ー叔父と甥ー (フェルネスがエルドリアの王子に復帰した頃の話)
カイレス、すごく重要なキャラなのに、出番が少ないので書きました
「叔父上、どうしても教えてくださらないのですか?」
カイレスはフェルネスに詰め寄った。
フェルネスは王子の正装のまま、何度もアストリアを訪れている。
――それでも、こうして直接向き合うのは約七年ぶりだった
相変わらず背が高く細身で、端正な顔立ち。その姿は昔とほとんど変わっていない。
「言えぬ。アストリアの国王陛下と、グランディル帝国皇帝陛下との約束だ」
カイレスはロザーリア亡き後、リラインド公爵家に引き取られ、半年後に海外へ留学した。
その間に、妹のターシャとフェルネスは共にグランディル帝国へと旅立っていた。
帰国後、いくら周囲に尋ねても――
「ターシャは帝国の皇帝の身内に養女に出された。フェルネスはそれに付き添った」
としか教えてもらえなかった。
こうなれば、フェルネス本人に直接問うしかない。そう考え、直談判に及んだのだ。
フェルネスは国王と謁見した直後だった。
そこから出てきたところを捕まえたのだ。
「どうしてもターシャに会いたいのです。居場所を教えてください」
「その件に答えることはできない。何度も言っているだろう?」
フェルネスの返事はそっけなかった。
カイレスは背が高くなっていた。
ほぼフェルネスと変わらない。
細身のフェルネスに比べ、よりたくましく、大柄に見える。
カイレスは決意した。
「叔父上、勝負です。私が勝ったら、ターシャの行方を教えてください」
「そのような無茶を言うな。言えぬものは言えぬ」
(思い込んだら突き進むその性格――亡き実母ゆずりか)
フェルネスは苦笑した。
「まあ、剣の腕がどのくらい上がったかは見たい。約束はできないが、試合はしてみよう」
二人はアストリア城内の訓練場へ向かい、試合着に着替え、模擬剣を取って向かい合った。
カイレスが先に踏み込む。
フェルネスはそれをさっとかわし、すぐに剣で受けた。
剣と剣がぶつかり合う音が響く。
時折、火花が散る。
フェルネスが押す時もあれば、カイレスが押し返す時もある。
勝負はなかなか決まらなかった。
フェルネスはニヤリと笑った。
「短期間で、ずいぶん腕を上げたな。さすがは我が甥だ」
「叔父上こそ。執務ばかりなさっているから、もっと腕が鈍っていると思っていました」
さらに打ち合いは続く。
そして一瞬の隙を突き、フェルネスがカイレスの剣を弾き飛ばした。
模擬剣が床に音を立てて突き刺さる。
カイレスはがっくりとうなだれた。
フェルネスは内心、ほっとしていた。(危なかった)というのが本音だった。
手がしびれている。
「悔しいです。今度こそ、ターシャの居場所を教えてもらおうと思ったのに」
カイレスは握りこぶしを震わせた。
「だから、それは教えられぬと申しておろう」
フェルネスは同じことを繰り返すことに、ややうんざりしていた。
「もう一本、お願いします!」
持久力は、若く体格にも恵まれたカイレスの方が上だ。
「もうよそう。これから出撃要請が来れば、差し支える」
フェルネスは諭すように言った。
(自分も少しずつ年を取っているのだな)
と、つくづく感じていた。
いつの間にか、亡くなった時の姉上とクラウスの年齢を越えている。
頭に浮かぶ二人の姿は、あの時のまま変わらないのに――時だけが過ぎていく。
「叔父上?」
遠くを見るような目をしたフェルネスに、カイレスが不思議そうに声をかけた。
「素直に認めよう。いずれそなたは私を越える。そのまま鍛錬を続けなさい。
ターシャには、いつか必ず会える。今はその時ではない」
カイレスはそれ以上問うことを諦め、うつむいたまま訓練場を出ていった。
「私だって……姉上と兄上が生きているのなら、何としても会いたいからな」
フェルネスは、カイレスの気持ちを理解していた。
しかし、ターシャがクラリス皇女であることは絶対の秘密だった。
「……許せ、カイレス」
フェルネスは、遠ざかる背中をじっと見送った。
巨大魔獣討伐でフェルネスがカイレスに「首を切る方に回れ」と言ったのは、カイレスの実力を知っていたからです
なぜ実力を知っていたか?という視点からこの話を書かせていただきました
読んでいただきありがとうございます




