた。

「早く!早く掘り返してくれ!早く!」

 助手は背負っていたリュックを地面に降ろすと中から折りたたみのシャベルを取り出して急いで組み立て、スモーキー教授の本名が書かれた白木の墓標を引き抜き、懸命に墓を掘り出した。そうしている間に地中から聞こえる声は苦しげに咳き込む音に変わり、シャベルが黒く焼け焦げた棺の蓋に達したときには恐ろしげな悲鳴になっていた。汗だくの助手がどうにかシャベルの先端で蓋を叩き壊して穴を開けると、中から煙草の白煙と共に真っ赤な炎に全身を包まれたスモーキー教授が弾かれたように飛び出してきた。火だるまになって地面の上をのた打ち回る教授に、助手は無我夢中でシャベルを使って掘り返した土をかけ続けた。ようやく火が消えたときにはスモーキー教授はもはや無言でうつ伏せになったままだった。助手はすぐさま携帯電話で救急車を呼んだが、運ばれた先の病院で治療の甲斐なくスモーキー教授は死亡した。

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