第二十一話 【プレゼント】
私は悪阻が大変な体質のようで、非常に辛かった。しかし、香乃さんや高橋さんの支えもあり、幾分か落ち着いてきた。
(姫様、頼まれていたものが届きました!)
お!ついに届いたか!伝えてから二週間。結構、掛かったなぁ。これで作成に取り掛れるぞ。
「ありがとう、待っていたの!」
毛糸はすぐに確保できたが、懐炉に時間を要していたみたい。使いの方に申し訳ないことをしちゃったかしら。
貰ったその日から作業を開始した。
二人へのプレゼント……それは真田紐である。
未来でも作ったことはないが、ミサンガの要領でやれば大丈夫だろう。
「意外と時間が掛かるなぁ」
(姫様?何を作られているのですか?)
「秘密よ」
今教えたら意味が無いでしょうよ。
三時間掛けて、ようやく二人分が完成した。
さて、二人はどんな反応をするのか?
「香乃さん、信繁様、こちらに来て頂いても?」
「どうした?」
(姫様、どうされましたか?)
「これ、二人のために作ったの。いつもお世話になってる感謝の気持ち。受け取ってくれる?」
(姫様が作っていたのは、私たちに贈るための物でしたか!喜んで受け取らせて頂きます)
「素敵な贈り物だ。ありがとう。宝物だ。して、これは何だ?どう使うんだ?」
「これは腕に巻くものです。これが千切れると、願いが叶うと言われています。平和に、長く生きられるようにという私の願いを込めました」
「なるほど。そうか、ありがとう」
真田信繁は涙脆いのか?泣き始めてしまった。
(姫様が私たちを思って、願いを込めてくれているなんて。ずっと付けておきます!)
香乃さんまで泣いちゃった。
「なんで二人とも泣くの?嬉しくなかった?」
「嬉しいから泣くのだ」
(そうです、姫様。姫様の優しさが嬉しくて……)
喜んでくれたのなら、良かった。
それから二人は本当にずっと付けてくれていた。
ある日、信繁様から提案を受けた。
「藍姫、私や父上は家康によって領土を奪われている。故に、生活が安定しているわけではない。そこでだ!そなたが作った紐を売るのはどうだ?」
「私が作ることによって、信繁様たちの力になれるのであれば、喜んで作らせて頂きます」
「いや、私たちも手伝う。お前は身重だ、手伝わせてくれ」
こうして、真田紐は誕生しました。
史実では、妻である竹林院が提案したとされている。
この世界では私がその役目なのか。
真田紐は思いのほか、人気になって注文が殺到した。私たちは忙しなく、真田紐を作り続けた。
見張り役だった武将も信繁様と仲良くなり、一緒に手伝ってくれている。
信繁様は九度山の人たちと交流するようになった。
昼になると出掛けることが多くなった。
「今日もお出かけですか?」
「ああ、隣の吉原さんと将棋の約束をしている」
「そうですか……」
「ん?なにかあったのか?」
妊婦あるあるなのか。ホルモンが影響して、メンタルが崩壊し始めた。信繁様を巻き込みたくないのに。
「出かけてくるな」
「待ってください。信繁様、どうして最近、私を避けるのですか?」
(旦那様、吉原様を待たせる訳にはいきません。どうぞ、ここは任せてお行きください)
せっかく向き合って話をしようとしたのに、香乃さんに邪魔をされてしまった。私の旦那はなにがしたいの。
「邪魔しないでくれない?」
(申し訳ありません。姫様、どうか落ち着きください)
「落ち着いてるけど」
(旦那様はずっと悩んでおりました。姫様がこっそり泣いているのを知っています。故に、私に聞いてきました)
香乃さんの話によると、信繁様は泣いてる私を心配して何かしてやれることはないか?と香乃さんに聞いてきたらしい。
「私はまだまだ父親として未熟で、藍姫のために何ができるのか分からない。女性の意見を聞かせてくれ」
(何もする必要はありません。妊婦はホルモンという物の影響で精神に波が出てしまうようです。姫様が泣いているのも、それが原因でしょう)
「そうなのか」
(そっとしておいて大丈夫ですよ)
香乃さんは信繁様にそう伝えた。
(地域の方との交流は勿論、大切です。ですが、旦那様は不器用なので、この様な形になってしまったんでしょうね)
あー、なるほど。確かに不器用な男なのを忘れてた。
そっとしておくのが理解できなくて避けてるように見えてしまっていたのか。
「心が浄化されていく……」
(もっと早く姫様に伝えておくべきでした。申し訳ございません)
「謝らなくて大丈夫よ。すっきりした!そうだ、香乃さん。文を出すには誰に渡せば良いのかしら?」
(見張りの方に忍びを呼んでもらうと、相手に渡せますよ)
「分かったわ!ありがとう」
私はとある人物に手紙を書いた。わずかな願いを込めながら。
届くといいな。




