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銀の蜃気楼  作者: トト美咲
14/15

永遠の母〈5〉

 ガミガミガミガミガミガミ……。


 ハロルドの怒りは治まらず、バースと少年に向けての説教は果てしなく続いていた。


 自業自得……。ロトとタクト、そしてアルマは(特にバースに対して)そんな様子を止める素振りもせず、寛いでいた。


「息抜きには丁度良かったな? タクト」

「残念なのは食べる楽しみが無いことです。アルマさん」

「アルマさんとタクトが日頃何れだけ〈バーカ〉の世話に明け暮れていたか伺える」

「ロトからその様な言葉が出るとは思いもしなかった」


 暫くの沈黙を経て、最初に発言したのはアルマだった。

「……。タクトはどうなのだ? 只でさえ、バースと《闇》の共通点に動揺している」

「そっちが気になって堪らないのですね?」

「私の心が今にも押し潰されそうなのだ」

 アルマはそう言うと膝を抱えてその上に額を乗せていく。


「それは僕も同じです」

 タクトは視線をバースと少年に向けていくと薇を巻くように、記憶を引き揚げていく。



 ★○★○★○★○★○★○



【団体】の実験事故を知ったのはいつもなら鍵が掛かっている父さんの書斎の扉が開きっぱなしなっていて、其処で見つけた日記帳に何頁にもその件について綴られていた。ついでに切り抜かれた新聞記事も貼り付いていた。読んでて頭が痛くなってしまった。怖くなって其れから父さんの書斎には入らないようにした。


 頭痛と恐怖感はそれでも襲ってきた。我慢してたけどその原因を母さんに見抜かれた。怒られるどころか泣かせてしまった。


 ーーごめんね、ごめんね、ごめんね……。


 僕を抱き締める母さんは何度もそう言っていた。そして、そして……。


 いなくなった弟を探すために【団体】に利用される覚悟で【国】に行った。母さんならきっとそうだったに違いない。



 何故なら、僕の記憶は消えていた。弟の名前さえーー。




 ★○★○★○★○★○★○



「〈マザー〉が此方に来ると言っている。黙って貰えないか?」

 少年はそう言いながらハロルドの脛を蹴るとアルマの背後に駆けていく。


「この、エロガキめっ!」

 アルマは腰に違和感を覚えて少年を突き飛ばすと、その身体は隣のタクトによって支えられていく。


「《時間》だけなのに僕達みたいに温かいね?」

「この身体は〈マザー〉が創ってくれた。入るの嫌がってたら『道標だから我慢しなさい』と叱られた」

「そいつが《繋がる世界》の主なのか?」

 そう言ったのはハロルドに耳朶を引っ張られるバースだった。


「そんなの知らねぇよ。俺は頼まれた事をやっただけだから」

「言い逃れをするなっ! 小型バースめ」

「知らないと言ったら知らないっ! あ、来た」

少年は険相を剥けるロトに尻目をかけながら、空間を見上げる。


 ーー此処は所詮《創られた世界》維持する為に人の思い出を利用するなどあってはなりません。私も其れを打ち砕くお手伝いを致します。


 その姿に真っ先に反応するようにロトの眼差しが懐かしさを含ませる。

「……。まさか、こんなところでキミに会えるとは思わなかった」

「可笑しいでしょう? 私を〈マザー〉なんて呼ぶ程【団体】はかなり杜撰な組織化しているの。人々に豊かな暮らしをなんて、嘘っぱちにうんざりしていたわ」

「だから、俺達も終わらせようと懸命になっていた」

「判っていたわ。その証拠にあなた達は此処まで来てくれた」

「積もる話は沢山あるけど、皆が待ちくたびれる」

 ロトは翻して整列するバース達を見つめる。


「僕、解った。この人があの時メッセージを送ってくれた。そうですよね?」

「タクトですね? 貴方が照らした〈灯〉のお陰でロトは迷わずにすんだの」

「そっか……。ロトくんも【団体】に捲き込まれた人々の中に含まっていた。しかも、違う世界の人なのにこうして僕達の世界の為に闘ってくれた」

「此れが終わればロトとお別れ……。そんなお顔をされていますよ?」

「寂しいに決まってます。えーと……」

「テラと呼んでください。そして、ビート。貴方の“力”をどう使うか決めましたか?」


 少年ーー。ビートは頷く。そしてバースとアルマを交互に見つめると、笑みを湛えるのであった。


「今からあんた達に俺を譲ってやる。まずは……」

 ビートはバースと手を繋ぐ。すると、その身体は眩く光を解き放す。輝きが止み、バースは恐る恐る目蓋を開いていく。


「“力”を俺にか?」

 バースは掌を翳してその感覚を確認する。


「どうした?」とアルマはビートと目を合わせると笑みを湛えながらそう言った。


「言い直す、宜しくお願いします」

「《器》はどうするのだ?」

「〈マザー〉が形を変えてくれる」

 ビートはアルマの手を握り締めて全身を白色に輝かせる。


 それは星の煌めきのように瞬くと粉になり、足元にさらさらと溢れ落ちていく。その微量の光の山をアルマが掌ですくいあげるとテラは祈りを捧げる。


 とくとくとくとくとくとくとっくん……。


 耳を澄ますと鼓動を彷彿させる波長。その振動はアルマの指先から全身に駆け回る。髪を柔らかく靡かせ吐息は甘く。肌を桃色に彩らせると、ふるん、と身体が揺らぐ感覚が迸る。



 ★○★○★○★○★○★○



 アルマはバースの腕の中で泣き崩れていた。その理由をその場にいる誰もが知っていた。


 ビートは新に時を刻む為に“力”をバースに託した後《器》を脱ぎ捨てテラによって《象》を変える。それはこの世界で幾ともタクトの手によって開かれた扉の〈鍵〉を彷彿させるものとなっていた。


 タクトは確信していた。ビートはアルマの中で時を刻む準備をしていると……。それは【国】の幻の女王の娘カナコと同じ経緯を辿った。その出来事を思い出すと自然と笑みが湛えられたのであった。


「待たせたな。最終決戦と意気込むぞ」

 バースはアルマを支えながら穏やかにそう言った。


「了解!」

 ロトとタクトは瞳を澄みきらせて一斉に敬礼をする。その傍にいるハロルドはテラと目を合わせると頷いていく。


「ビート、キミの為にもこの闘いにけして負けないよ」

 タクトは掌の中の月の光を照らす〈鍵〉を見つめながら呟き、目の前に聳え立つ巨大な銀色に輝く《扉》の鍵穴に其れを差し込むとゆっくりと開かれていき、そして一行は靴を鳴らして飛び込んでいった。










物語はいよいよ最終局面となります。

それでは、次話でお会い致しましょう……。

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