旅立ちの日
皆さん、こんにちは!
いつも読んでくださって本当にありがとうございます。
作品の感想はいかがでしょうか?
楽しんでいただけていたら、とても嬉しいです。
実は、以前からこの作品を漫画化したいと考えていて、友人と一緒にPixivで漫画版を投稿することにしました。
小説も続けていく予定ですが、漫画の方が自分にとって表現しやすく、また海外の読者にも伝えやすいと思っています。
それと、もし小説の日本語に不自然な部分があったら申し訳ありません。
私はブラジル人なので、まだまだ日本語を勉強中です。
漫画制作に集中するため、今後の更新は毎週月曜日の19時に変更させていただきます。
これからも一生懸命頑張りますので、引き続き応援していただけると嬉しいです。
いつも読んでくださり、本当にありがとうございます!
小屋の前には馬車が待っていた。
一馬は鞄を担ぎ、戸口に集まった家族を見つめる。
マリアは微笑みながら、自分の髪を整えた。
「じゃあね、息子よ。それに覚えておきなさい、男爵の家で居心地が悪いと感じたら、いつでも帰ってきてもいいんだからね」
一馬は小さく微笑んだ。
「うん、母さん。ありがとう」
霞がすぐさま彼の袖を引っ張る。
「お兄ちゃん!」
「ん?」
「帰ってくる時、美味しいお菓子買ってきてよねっ!」
一馬はふっと笑った。
「ああ、任せろ」
マリアが娘の頭を撫でる。
「きっとお兄ちゃんは、お菓子をいっぱいに詰めた鞄を持って帰ってくるわよ」
霞の目が輝きだした。
「鞄いっぱいに!?」
「もしかしたら二つかもな」と一馬が答える。
「ええーっ!」
霞は飛び上がって喜んだ。
一馬はその光景を数秒間見守る。
それから歩み寄った。
まず母親を抱きしめる。
続いて妹を。
しっかりと力を込めて。
「二人とも、寂しくなるな」
マリアは彼を抱き返した。
「私たちも寂しくなるわよ、一馬」
霞は彼の胸に顔をすり寄せた。
「早く帰ってきてね、お兄ちゃん」
「ああ、戻ってくるさ」
少しの間を経て、彼は体を離した。
自分の鞄を掴む。
深く息を吸い込んだ。
そして馬車に乗り込む。
車輪が回り始めた。
ゆっくりと。
小屋が遠ざかっていく。
一馬は窓からずっと振り返っていた。
マリアと霞がそこに佇んでいる。
手を振って。
笑顔で。
やがて地平線の小さなシルエットになるまで――。
三ヶ月後。
馬車の揺れはすっかり日常の一部となっていた。
窓に寄りかかり眠っていた一馬は、声をかけられて目を覚ます。
「一馬さま、到着いたしました」
彼はゆっくりと目を開ける。
「ん……」
御者が外で待機していた。
「もう着いたのか?」
「はい、一馬さま」
一馬は馬車から降りた。
そして絶句する。
「うわ……」
目の前にそびえ立っていたのは、巨大な屋敷だった。
装飾された噴水。
手入れの行き届いた庭園。
空に届きそうな尖塔。
住居というよりは、まるで宮殿のようだった。
正面玄関の前には、隙のない黒スーツを着た男が立っている。
一馬が近づくやいなや、その男は深々と頭を下げた。
「おはようございます、一馬さま」
一馬は飛び上がりそうになった。
「あっ! そんなことしなくていいです!」
執事は片方の眉を上げた。
「さま……ですか?」
「俺は貴族じゃないですし」
一馬は自分自身を指さす。
「だから、頭なんて下げないでください」
男は数秒間沈黙した。
「かしこまりました」
それから優雅な姿勢に戻る。
「ヴィルヘルム・フォン・シュラーデンさまが、応接室でお待ちです」
「あ……そっか」
「では、ご案内いたします」
一馬はうなずいた。
「お願いします」
二人は廊下を歩き始めた。
数分後、一馬の目は丸く見開かれていた。
「嘘だろ……」
廊下がいつまで経っても終わらない。
「この屋敷、外から見たより中の方が広くないか!?」
執事は落ち着いたトーンで答えた。
「それは、ヴィルヘルムさまご自身が構築された空間歪曲魔法によるものです」
一馬はつまずきかけた。
「あの人が発明したのか!?」
「はい」
「そんなことできるなんて知らなかったぞ……」
「ヴィルヘルムさまは、王国屈指の魔導学者でいらっしゃいますから」
しばらくして、執事は巨大な両開きの扉の前に立ち止まった。
「到着いたしました」
トントン。
彼は二回ノックした。
「ヴィルヘルムさま。一馬さまがお見えになられました」
向こう側から声が響く。
「一馬が着いたか? 通してくれ」
「かしこまりました」
執事が扉を開ける。
一馬は深く息を吸い込んだ。
そして足を踏み入れた。
部屋の中央、山のような書類に囲まれて、ヴィルヘルム・フォン・シュラーデンが座っていた。
一馬は即座に頭を下げる。
「おはようございます、ヴィルヘルム・フォン・シュラーデンさま」
男は書類から目を離した。
それから立ち上がる。
そして彼の方へと歩いてきた。
コツ、コツ、コツ。
一馬に冷や汗が流れる。
『なんでこっちに向かって歩いてくるんだ?』
『もしかして何か失礼なこと言ったか?』
『いや……ちゃんと挨拶したはずだ』
『貴族って本当に些細なことで首を刎ねたりするのか?』
『くそっ……』
『俺の首が飛ぶぞ』
ヴィルヘルムは彼の目の前でピタリと足を止めた。
「一馬」
「は、はいっ!」
「その馬鹿みたいな格好はやめて、こっちに来てハグをさせろ」
「は……?」
反応する間もなく、力強く引き寄せられた。
一馬は完全に固まってしまう。
ヴィルヘルムは豪快に笑った。
「我が親友の息子が、ここまでかしこまる必要があると本気で思っているのか?」
彼は一馬の肩をポンと叩いた。
「よく来てくれた」
一馬は何度もまばたきをする。
「あ……」
「さあ、座れ」
ヴィルヘルムは椅子を指さした。
「話したいことが山ほどある」
それから扉の方に目を向ける。
「アルフレッド、我々に紅茶とビスケットを持ってきてくれ」
「かしこまりました、ご主人様」
執事は一礼して退出していった。
数瞬後、二人は向き合って席に座る。
「それでだな……」
一馬は喉を鳴らした。
「ヴィルヘルムさま……」
「待て」
「へ?」
「ヴィルヘルムさまと呼ぶな」
彼は葉巻に火をつけた。
「ヴィルヘルムだけで十分だ」
「わかった……ヴィルヘルム」
男は満足そうにうなずいた。
「その方がいい」
一馬はチャンスとばかりに尋ねる。
「いったい、どうやって父さんと知り合ったんだ?」
ヴィルヘルムはふっと笑った。
「ロベルトとは子供の頃からの付き合いさ」
「マジで?」
「同じ街で育ったんだよ」
葉巻の煙がゆっくりと立ち上る。
「あいつが冒険者を目指して夢中になっていた頃、俺は商売の世界へ進んだ」
「じゃあ、元から貴族だったわけじゃないのか?」
「はははっ!」
ヴィルヘルムは吹き出しそうになった。
「貴族だと?」
彼は自分自身を指さす。
「俺なんて、ただ運が良かっただけの商人崩れさ」
一馬は目を見開いた。
「想像もつかないな」
「大抵の奴はそう言うさ」
ヴィルヘルムはテーブルに肘をついた。
「で、ロベルトの野郎はどうしている?」
一馬の表情に笑みが浮かぶ。
「元気だよ」
「相変わらずの化け物か?」
「相変わらずだな」
「それを聞いて安心したよ」
ふと、ヴィルヘルムの表情が和らいだ。
「シャルロットを庇ってあいつが片腕を失ったと聞いた時は、さすがに心配したがね」
「……」
「本当に心配したんだぞ」
数秒間の沈黙が流れた。
それから、一馬は意を決して切り出した。
「話を変えるようで悪いんだけど……なんで俺がここに呼ばれたんだ?」
「おっと!」
ヴィルヘルムは自分の額を叩いた。
「そうだったな」
彼は苦笑いを浮かべる。
「これだから歳をとると昔話に花が咲いていかん」
一馬は苦笑する。
「よくあることさ」
「お前の父親から手紙が来てね。この辺りで有望なガキどもを鍛え直す予定があると言ったらな」
ヴィルヘルムは腕を組んだ。
「お前も一緒に放り込んでくれと頼まれたのさ」
一馬の心臓が跳ね上がった。
「仲間が……いるのか?」
「ああ」
「他にも生徒が?」
「何人かな」
ヴィルヘルムは不敵な笑みを浮かべた。
「なかなか面白い顔ぶれだぞ」
一馬には嫌な予感がした。
「全然安心できない響きだな……」
「はははっ!」
ヴィルヘルムは彼を指さす。
「お前は本当に父親そっくりだな」
「今のって褒め言葉か?」
「まあ、これから決めるさ」
老人は背もたれに深く体を預けた。
「だがな、一つだけ保証してやる」
その目が急に鋭さを帯びた。
「もしお前が、ロベルトの持っている剣の才能の半分でも受け継いでいるなら――」
彼の口元にゆっくりと笑みが広がっていく。
「あいつらにとって、これ以上ない最高の鍛錬相手になるはずだ」




