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胡蝶の夢 ~帰蝶転生記~  作者: 猫丸太郎
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三人称 斎藤利政の戦略

「……あらあら、急いで駆けつけたというのに、随分余裕がおありのようですね」


 己の傍らに侍る妻、小見の方の言葉に、斎藤利政は不敵な笑みとともに頷いた。


「4年前から阿呆守護のいる織田が動いた時点で、馬鹿坊主が頼りにしていた朝倉も呼応するのは読めておったからな。状況は厳しいが、想定の範囲内ならば焦る必要もあるまい」


「しかし、相も変わらず大殿は嫌われているようで。今回も数は劣勢、大義名分も守護を掲げるあちらにございますが?」


 尾張、越前の両面から美濃大垣に迫る織田、朝倉連合軍の数は2万以上。対する斎藤軍はアンチ利政を掲げる土岐派国人の参戦ボイコットもあり僅か5000程であった。


「うむ、この戦は負けだ。ならば負けによる傷を最小限に抑えることを考えねばな」


「もう、手を打っておられるので?」


「ああ、奴らの錦の御旗である阿呆と馬鹿を懐柔する。まずははるばる越前からお越しの上に、馬鹿坊主がまだ若く取り入り易い朝倉からだ」


 利政が小見の方に今後の展望を語っていると、彼の前に3人の息子達が姿を見せた。

 仏頂面の新九郎こと利尚、血気盛んな孫四郎、そして、不敵にニヤつく喜平次である。


「……父上。我らの準備は完了致しました」


「もう連合軍は大垣の目と鼻の先にまで迫っていると聞きます。すぐに援軍に向かうべきかと!」


「……ふむ、確かに大垣を抜かれては面倒なことになる。新九郎、直ちに軍を率いて大垣へと向かえ。補佐として長井隼人をつけてやる」


「はっ。叔父上とともに、必ずや大垣を救ってみせましょう」


「孫四郎、喜平次。お前達はまだ若い。此度はこの稲葉山にて待機しておけ」


「……はい……!」


「はい、父上」


「先に言っておく。儂は此度の戦、この稲葉山の城から一歩たりとも動くつもりはない。新九郎よ、お前は儂の指示がなくとも自分の力で考えて行動するのだ。よいな?」


「……はっ!」


 利政からの指示を聞き終え、三兄弟が部屋を出ていこうと背を向けると、小見の方が新九郎に向けて言葉をかけてきた。


「私からも一言……新九郎殿、こんな戦で命を散らすような馬鹿な真似は止《よ》すのですよ」


「……承知しました、母上」


 再び前を向き直って頭を下げてから、新九郎を先頭にして3人は部屋から出ていった。


 3人の足音が段々遠ざかり、完全に消えたのを確認すると、利政は静かに笑いはじめた。


「クク……こんな戦、か。お前もこの戦の価値が分かっていたようだな?」


「此度の戦は、腕や足よりも頭と口がものをいうのでしょう? 大垣での戦は、そのための時間稼ぎにすぎないのですから」


「うむ、下らん負け戦はさっさと終わらすに限るな」


 聡明さを見せる小見の方に利政は満足そうな顔をするが、逆に小見の方は少し不安そうな顔をしていた。


「……でも、子供達に何も教えないのは少し意地悪じゃありませんか?」


「……甘やかすな、小見よ。この程度自力で気づいてもらわねば困るわ」


「やれやれ……そんなのだからこのお方は嫌われるんでしょうねぇ……」

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