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ひとめぼれ  作者: いむ


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第1話:プロローグ

中1の夏前、中学校に入学して落ち着いた頃、駅前のカラオケに訪れていた―――


「――よし、九十二点! 完全に俺の時代キタわこれ!」


マイクを両手で握りしめ、採点画面を見上げて大騒ぎする。それが俺、一ノ瀬圭介いちのせけいすけだ。

自分で言うのもなんだが、俺はおしゃべりで、ちょっと不真面目で、とにかく歌うことが大好きだった。テストではたまにとんでもないケアレスミスをして自爆するくせに、こういう「本番」だけは無駄に強い。


「もー、圭介くんうるさい。声大きすぎだよぉ」


隣のソファーで、ストローをくわえたままクスクス笑っているのは恩田優愛おんだゆい

同じ中学に入って同じクラスになった、気の合う友達だ。兄弟の繋がりもあって、たまにアイツの家に遊びに行くくらいの、気を使わない距離感。学校の行事でもあまり目立たない大人しい奴だけど、ちょっとおバカで、どこか放っておけない雰囲気がある。


「はいはい、圭介の歌はもういいから。それよりさっき言ってた『重大発表』って何? 早く話しなよ」


ポテトをつまみながら、もう一人の女子(優愛の親友)が早くしろと俺を急かしてきた。

対面に座る俺の親友の男子も、「そうそう、もったいぶるなよ」とニヤニヤしている。


ドリンクバーから全員が戻り、フライドポテトを囲んだタイミング。

俺は急にガタガタとソファーに崩れ落ち、両手で頭を抱えて深いため息を吐き出した。普段のお調子者の仮面が剥がれ落ち、胸の奥にある「傷つきやすくて繊細な本音」が顔を出す。


「……ヤバい。俺、どうしたらいい?」

「え、何? 急にガチなトーンになるじゃん」


女子二人が顔を見合わせる。俺はすがるような目で、集まった三人の顔を見つめた。


「桜井だよ……。小学校のとき、塾でずっと片想いしてた桜井穂夏さくらいほのかに、この前……街で再会しちまったんだよ」


部屋の空気が、一瞬で変わった。

対面の親友男子が「はあ!? マジで言ってる?」と声を荒らげる。

そして、優愛の親友の女子は、一瞬だけ隣の優愛に視線を走らせた後、少しだけ低くピリッとした声で言った。


「……あの、圭介がずっと引きずってた、その桜井さん? で、再会してどうしたの?」

「相変わらずおっとりしてて、優しくて……話してるだけで、心臓のバクバクが止まらなくてさ。俺、やっぱりあいつのことが好きだ。……なあ、俺、どう接すればいいんだろう・・・?」


恥ずかしさを捨てて、必死にみんなに意見を求める。

親友の男子は「いやいや、今更そんなの……」と頭をかき、優愛の親友の女子は、どこか冷ややかな目で俺を見つめている。


だけど、当時の俺の頭の中は、再会したばかりの初恋の人――穂夏のことでいっぱいだったのだ。


――僕はまだ、このときは優愛の気持ちに気づいてやれていなかった。おしゃべりで自分のことばかり話すくせに、一番近くにいる女の子の、あのひどく切なそうな瞳の意味を、何一つ分かっていなかったんだ――


「あのさ、恩田はどう思う?」


俺は、一番話しやすいはずの優愛に向かって、助けを求めるようにぽつりと問いかけた。


優愛の身体が、かすかに強張ったように見えた。

メロンソーダの水滴を指先でなぞりながら、優愛はゆっくりと視線を落とす。みんながいる前だから、いつものように「えへへ」と笑おうとしているけれど、その口元は少し震えていた。

そして、今にも泣き出しそうな、ひどくしっとりとした切ない表情のまま、俺を見上げて優しく微笑んだ。


「……私なら、そんな風にずっと想ってもらえたら、すっごく嬉しい、かな。……頑張って、圭介くん」


優愛の親友の女子が、小さく奥歯を噛み締める音がした。


その言葉の本当の意味を、俺が知る由もない。

「だよな! よし、俺、もう一回桜井に連絡してみる!」


――あれ?なんでこうなったんだっけ――

意識が朦朧とする中、脳内に今までの記憶、全て、全てが洪水のように流れた

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