洗脳と毒
私は急いで部屋に戻り、ドアを締める。
”毒の悪魔”に見つかった。ダヴィードは居ない。どうしたらいいの?
首を左右に回し、隠れ場所を探す。階段を登って来る足音が聴こえる。
いや、死にたくない。王子様にプロポーズされたのに。好きな人と結婚できるのに。
仕方ない。窓から飛び降りよう。
私は部屋の窓を見る。その時だ。
窓をぶち壊し、黒い塊が室内に入って来る。ガシャンと大きな音が再び別荘中に鳴り響く。私は開いた口が塞がらないまま、その黒い塊を確認する。入って来たのは、ダヴィードであった。
「アルダ、無事か?」
「えぇ、今のところは。でも、”毒の悪魔”がこの部屋に入って来る」
ダヴィードに応えながら、ドアを確認する。ドアはまだ開いていない。
「次のプランに変更だ。別荘を出る」
ダヴィードはそう言うと、私をお姫様抱っこする。
「ちょっと、どうするのよ」
「ここから飛び降りる」
「だって、ここ二階よ」
「大丈夫だ。俺は筋トレしているから」
意味が分からないと思った瞬間、部屋のドアが開く。と、同時にダヴィードは私を抱え、突き破って来た窓から飛び降りる。
「きゃあああああああ」
私は無意識の内に目を閉じ叫ぶ。すると身体にドンという衝撃が伝わる。
「良し、成功だ」
私は目を開け、周りを確認する。私はダヴィードの胸の中に居た。どうやら何事もなく、別荘の庭に着陸したみたいだ。
「信じられない」
私はそう呟きながら、彼の身体から離れる。そして、さっきまで居た部屋を見上げる。すると、黒のローブの男がこちらを見下ろしている。
「ダヴィード、逃げられないぞ、ヒヒヒ。周りは毒の霧で満たされている。どっちにしても終わりだ」
「お前がな」
ダヴィードは懐から液体の入ったビンを取り出す。それを別荘の玄関に投げ付ける。ビンは割れ、中から液体が溢れ出し、建物に付着する。そして、ダヴィードはマッチを取り出し、火を着ける。
「ダヴィード、何をする気だ?」
”毒の悪魔”が二階から叫ぶと同時に、ダヴィードは火の着いたマッチを液体の上に落とす。すると炎は大きく燃え広がり、別荘の扉を包んで行く。
「早く離れろ」
ダヴィードが私の手を取り、引っ張る。私達は急いで別荘から離れる。その瞬間、ドンと爆発するような大きな音が発せられる。私はビックリして、ダヴィードに訊ねる。
「何をしたの?」
「ビンに油を入れておいた。それを種火にして別荘を燃やした」
別荘は再びドンと爆発し、生き物のようにドンドン燃え広がって行く。
「それだけであんなに燃える? 何をしたのよ?」
「別荘の中に油と火薬を仕込んでおいた。爆発して、火事になっているのはそういう事だ」
驚き過ぎて、何も言葉が出て来ない。この悪魔、無茶苦茶だ。味方だけど、敵よりもヤバいかも。
じっと警戒した目でダヴィードを見つめる。
別荘は大きな炎を上げ、まさに大火事状態になっている。炎の結界のあるギリギリのラインまで私達は避難をする。それでも、火の粉が降り注いで来たり、炎の熱が皮膚に伝わる。
私とダヴィードは別荘が焼けて行くのと”毒の悪魔”がどうなったのかが気になり、状況を把握する。
すると、別荘は焼け崩れ、ガラガラと大きな音を立てる。私は驚いて、燃えている建物を凝視する。
「”毒の悪魔”は死んでしまったの?」
「いや、まだだ」
ダヴィードは炎の結界の外を見ている。毒の霧はまだ消えていない。白い霧は炎の周りを囲っていて、私達を閉じ込めている。
ダヴィードが燃え盛っている炎をじっと見つめる。そこから、動く物体が見える。それは人影に見えた。その人影はゆっくりとこちらに歩いて来て、姿を現せる。
それはシャツとズボン姿の”毒の悪魔”ポイゾネであった。どうやら自慢のローブは炎で焼けてしまったらしい。皮膚と髪の毛は焼けただれている。身体から煙を発生させ、こちらに近付いて来る。
何であの炎の中、生きてるのよ。化け物なの。
私は絶句してしまう。ダヴィードは私を庇うように前に立ち、”毒の悪魔”の動向を気にしている。ポイゾネはゾンビのような動きをしながら、唸り声を上げる。
「よくもやってくれたな、この卑怯者。魔法勝負じゃなかったのか」
「誰がそんな約束をした。生き死にの戦いに正々堂々も卑怯もないだろ」
ダヴィードは冷たく見つめ、冷たく返す。全身火傷を負ったポイゾネはダヴィードを睨み付け、憎しみを顕にしている。
そんな二人を見つめ、頭の中を整理する。
今、どっちが優勢なの? ”毒の悪魔”は明らかに遠距離攻撃型の魔法使いだ。近距離攻撃のダヴィードでも今の弱っているポイゾネなら勝てるの?
”毒の悪魔”ポイゾネが手を前に出す。ポイゾネは怒りに満ちた声でダヴィードを罵倒する。
「まさか、俺が毒の霧しか使えないと思っているのか。炎の前では俺はお前に勝てないと思っているのか。ふざけるな。凡人のお前は天才の俺には勝てない、ヒヒヒ」
その瞬間、ポイゾネの手から何かが発射される。シュシュという風切音が私の耳に入る。
すると、目の前にいたダヴィードが突然、膝を付き前に倒れる。
何が起こったのか私は分からなくて、呆然とその場に立ち尽くした。
読んで頂きありがとうございます。
これからも宜しくお願いします。




