婚姻届の行方
「フレディ……待って、どうしたの、もう、この絵のことは聞かないから……ひゃあっ」
リディアは壁に見慣れない絵が飾っていたので、フレデリックに尋ねたのだ。
「きれいな朝日ね」と。
「夕日だ!」と、ガンとして譲らないフレデリックから、唇を奪われたかと思うと、寝室へと運ばれていた。
◇ ◆ ◇
その夜の執務室にて一一。
フレデリックは、リディアに問われた絵画を取り外し、裏面に隠しているものを眺める。
ブランデーを注いだグラスからは、カランと氷の音がする。
「あぁ、いい……これを、私に渡すために……ここの文字が少し波打っているな。緊張しながら書いたのだな、いい、これを私のために……」
かつて、自身へと渡されるはずだった婚姻届。
先日アーサーより手に入れたものだ。
アーサーの帰還パーティーにはリディアは欠席させたが、まさかあいつがリディアに会いにくるとは予想外だった。
早々に婚姻届は奪い返し、帰らせたものの、リディアに来客があったことが知られてしまった。
ぐぬっ、許せん!
アーサーにはもう一度釘をささねば!
色褪せて、少し擦り破れている婚姻届を丁寧に伸ばすと、絵画の裏に戻す。特注の額で、両面が透明ガラスとなっている。
「むふふ、いい……」
リディアの署名の隣に、自身の署名も記入した婚姻届を眺めていると、歓喜のあまり下半身に熱が籠る。
「いかん、いかん、今は……」
フレデリックは元通りに壁に絵を戻してから、表の絵を変更することを決意する。
なんであさひの絵画を飾ってしまったんだ……くそっ、だめだ、リディアの口からアーサーなど言わせてなるものか!
この絵画は早々に撤去せねば!
フレデリックは、執務机に並べた使用人の名簿を確認する。
そこには、名前と共に愛称も記入されている。
「護衛のアーチボルトは……愛称はアーチー⁉︎ だめだ、アーサーと似ている。アーという言葉が聞こえた時点で許せない。こいつは、リディアと接点のない箇所へ配置替えだ。
侍女のアーサリン……けしからん!悪いが配置替えだ!」
そうして、しばらくアのつく使用人だけが異様に配置換えされることになる。




