私が君を護る
「アゲリーナさんから花嫁候補辞退などと言うお話はされませんでしたか?」
動揺しながら、王子様に確認をする。信じられない、信じたくないという感情で呼吸が荒くなって来る。
「いや、そのような話は全くされなかったが。アゲリーナは私との結婚を望んでいて、私こそが花嫁に相応しいと熱弁していた」
王子様は眉根を寄せながら、応える。その言葉で、私は目を瞑り、うつむく。
アゲリーナさん、私を裏切ったの? 私達、お友達じゃなかったの? なぜ、辞退してくれなかったの? もし本当に辞退出来ない状況なら、そんな嘘をつかなくても良かったでしょ。
私は目を開け、王子様の顔を見る。
アゲリーナさん、貴方も他の貴族の娘同様、欲しい物はどんな汚い事をしても手に入れるタイプなのね。よく分かった、本当に残念だわ。
失意の中にいた私に対し、王子様が何かを察する。
「ヴァシリーサが私との結婚を辞退しようと申して来たのは、アゲリーナの件が関係しているようだね」
王子様の言葉で思わず黙ってしまう。アゲリーナさんに裏切られたショックと王子様にそのことを見抜かれた気まずさからだ。
私の目が左右に動く。王子様は私の顔を見ると小さうなずき始める。
「やはりそうなんだね。分かった。私が何とかしよう」
私は顔を上げる。王子様は優しく私を見つめている。
「好意を持った女性が悩み苦しんでいるんだ。助けないわけにはいかない。私が君を護る。この件は私に任せて欲しい。どうか私の元から居なくならないでくれ」
王子様は私に頭を下げる。身分の高い方からこうもお願いされると、無下に断ることが出来ない。再び考えが揺らぎ出し、私はどうしていいのか分からなくなる。
王子様が席を立つ。父である国王様を見て、歩き出す。私も急いで立ち、王子様の背中を見ながら、一礼をする。
こうして、王子様と三人の花嫁候補の会談の幕は下ろされた。あとは王子様の決断の結果を待つばかりとなる。
* * * *
王子様を中心として、王様並びに王族の皆さんが固まって相談をしている。我々三つの貴族の陣営は各々のテントで結果を待っている。どの陣営も落ち着かない様子でイライラを隠せていない。
オガルコフ家元当主サーガも緊張をして、あっちに行ったり、こっちに行ったりしてウロウロとしている。執事長も汗をびっしょり掻き、青ざめている状態だ。
そんなピリピリとした空気の中、オガルコフ家領のテントに二人の男女が歩いて来る。一人は黄色のドレス姿のアゲリーナお嬢様だ。もう一人は全身黒のローブを纏って、フードを深々と被っている男だ。
恐らくアゲリーナさんは私に用がある、そう思って私は彼女の前に立つ。すると、隣に居たダヴィ−ドが私の腕を掴む。
「あまり近付くな。ヤツが居る」
ダヴィ−ドは黒ローブの男を睨み付け、警戒心をあらわにする。そんな"洗脳の悪魔"と打って変わって、アゲリーナお嬢様は爽やかな笑顔を見せ、私に話しかけて来る。
「ヴァシリーサさん……、いや、アルダさん。王子様の件、どうでしたの? ちゃんとお断りの話をなさいましたの?」
やはり気になる点はそこのようだ。アゲリーナさんの裏切り行為に気付きながらも、私は平静を装って親しげに返す。
「王子様にはお断りを申しました。王子様は残念がっていらっしゃいましたけど、どう受け取られたかは私では分かりかねます」
「そう」
アゲリーナさんは顎に手を当て、考え込むような仕草を取る。私は確かめたい気持ちで、彼女に質問をぶつける。
「アゲリーナさんも、もちろん王子様にお断りの話をされたんですよね?」
アゲリーナさんの眉がピクリと動く。それから、表情を戻すようにまた爽やかな笑顔を見せる。
「当然ですわ。だって、私達、お友達ですし、約束しましたからね」
「王子様は何と申していましたか?」
「え、あぁ、残念だが、仕方ないなと申しておられましたの、ホホホ」
返事がぎこちない。私は表情を変えないように感情を抑える。
王子様が嘘をつくとは思えない。やはり、嘘をついているのはアゲリーナさん。
私は確信をし、唇を噛む。隣に居たダヴィ−ドがフッと鼻で笑う。全てを理解したような表情を浮かべ、私に意地悪を言って来る。
「なるほど。俺に隠れてコソコソと、そういう計画をしていた訳か。上手くいくと良いけどな」
不快な思いになり、ダヴィ−ドを睨み付ける。ダヴィ−ドは意に介さずに、バカにしたように私を笑い続ける。
私の気持ちを知らないで、勝手なことを。頭に来るわ。
腹が立ったので、”洗脳の悪魔”を無視し、再びアゲリーナさんに視線を戻す。彼女は私の視線に気付くと、笑顔に戻る。
「お互い、王子様にお断りしたならば、私たちが争う心配はないわね」
アゲリーナお嬢様はぬけぬけとそんな事を言い始める。私はどんな顔をしていいか分からず、作り笑いを浮かべる。
すると、アゲリーナお嬢様の隣の男がダヴィ−ドに声を掛けて来る。
「良かったな、ダヴィ−ド。俺達、戦わないで済んで。じゃないとお前、俺に殺される所だったぞ、ヒヒヒ」
黒ローブの男は不気味な笑い声で”洗脳の悪魔”を揶揄してきた。
読んで頂きありがとうございます。
これからも頑張りますので、宜しくお願いします。




