勝つ自信が全く無い
「大丈夫。アルダの望み通りだ。他のヤツが死ぬ事はない。だって俺とアンタの二人だけだからな」
ダヴィ−ドは悪びれる様子もなく、淡々と話を続ける。
争いは嫌だ。それは他の人を巻き込むから。確かにそう言った。今回、その点はクリアされている。でも、自分から喧嘩を売るような行為を誰がして来いと言った。
私は拳を握り締め、プルプルと震え出す。怒りの感情が抑え切れない。
「何で自分から喧嘩を売って来てるのよ。バカじゃないの」
「そうか。俺は最善の選択をしたと思っているんだがな」
どこがよ、と私は思った。しかし、カイル様が私にプロポーズをして来た今、私の想定していた状況から一変した。
二人の貴族の女性からしたら、私という存在は邪魔者以外なんでもないのだ。つまり、欲しい物をどんな手段を使ってでも手に入れる彼女達からすれば、私を殺すという選択肢しかないのだ。
辞退するという戦略は使ったが、思いもよらぬ展開になった。確かに私にはもう打つ手はない。
戦うしかないという状況の中で、ダヴィ−ドが出した案は最善と言うべきなのかもしれない。私はそう思い始めて来た。
他の人達に死んで欲しくないという私の要望を満たした確かに良い方法だと納得して来る。
勝手な事をした悪魔を私はじっと見つける。
彼は私の気持ちなど全く無視していたのではなくて、一番私の気持ちを理解して行動してくれたのかもしれない。
ダヴィ−の見方が変わる。すると、突然私の中から違う感情が湧き出てくる。
今までは他の人達の命を心配をしていたが、途端に自分の命が惜しくなり始める。そう、誰も死んで欲しくないという表現には、私の命ももちろん含まれている。
恐る恐る頼もしい仲間の悪魔に私は尋ねてみる。
「ねぇ、ダヴィ−ド。もちろん宣戦布告したからには、他の悪魔に勝つ自信が有るんでしょうね?」
「いや、無い。特に”毒の悪魔”ポイゾネには全くな」
また驚きの告白を受ける。私は呆然として、また身体が固まってしまう。
「正直、”炎の悪魔”ファイス戦よりも厳しいと思っている。奴の毒の魔法は俺の天敵だ」
「毒の魔法ってどんな魔法なの?」
「毒霧の魔法。つまり、毒ガス攻撃さ」
ショックで私は天を見上げる。そんな毒ガスを巻かれた日には、どうやって対処すればいいんだ。逃げようが無いでしょ、と落ち込んでしまう。
そんなネガティブな気持ちになっていると、もう一つの重大な問題を思い出してしまう。
「”死の悪魔”は? ファシーお嬢様の方はどうするのよ?」
「あぁ、それなら今、心配しなくていいと思うぞ。状況から考えて、先に攻めて来るのはポイゾネだ」
「何でよ?」
「アゲリーナお嬢様の方がブチ切れてやがっただろ?」
「確かに」
あの状況ならそう考えるのが自然だ。でも……。
「”死の悪魔”も同時に襲って来たら」
「”毒の悪魔”が明日にでも動く事はドン家の奴等も推測するだろう。そうなると、奴等も毒ガスに一緒に巻き込まれるリスクを負う。そうまでして、俺達を攻撃しに来るか。いや、しないだろう。どちらが勝つか見定めてから動く。合理的な”死の悪魔”なら必ずそうする」
ダヴィードは力説する。私もそう言われるとそうなのかなと納得してしまう。
こうして、私達は"毒の悪魔"戦に向けて、別荘に移り準備するのであった。
* * * *
オガルコフ家の別荘は自然豊かな山中にあった。別荘は森に囲まれ、その脇に川が流れている。周りは誰も住んではいない。居るのは森に住む動物達だけだ。まさに人里離れたポツンと一軒家と言った所だ。
確かにここなら誰も巻き込まなくて済む。けど、逆を言えば、誰も助けに来ないと言うことにもなる。
不安と恐怖に駆られながら、私は別荘のドアを開ける。
別荘は丸太で作られたログハウス様式だった。中の作りは大きなリビングとキッチンが一階にあり、二階に小部屋が二部屋ある建物だった。
リビングにあるソファの上に私は坐り、窓の外を眺める。すると、一緒にリビングに入って来たはずのダヴィードがまた外に出ようとする。
「ちょっと、私を置いてどこに行くのよ? "毒の悪魔"が襲って来たらどうするのよ?」
「まだ大丈夫だろう。アイツもアゲリーナお嬢様が近くに居たら、毒の魔法は使えない。奴の魔法は毒ガスだからな。お嬢様を無事に屋敷まで送り届けてから襲撃すると仮定したら、早くても明日の早朝だろう」
「当てになるの?」
「さぁ、それよりも早く奴に来られたら、俺達の負けだ。準備無しでは俺もアンタも殺されるな」
そんな適当な事を言うなと、私はまたムッとしてしまう。
「今から奴に対抗する準備をして来る。アンタはこの別荘から一歩も出るな。分かったな、絶対だぞ」
ダヴィードはそう言って、別荘の玄関を出て行く。私は窓の外を見ながら、彼が山を降りて行くのを確認する。
一人ぼっちになった私は窓の外を見ながら、考える。
また戦いになるのね。今度も避けられない戦いが。
こうして、再び敵悪魔との戦いが始まるのであった。
小説を読む方は頭が良く、人の気持ちの分かる人だと聴きます。
そんな優秀な読者の皆さんの為に、面白い小説を書いていきますので、これからも読んで頂けると大変嬉しいです。
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