ギルドから依頼を受けよう!①
「アナタ達にはぁ、基本の『き』から教えなきゃいけないみたいねぇ。特にアナタ」
ここは『草原の神殿迷宮』。
前日にヴルフ達が尻尾を巻いて逃げ出した初心者向けと言われている神造迷宮の薄暗い通路だ。
階層は地下三階層。
神造迷宮としての特性すらまだハッキリとしない、謂わば入口付近である。
そんな場所でヤァムは、その細い身体に巻きつけるように腕を組んで、呆れたようにため息を吐いた。
肩を大胆に露出した皮の鎧に、丈の短いショートスカート。膝下まで長いロングブーツにポンチョと言う、身軽さを重視した装備。
得物は短弓。矢は至って普通の物だ。
腰のベルトに二本挿したナイフは、未だ使う場面が訪れていない。
『狩人』』と『ローグ』の上位職である、『遊撃手』を代表するオーソドックスな装備だ。
「そ、そんなダメかな? 威力の小さい『火炎』だけ撃つようにしてるんだけど」
指摘されたのはミッファーだ。
魔法職らしいぶかぶかのローブに身を包み、その下には趣味と見栄えの良さだけで選んだ露出の高いマジックドレスを着用している。
ちなみにどれだけ露出が高いかと言えば、胸元中央からヘソと鼠蹊部の上半分までが完全に地肌で、尚且つ紐状の下着が見えそうで見えないレベルの短さのスカート。
さらには首紐のみで吊るされたそのドレスはとてもじゃないが布地が多いとも言えず、見た目だけで言えば防御力なんてあるとは思えない。
だがこのドレス、『耐魔の夜装』は価値にして言えば金貨一枚分はある英雄級アイテムの一つ。
魔導院を出た時にその功績を称えられ、記念として贈呈された歴とした魔導装備の一種で、耐魔法効果を装着者の魔力に応じて上昇させるという破格の逸品である。
通称『千呪の賢者』と呼ばれるミッファーが着用する事で、ほぼ全ての魔法を打ち消すと言う反則級のアイテムだ。
「こんな底階層で支援なんて要らないわよぉ。最下層まで降りるのが目的なら、序盤は魔力を節約するのが魔法職の役目。ほらぁ、あの子全然余裕あるのに、アナタが後ろから魔法なんて撃つから動きがぎこちないじゃない?」
「あ、そ、そっか。ボク、何かしなきゃって思ってつい」
「それに基本的には、後衛は指示を待つのが仕事ぉ。前衛と後衛が戦況を判断して、もっとも欲しい効果の魔法をちょうど良いタイミングで撃つのぉ。息のあったパーティならともかく、アナタたちみたいなひよっこじゃお互いがお互いを邪魔しあってるのと同じよぉ?」
「ボ、ボク、何か役に立たなくちゃと思って」
「良いのよぉ。魔法は切り札。一発で戦況を変えうる最強の手段よぉ? 特にアナタみたいな強力な魔法の使い手は、存在するだけで安心感が違うんだからぁ。ドンと構えてなさい?」
甘い語尾で語りながら、ヤァムはミッファーの顎を人差し指で持ち上げた。
「う、うん。わかった」
本来人間恐怖症であるミッファーだが、亜人である森人のヤァムには、同性という事もあってか比較的普通に接する事ができている。
もっとも、共に同じ男に抱かれて一晩を過ごしたという謎の連帯感もあってか、初対面を果たしたばかりにしては気安いぐらいだ。
「それにしても凄いわぁアナタ。あれだけ魔法を無駄打ちしていたのに、まだ魔力に余裕があるの?」
さわさわとミッファーの顎をさすりながら、ヤァムは感嘆した。
その所作の一つ一つに過剰なまでの色気があり、半淫魔のミッファーですら魅惑されそうになる。
同じ女として、尊敬すら抱くほど美麗だ。
「う、うん。あれぐらいだったら全然余裕だよ? そ、それに二日続けて、ヴルフにいっぱいシて貰ったし。いっぱい、注いでもらったから……えへへ」
「そうねぇ。確かに凄かったわぁ。こんなに潤ったのなんて何十年ぶりかしら。いえ、もしかしたら初めてかも」
自分の頬に手を当てて、ヤァムは熱い吐息を吐いて頬を染める。
うっとりと今朝までの出来事を反芻し、思いを馳せた。
それを見ているミッファーも、釣られて自分の下腹部に手を当てる。
腹の少し下、股の少し上。
淫魔が精気をため込む場所で、女が子を孕むその箇所に、数時間を経てなお未だに『ヴルフの熱』が籠もっている。
あの興奮と多幸感を思い出し、愛おしさが溢れ腹を撫でる。
「あんな男滅多にいないんだから。放しちゃダメよぉ?」
「ボ、ボクとヴルフは別にそんな関係じゃ。あ、あの、時々ボクが『ご飯』を集ってるだけだよ?」
「あらそう? それにしてはあの時、ヤケに熱の籠もった愛の言葉を鳴いてたじゃなぁい?」
「なっ、鳴いてないよ! 気のせいだよきっと!」
「そんな事言ってぇ、実はかなり入れ込んでるんじゃなぁい? ほぉらほら、お姉さんに言ってごらんなさい?」
「い、入れ込んでるとか! そんな!」
「自分の気持ちに素直になれば、アレだっていっそう気持ちいいわぉ?」
「う、うぅ。苛めないでよヤァム」
「うふふ、ごめんねぇ? だってアナタ、とっても可愛いんだもの」
いじけるミッファーの身体を、ヤァムが優しく抱きしめてベタベタと触り出す。
形の良い胸の谷間から、少しだけだらしない腰の線。
綺麗なヘソは触れるか触れないか、耳の後ろは優しく撫で、背中は中心をなぞるように。
「あっ、やっ、ヤァム、駄目だよぉ」
「んふふ。何この子、こんなイヤらしい身体で、それに感度もビンビン。いじめたくなるわぁ。可愛いわぁ」
「あっ、ヤァム、ダメっ」
もぞもぞとミッファーの身体を探るように動くヤァムの手は、まるで得物を優しく締め殺す蛇のよう。
だんだんと昂っていく己の性感に抗いながらも、ヤァムにされるがままにミッファーの意識が桃色に染まっていく。
「小さなプリップリのお口、頂いても?」
「ふぇ、あ、あの」
「残念、時間切れ──────」
「──────良い加減にしてくんねぇかなぁ!」
大剣をぶんぶんと振り回して大型の鼠型魔物である太鼠の群れを捌いていたヴルフが、痺れを切らして大声を上げた。
「ねぇ! 俺さっきからずっと一人でコイツら相手にしてんだけどさ!」
時間にして20分ほど。
大して強くはないがその群れの多さだけはどの魔物より厄介なこの太鼠相手に、たった一人で対処していた。
別に苦戦しているわけじゃないが、自分が働いている後ろで余裕たっぷりの百合劇場なんて開かれたら、文句の一つも出る。
「だぁってぇ、通路が狭すぎて前衛にも出れないし矢も撃てないし、魔法はさっき言ったみたいに邪魔になっちゃうしぃ」
「て、手を貸そうにも逆に足手まといになっちゃいそうで。えへへ」
我を取り戻した女子二人が、悪びれもなくそう告げる。
言ってる事がもっともすぎて、ヴルフも反論ができない。
ヤァムはその装備構成から、ナイフにより近接攻撃もできなくはないが、如何せん威力には欠ける。
ミッファーはそもそも魔法の腕を知識以外は、素人同然。
前線に出たら、太鼠程度でも簡単にやられてしまうだろう。
ならばこの場面はヴルフの出番。
大剣の一振りで十数匹を葬る事ができ、さらにスタミナも充分ならば動作速度も充分。
むしろそれ以外の対処法が無いまである。
ここが狭い通路でなければ、ミッファーによる高威力の魔法で簡単に殲滅できるだろう。
ただし彼女の魔法はこの神造迷宮の硬い地盤すら抉る威力。
下手をすれば全員生き埋めになりかねない。
「あーっ! 糞っ! お前ら何匹出てくんだよ!」
怒りを苛立ちを込めた渾身の一撃が、魔物の群れを両断する。
だがまたすぐに新たな魔物がで地面が見えないほど溢れかえった。
後方、ヴルフ達が来た方向からは一匹も魔物の姿は見当たらない
だが前方は数えきれないほどの太鼠達で埋め尽くされている。
「もう一人、前衛がいたら楽なんだけどねぇ。戻ったら探してみる?」
「そ、そうだね。これだと、ヴルフばっかりが大変だし」
「この群れはこう言うトラップなのかしらねぇ。頭数さえいれば大したことなさそう」
「それにしても、ヴルフは強いなぁ」
「ええ、相当ね? あれで神造迷宮未体験だなんて信じられないわぁ」
「色々事情がね?」
「帰ったら詳しく聞きましょうか」
「うん。ヤァムには言っておいた方が良いと思うし」
まだ抱き合ったままの女子二人が、暇そうに会話をしている。
ヴルフはそれを聞きながらもなお、すでに作業と化した殺戮に精神を磨耗していった。
「手応えもなけりゃ際限もないのかよ! がぁあああああっ!」
もはや型も構えもあったもんじゃない。
ただガムシャラに剣を振れば、それだけで数匹の魔物が死んでいく。
この作業は、その後三十分ほど続いたのだった。





