正直に言えない
王子カイル様は正午前に別荘にお着きになった。護衛の騎士達は三十名ほど居る。皆、警戒心を持って、ピリピリとしている雰囲気だった。
別荘の外に出て、私はカイル様をお迎えする。
「カイル様、この私にこのような立派な別荘をお貸し頂き、ありがとうございます。この御恩は一生忘れません」
「そんな大袈裟な。私と君は夫婦となるのだぞ。堅苦しいのは止めて欲しい」
カイル様は少し照れながら応える。私は嬉しくて、なおも続ける。
「いえ、カイル様のおかげで私の身の安全が保証されているのです。感謝し尽くせないです。本当にありがとうございます」
「良いのだ、ヴァシリーサ。妻となる女性を護るのが夫の務め。気にしないでくれ」
カイル様は困っている様子だ。これ以上、感謝ばかりしていると、カイル様がお疲れになられるので私は話を変える。
「カイル様、昼食の準備が整ってございます。良かったら、私とご一緒にいかがですか?」
「もちろんだ。私も君と話食事をしながら、話がしたい」
「ありがとうございます。すごく嬉しいです」
私は先行し、リビングに王子様一行を通す。
私の家じゃなくて、カイル様の所有の別荘なんだけどな。
そんな事を思いながら、カイル様と同じテーブルに着く。カイル様と向かい側の席だ。その私達のテーブル席を囲むように騎士達が並ぶ。
慣れていない状況の中、料理が運ばれて来る。料理を作っているのも、王族お抱えの料理人たちだ。美味しそうなお肉や野菜、果物などがドンドン運ばれて来る。
すると、カイル様が険しい顔になり、騎士団長に確認をする。
「毒見はちゃんとしてあるのか?」
「もちろんでございます」
騎士団長は緊張しながら応える。カイル様は騎士団長を一瞥すると、厳しい口調で続ける。
「ドン家が動いている。ヴァシリーサの命を狙っているのだ。絶対に気を抜くなよ」
騎士達に緊張感が走る。私はカイル様の表情を覗き見する。私をスゴく心配して下さっているのが分かる。カイル様は一呼吸置いてから、私に話を切り出す。
「ドン家が君に襲撃をした事は聴いている。私は父にこの件を報告し、ドン家の貴族の称号の剥奪を訴えた」
ナイフとフォークをお皿に置き、私はカイル様の話に耳を傾ける。
「だが、父や周りの王族の連中に反対された。ドン家は古参の名家の貴族。貴族の称号の剥奪をすれば、王族にとって莫大な損失となる。そう言われたのだ。だから、私の力では彼等の暴挙を止めることは出来なかった。無力な私をどうか許してくれ」
カイル様は私に頭を下げる。申し訳ない気持ちでいっぱいになり、私は立ち上がる。止めていただけるようにお願いをする。
「いえ、カイル様こそ私なんかの為に色々して頂き、本当に申し訳ないです。その気持ちだけで嬉しいので、頭を上げて下さい」
カイル様は暗い表情で顔を上げる。私は思いっ切り笑顔を作る。好きな人と食事をするのだ。笑顔で明るい話題をした方が絶対にいい。私は正直な気持ちを話す。
「私はカイル様と楽しく食事がしたいです。だから、話題を変えませんか?」
カイル様の目が見開く。カイル様は軽く微笑むと私の目を見つめる。
「すまない。そうだったな。今日はヴァシリーサと共に楽しい時間を過ごすのであったな。この話題はもう止めよう」
「そうですよ。だから、私にカイル様の事を色々教えて下さい。私はもっとあなたの事が知りたいです」
カイル様は驚いたような表情を浮かべる。そして、フッと笑う。
「そうか。では、私の何について知りたい?」
「まず、王子というお仕事について知りたいです。カイル様は普段どんなお仕事をされているのですか?」
「そうだな、いつもは父である国王の手伝いのような事をやっている。父の仕事は法の整備や内政、外交など公の仕事のほぼ全域の決定だ。最近では私が外交の仕事を主に任されている。諸外国に行ったり、諸国の要人を我が国に持て成したりして、接待などを受け持っている」
「え、異国にですか? スゴいですね。私なんかこの国から一歩も出たことがないので、尊敬してしまいます。異国とはどのような所なのですか?」
「フム、例えば隣国ならば宗教の熱心な信者が多い。ゆえに戒律が多くて、こちらとの文化も色々と違う。だから、向こうの文化を理解しておかねば、失礼な事をしてしまったりするのだ」
「なるほど。異国の文化、宗教、その国の人達の風習など様々なことを勉強しておかなければならないのですね。大変そうです」
「うん。外交次第では戦争になりかねないからね。本当に気を使う大変な仕事だよ。分かってくれる人は少ないけどね」
カイル様は少し照れながら話をしている。そんな所もカワイイなと思いながら王子様を見る。
「君は普段、どんな仕事を?」
「私ですか? 前の当主様が今ひとつだったので、私が当主になって領地の内政や財政を行っています」
「え……」
カイル様が驚いた表情をする。
しまった。
”洗脳の悪魔”の力を借りて、元当主を洗脳し、私が影で操ってます、なんて正直に言えない。
私は言い訳を考える。
「あ、いえいえ。私も父のお手伝い程度ですけどね、ホホホホホ」
笑って誤魔化す。これでさっきの失言は帳消しに。
心配になり、カイル様を覗くように見る。すると、彼は目を細め私に応える。
「本当に面白い女性だ。食事が終わったら二人きりで散歩に行かないか?」




