エピローグ
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続編 第二部準備中です
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出迎えのためにアーサーの邸を訪れた、フレデリックとリディア。
それぞれの胸中は複雑だった。
フレデリックは、リディアに避けられてショックを隠せないでいた。
いったい、どこで間違えたんだ……。
記憶喪失のふりは、我ながら上手くできたと思うのに。
本当は別れたくないんだ。あの時は怖かったんだ。結婚してほしいと素直に言う勇気がでなかった。
もし、断られたら、二度とリディアに会えなくなるのではないかと思ったんだ……。だから、契約という関係ならば、受け入れてもらえると思って。
アーサー、なぜ今頃になんて戻ってくるんだ。お前のことが嫌いになりそうだ。
街へ出かけた時は、リディアも頬を染めていた。あの表情は、私のことを意識してくれているということではないのか? 違うのか。そんなにアーサーのことが好きなのか。
ベッドに押し倒してしまった時、怖がらせてしまったのか。あの時は、感情が制御できず……。
ジェームズに散々罵られて反省した。だから、街へ出かけた時は、素直に気持ちを伝えたのに……。なぜ、分かってもらえないんだ。私は、ずっと、リディアのことが……。
どうして、今日は、エスコートもさせてくれない?
視線を合わせてくれないんだ?
折りたたんだ離縁届けを、ポケットに忍ばせているのはなぜだ?
くそっ!街へ出かける前に処分しておくべきだった。デートできることに浮かれて、リディアが署名していることに気づかなかった。一生の不覚。
アーサーを殴り倒し、強引に連れ去ってしまおうか。
だめだ、そんなことをすれば、リディアに嫌われてしまう。
どうしたらいいんだ!
あれは、アーサー?
リディアは、泣き腫らし腫れた瞼を隠すようにベール付きの帽子を被っていた。
フレディ、ごめんなさい。あなたの顔を見ることができないの。あなたの顔を見たら、私、泣きじゃくって縋ってしまいそうで……。
だから、今までのお礼も言えなくてごめんなさい。差し伸べられた手を避けてしまってごめんなさい。
なるべく近づきたくない。エスコートされたら、離れがたくなる。
あなたの逞しい胸板に、顔をうずめてしまいたくなるから。
自分の名前を書くだけなのに、なかなか書けなかった。
あなたが迎えに来た瞬間、震えながら署名をした。急いで折りたたんでポケットに入れたけど、どうして何も言わなかったの?
離縁届、見えていたよね? 思い出したんだよね?
冷たい眼差しを向けられた。まだ署名していなかったのか、と、あなたの心の声が聞こえるようだった。
ここへ来る道中も馬車内でも、あなたの視線を感じた。口を開きかけたかと思うと、眉間に皺をよせて黙りこんでいた。
重たい雰囲気に押しつぶされそうだった。
何か言いたいことがあったら、言ってほしいのに。こうして、会うのは最後かもしれないのに。
アーサーと話し終えたら、この街を離れようと思う。
着古した騎士服を見に纏った銀髪の青年が馬車から降り立った。
人懐っこい笑みは、あの頃と変わらない。
「アーサー……っ!」
フレディ⁉︎ どうしたの?
フレデリックは、リディアのポケットから離縁届けを奪い取る。
「すまないアーサー‼︎ もう少しだけ、もう少しだけ時間をくれ! 私自身の気持ちと決着をつけてくる!」
「って、おーい、どこ行くんだよ!」
リディアがアーサーの名前を口に出した瞬間、フレデリックの理性の糸はプツリと切れてしまった。
だめだ、だめだ、だめだ
渡したくない!
フレデリックはリディアの腕を掴むと、急いで馬車へと連れ込む。
「乱暴なことをしてすまない、リディア、でも、この離縁届は認めるわけにはいかない!」
御者へ合図を出し、カーテンを閉めると、リディアを囲いこむように両腕を壁につく。リディアは逃げることもできない。
「フレディ、ど、どうしたの?」
戸惑いながらリディアが口を開くと、フレデリックはその唇に覆い被さっていた。
「んん⁉︎」
何が起こっているの……?
どうして離縁届けを持ち去ったの。
く、苦しい……。
フレディを押し除けようとしたものの、力に敵わず強引に迫られる。
フレディ……やっぱり離れたくない……あなたが好き。
ずっと、触れて欲しかった。
何も考えられずに、フレデリックに身を委ねる。
強請るように、そっと目を閉じる。
「だめだろ……いいのか……私はなんてことを……」
時々意味不明な呟きを漏らすフレデリックだったが、リディアを抱きしめて、切なげな声を発する。
「リディア……行かないでくれ! 私を選んでくれ!好きなんだ……君の気持ちを大切にしたいが……。
アーサーから奪ってでも私のものにしたい! 非道な私を受け入れてくれないか……。
嫌なら本気で抵抗してくれ。悪いが、もうこれ以上は限界だ」
フレデリックの瞳には、乱れたリディアが映っていた。
自身の姿が彼の瞳の中にいることが嬉しい。あなたの瞳に、私がいる。私だけのフレディ。
「私も、好き。ずっと……好き……フレディ」
思いがけないフレデリックの告白に、嬉しさのあまりリディアの頬にはひとすじの涙がつたっていた。
その涙に吸い付くように、フレデリックは頬にもくちづけていく。
「それは……アーサーよりも……?」
フレデリックの吐息が荒々しく獣のようになっていた。妖艶な眼差しでリディアに問いかける。その返答次第では、何かされてしまうのではないかと不安になるような雰囲気だった。
「ずっと、誤解してるわ、アーサーのことは、友人としか思っていないの。あの時も……本当は……フレディ、あなたに告白しようとしたの!」
「本当……なのか……」
そこから、どうなったのか記憶があやふやだ。
きつく抱き締められて……。
何度も想いを確かめあうように、唇を重ねて……。
ずっと欲しかったフレディの温もりを、身体中で感じることができた。
ふわふわとした心地で、目覚めるとベッドの上だったから。
フレデリックは、自身の腕枕で眠るリディアの寝顔を見て、長年の夢が叶ったことに幸せを感じていた。
「かわいいリディア……」
リディアの柔らかな髪を撫でながら、フレデリックは思う。
「何かを忘れている気がする……」
7年ぶりにアーサーと再会するのは、まだ先の話。




