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ヤァム・リャーはソレが欲しい②

タイトル変更しました。ご迷惑をおかけします。


「へぇ、アナタたちも大変なのねぇ」


 そう言って森人(エルフ)美人、ヤァム・リャーはグラスの中の水を一気に煽る。


「ソレで神造迷宮(ダンジョン)を踏破して一獲千金を狙いたいから、ワタシをパーティーに誘ったわけだぁ」


 ヤァムは気怠そうにグラスの水を揺らして、ベッドに腰掛けて足を組み組み替える。


「お、おう。そうなんだけど。ソレよりよぉ」


「なんだか、ずいぶんお子ちゃまな事言ってんのねぇ。アナタたち。駆け出しの冒険者ってわけじゃ無いでしょう?」


 ゆらりとグラスを握る拳から人差し指だけを伸ばして、ヤァムはヴルフとミッファーを交互に指す。

 都合の良い夢を追って神造迷宮(ダンジョン)に甘い期待を抱くのは、年若いなりたての冒険者の特徴である。

 経験を積めば積むほど誰しもが神造迷宮(ダンジョン)の現実を知ってしまい、道中で採取できる魔植物や鉱石やアイテム、魔物から剥ぎ取れる素材などの堅実な手段で稼ぐ様になるのだ。

 だから『神造迷宮(ダンジョン)を踏破しよう!』などと公言する冒険者は意外に少ない。


「う、うん。見通しが甘い事はボクたちも充分思い知ったんだけど。ソレよりさぁ」


「まぁ、でもぉ。金貨7000枚以上の借金背負ってたら、そーいう夢にもすがりたくなるかぁ。別に嫌いじゃないよぉ? そーゆーの」


 クスリと妖艶で不敵な笑みを浮かべ、ヤァムはまたグラスの水を飲む。


「や、マジでソレよりもよ。アイツ、放っておいて大丈夫なのか?」


「い、いくらなんでも可哀想なんじゃ」


 ヴルフとミッファーはソレどころじゃ無い。

 先ほどまで室内に吊るされていた全裸の若い冒険者が心配で堪らないのだ。


「あ、良いの良いの。『満足させてやる』とか『俺のは凄いぜぇ?』とか『朝まで鳴かせてやるよ小鳥ちゃん』とか言ってたくせに、6回か7回で使い物にならなくなったあの子が悪いんだしぃ。大きさもそんな自慢するほどじゃなかったしねぇ。ワタシをガッカリさせた罰だわぁ」


 呆れた様に口をへの字に曲げて、ヤァムは窓の外に視線を移した。


『や、やめろぉ……見るなぁ……見るんじゃねぇえええ……誰か助けてくれええ……降ろしてくれぇえ……いっそ一思いに殺してくれぇ……』


 そこにいるのは、相変わらず手足を縄で拘束されたままの先程の若い冒険者だ。

 縄の先を太い窓枠に結ばれ、建物の外で風に揺られてぶら下がっている。もちろん全裸だ。

 その眼下では酒場から出て来た飲んだくれ達が、腹を抱えて笑って見ていた。

 生き恥である。


「あの程度の縛りも抜けれないなんて、銀等級のローグだって言うのも騙し(ブラフ)だったのかしらねぇ。安い口説き文句ばかり見事に並べるから逆に興味持っちゃって抱いたのだけれど、ハズレだったわぁ」


 艶かしいため息を吐いて、ヤァムはグラスをベッド脇のサイドテーブルに置く。

 いまだ身体には薄いベッドシーツのみが巻かれた状態で、その大きくは無いが形の良い乳房のシルエットが、頭頂部の突起物まではっきりと浮かび上がっている。


「んで、さっきの話なんだけど。ワタシの条件を全部飲むって言うなら、勧誘(スカウト)を受けても良いわぁ」


「条件?」


 疑問を呈したのは、ヴルフではなくミッファーだ。

 亜人である森人(エルフ)には人間(ヒューム)ほど恐怖心を抱かない彼女は、全裸男が窓に吊るされて以降は普通にヤァムに接する事ができている。

 吊るされる前は部屋にも入ろうとしなかった。


「そう、もちろんじゃない? 借金持ちで実績の無いアナタたちに手を貸す冒険者なんて多分いないわよぉ? だって、稼ぎにならないんだし」


「ああ、そこんとこは俺も考えてるんだ。分け前はきっちり当分で分けるし、多少色をつけても構わねぇ。踏破の道中で採れる素材も、優先的に渡そうと思ってるんだ」


「い、良いのヴルフ? 少しでも借金返済に充てた方が良いんじゃないの?」


 真面目な顔で応えるヴルフの外套を摘んで引っ張り、ミッファーが心配そうに顔を覗く。


「良いも何も、こんな状態の俺らに手を貸してくれるなんて何かしらの旨味が無いと誰も手を挙げてくれねぇよ」


 名目上、借金を背負っているのは借用書に名前のあるヴルフだけだ。

 本来なら銀の絆(シルヴァスタ)と言うクランが背負うべき債務を、冒険者組合(ギルド)が肩代わりしてくれているとは言え額が額。


 外野から見たら到底返せぬ額であるし、返済期限が二年に伸びていなければ、とうにヴルフは領主の兵に身柄を拘束されてどこぞの剣闘場で剣闘奴隷として見せ物になっていただろう。


 触らぬ神になんとやら。

 日々を刹那的に生きる者が多い冒険者は、皆金にうるさい傾向にある。

 儲けが出るかも分からないヴルフ達のプランに賛同する者など滅多にいないだろうし、最悪借金を擦りつけられるまである。

 

 警戒して当然だ。


「んで、ヤァムさんが出す条件ってな、どう言うのだ?」


「ヤァムで良いわよぉ? 森人(エルフ)人間(ヒューム)の年齢差なんて、幅が大きすぎてあってない様な物だしぃ。ワタシ堅苦しいの嫌いなのよねぇ」


 金色の髪をばさりと振り、ヤァムはまた不敵に笑う。


「わかった。俺も好きに呼んでくれて良い」


「ぼ、ボクも」


 見た目だけで年齢を推し量れない森人(エルフ)に、人間(ヒューム)の外見年齢との比較など意味のない事だ。

 10も行かぬ姿に見えて、もう二百年も生きているなんて、長命種族にはよくある事。


 あまり鎮護の森から出る事は無いとは言え、この街にも一定数の森人(エルフ)は暮らしているし、ヴルフもその内何人かと面識がある。


 彼・彼女らへの偏見はあまり無いのだ。


「そう、じゃあ好きに呼ばせて貰うわぁ。条件は三つねぇ」


 右手で三を示し、ヤァムはベッドから立ち上がる。


「一つは、何番目でも良いから、ある神造迷宮(ダンジョン)を踏破するのを手伝って貰いたいの。ここからじゃ少し遠いんだけど、北方の隣国との国境にある『夕月の神の庭』って神造迷宮(ダンジョン)ねぇ。知ってるぅ?」


「知らんな」


 あまり見識が深い方では無いヴルフには、住んでいるこの国でも知らない事の方が多い。

 この城塞都市アーハントのある王国南方とその近辺だけならまだしも、国境付近の事はからきしだ。

 たまに行く遠征先の依頼(クエスト)では周囲の情報も集めるが、潜る必要の無い神造迷宮(ダンジョン)などは基本ノータッチ。

 食糧や装備の補給先や宿泊施設の有無などがどうしても優先されてしまうので、仕方ないと言えば仕方ない。


「ボ、ボクは知ってるよ。魔素(マナ)が濃すぎて、二階層から下には誰も行けてない神造迷宮(ダンジョン)だよね?」


 一方で、こと知識に於いては豊富なミッファーはもちろん知っていた。

 あの研究室で四年間もの間引きこもっていたのは伊達では無い。

 研究はもちろん書物などもしっかりと読みあさっていたその道のプロの引きこもりである。


「そう、かつて一組の冒険者パーティーのみが、なんらかの手法を使って十階層まで辿り着いたらしいんだけど、その手法は謎に包まれているのぉ。すぐにとは言わないから、いつか攻略を手伝って欲しいわけ」


 ふむ、とヴルフは考える。

 今朝潜った『草原の神殿迷宮』などの、すでに踏破されている神造迷宮(ダンジョン)では最奥の財宝などたかが知れている価値しかなく、他の神造迷宮(ダンジョン)を攻略する必要がある事はもちろん考えていた。

 本気で金貨7000枚以上の財宝を手に入れるためには、未だに踏破されていない場所か、それなりに難易度の高い神造迷宮(ダンジョン)を攻略しなければならない。


「ミッファーは、どう思う?」


「高濃度の魔素(マナ)に関してはボクの研究分野だし、一度なりとも対処されているなら手がかりさえあれば再現できる自信はあるよ。程度にもよるけど、その神造迷宮(ダンジョン)を攻略するのは不可能とまでは言わない。可能性はあるね」


 珍しく胸を張って自信満々に応えるミッファー。

 史上最年少の『賢者(セイジ)』がそう言うのなら、そう言う事なのだろう。


「そっか。じゃあ、その条件は飲めるな。あと2つは?」


「二つ目は、神造迷宮(ダンジョン)で入手した魔導具を優先的に回して欲しいの。ワタシに不要な物と分かれば、もちろんアナタ達に差し上げるわぁ」


「魔導具だけ?何か探している物でもあるの?」


「ちょっとねぇ。『英雄級エピック』アイテムで一つ、どうしても欲しい魔導具があるのぉ。ソレを手に入れられたら、ワタシ死ぬまでアナタ達の味方をしてあげるぅ」


 ミッファーの問いかけに、ヤァムは茶化す様にわざとらしくウインクをした。


「『英雄級(エピック)ねぇ。まぁ、そりゃ全然構わないが。なんの魔導具なんだ?」


「な・い・しょ・よぉ?」


 唇に右手の人差し指を当て、芝居がかった口調でヤァムはヴルフの問いを誤魔化した。


 アイテム。

 これも冒険者達が日々血眼になって探す大事な収入源、かつ貴重な装備品だ。


 神造迷宮(ダンジョン)にランダム配置されている魔導具等にアイテムは、神々が戯れで放棄した物と一般的には言われている。

 魔導院や研究者の間では、前述した神造迷宮(ダンジョン)の存在を含めて今も議論が盛んに行われており、やはり確定的な論は出ていない。


 その取引価格や価値、希少性から段階に区別されており、一段階上がる毎に価値を増していくのだ。


 下から『通常(コモン)』。

 『希少(レア)』。

 『英雄級(エピック)

 『神性級(レジェンダリー)』の順番になっており、一般的な市場で購入できるのはせいぜい『希少レア』クラスのアイテム。


 これが『英雄(エピック)』アイテムにもなれば、安い物で城が立つと言われている。

 『神性級(レジェンダリー)』アイテムなどそれそのもの付属効果の価値だけで一国の国宝にも匹敵する、金銭価値すら計れない逸品中の一品。

 所持している冒険者など片手で数えられる程度しか存在しない。

 神性級(レジェンダリー)を片手に持つ。

 これは冒険者にとって一種の到達地点、目指すべき目標にもなっている。


「じゃ、じゃあ最後の三つ目は?」


「うふふふふ」


 薄暗い部屋の真ん中で、ヤァムは蠱惑的にほくそ笑む。

 見る者の心臓を鷲掴みにする、怪しげで美しい笑み。

 

 肢体の曲線が窓の外から差し込む街の灯りに照らされて、艶やかに輝く。


 一歩、一歩と爪先で床をなぞる様に歩くヤァムは、ヴルフの目の前まで来るとその頬を両手でそっと包んだ。


「ワタシねぇ。乾いてるの。ずっと、ずぅっとよぉ?」


 頬から首、首から外套と皮の胸当てに包まれた胸部。

 さらに腰、そして──────下腹部。


 強くもなく、かといって弱くもなく、絶妙に力が込められたその手は、確実にヴルフの皮膚に甘美な刺激を加えてくる。


 ミッファーはあまりにも官能的なその動きに、嫉妬から来る横槍を入れる事すら忘れて見入ってしまった。


 自らの本能の一部分、淫魔をルーツに持つ思考の一部が、熱を帯びながら肥大化していく。

 腹の下に重く溜まっていく、劣情と欲情が徐々に身体全体へと広がる感覚。


「三つ目の条件は、ワタシをずっと潤わせる事。これが一番難しいと思うのだけれど、譲れないの。もう我慢できないの。都ではあんまりにも乾いちゃうものだから、貴族の旦那様方を集めて毎晩愉しんでいたのだけれど、ついに奥様方にバレてしまってねぇ? だからこんなところまで逃げてきたのだけれど」


 ベッドシーツ越しにヴルフの身体と己の身体をすり合わせながら、徐々にヴルフの装備を剥ぎ取っていくヤァム。

 

 ヴルフは内心で(エッロっ!)と思いながら、その手を止めようとはしなかった。

 ちらりとミッファーの顔を見ると、頬を紅潮させて息遣いを荒く、そして短くしている。

 

 この部屋に充満する、先ほどの若い冒険者の精気の匂いの所為でもあるのだろうが、ヤァムの淫気と興奮したヴルフの体臭にも充てられている様だ。


 完全にヴルフの上半身が外気に晒される。

 鍛え抜かれ、研ぎ澄まされたその筋肉には、無数の切り傷が痛々しく残っていた。

 歴戦の証であり、戦士の誇りであるその傷を、美しき森人(エルフ)は愛おしそうに撫で、そしてそっと唇を添えた。


「アナタは、ワタシの乾きに水を注いでくれる?」


 二日続けて、こうなった。

 ミッファー、そしてヤァムといった見目美しい妙齢の女性に誘われて男として嬉しく無いわけでは無いが、莫大な借金を背負っている分際で快楽に溺れてしまうだなんて、墜ちるところまで堕ちてしまったのでは無いだろうか。


 そんなヴルフの思考を妨げる様に、冷たく柔らかい感触が腕に触れた。

 ミッファーの手だ。


「ヴルフ、あの。えっと、ボク、も」


「……はぁ」


 とろんと溶けた大きな瞳が、滲む涙で濡れてきらりと輝く。

 完全に淫魔としてのスイッチが入ったミッファーにせがまれてしまえば、ヴルフに逃げ場など無い。


「……いいさ。やってやるよ。あんまり期待されるのもアレだが、後悔すんなよ? ん? これ昨日も言ったな」


 相手は二人、それも普通の女性とは違って、男を貪り食らう淫らな獣。

 覚悟と皮肉と負け惜しみと、色んな意味合いを込めて捨て台詞を残し、ヴルフは二人を抱き抱えて勢いよくベッドに倒れ込んだ。

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