第15話 狛ポメ現る ー新事件導入回(壱)ー
ガリガリガリッ!!
いつも通り、師匠の家へやってきたところ、その家の扉を一心不乱にかきむしる真っ白でフワフワの犬の姿があった。柔らかそうな体毛と、くるんと巻いた長毛の尻尾は、身体を動かすたびにゆさゆさと揺れている。これはポメラニアンか?なんか首に極太の紅白紐を巻いた、和風テイストのポメラニアンがいる。
迷い犬かな……いや、そもそもこの扉って俺以外には基本見えないし干渉も出来ないって、師匠が言っていた気がするんだけども……まさか犬だから違うとか?
ポメラニアンがもふもふガリガリと、前足で扉をかきむしるのをしばらく眺めていたところ、そいつも見ている俺の存在に気付いたらしくピタリと動きを止めた。
「おい!!そこな人間、見えているならこの扉を開けるのだ!!」
わぁーすごーい、ポメラニアンが人の言葉で声で喋った~
…………いや、ここに居る時点で薄々思っていたけど、ただの犬じゃねぇな!?
「何者だ」
「この扉の向こうに御座す方に用があるのだ」
「いや、だから何者か答えろよ」
するとポメラニアンはフッと鼻で笑いながら答えた。
「お前のような小童に名乗る名などないわ」
コ、コイツぅどうみても小型犬のくせにコチラを見下して来やがる!!
「ならもう答えなくていいから、そこをどいてくれ。中に入るのに邪魔だから」
「なぬぅ邪魔だと!?神使である我を愚弄するか!!」
「いや、知らねぇよ。そもそも名乗る気はないって言ったのはそっちだろが」
見た目だけは可愛いポメラニアンは、ぐるぐると低く唸り声を出す。
いや別に、小型犬に唸られたところで怖くないし?と余裕の構えでいたところ、なんとそのポメラニアンは、俺の足に噛みついて来た!!
「ぐぁ!?」
反射的噛みつかれた足を引き、必死にポメラニアンを振り払う。が、その拍子にバランスを崩してしまった。ぐらりと倒れそうになったその時、俺は自分の身体を支えようと、咄嗟に近くにあった扉の取っ手を掴んだ。
当然の話だが、捕まった取っ手は動くし、そうなれば扉は開く。その結果、俺は事故のような形で、不本意ながら師匠の家の扉を開き、室内へとぐしゃりと倒れ込んだ。
「ふんっ、最初からおとなしく従えばよかったのだ」
そんな台詞を吐きながら、ポメラニアンは出入口へ倒れた俺を小さな足でポテポテと踏みつけにして家の中へと入っていく。
あ゛あ゛あ゛、くそぉぉお!!
「シキ……何をやっているのだ」
声に釣られて顔を上げると、そこには相変わらずの黒帯で目隠しをしながら、露骨に不機嫌なのが分かる師匠の姿があった。その足元では「鬼神さま~」と嬉しそうに先程の白い毛玉も飛び跳ねているが、そちらはガン無視である。
「面倒くさそうだから、諦めるまでこの犬を放置しようとしていたのに、よもや招き入れるとはな」
いや、言いたかったのはそっちかよ!!というか、この犬はわざと放置されていたのか。
今の発言を聞いた白毛玉は動きを止めて「そんなぁ!」とショックを受けている様子だ。
「と、いうわけでシキ、この犬っころが持ち込むつもりだった面倒事はお前が引き受けるがよい」
「「はぁあああ!?」」
意図せず俺と某毛玉の声がハモった。犬はちらりと俺のことを見たがすぐに「ふんっ」と顔を背ける。
「あの……俺が引き受けるのは、この犬自身が嫌がりそうなんですけども」
「そうです!!今回の問題はこんな出来の悪い人間の小童などに、どうこう出来るものではありません!!」
俺の言葉以上に、ポメラニアンがキャンキャンと吠えながら、俺のことを全力で否定してくる。それをうるせぁなと思っていると、いきなり部屋の温度が下がり、それと同時に謎の重圧というか息苦しさを感じるようになった。
あ……これは。
「黙れ、それを決めるのはお前らではない」
ゾクリとする程の威圧感がこもった恐ろしい声に、小うるさかった犬はピタリと固まり完全に沈黙してしまった。見ればその耳も後ろに倒れている。
こっわ…………そりゃあ小型犬も静かになりますわ。
師匠はくるりと踵を返すと、いつの間にか後方にあった、妙に重厚感のあるソファーへ深く腰を掛ける。そこからゆったりと肘掛けに頬杖を付きながら、もう片方の手を誘うように差し出して不敵に告げる。
「それでは犬っころ、発言を許すから話してみよ。わざわざ助けを乞う為にやってきた要件というやつを、な」




