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翌朝係一括移送簿は、半刻賃金札を本人名なしで束ねられません

宿舎口の朝は、帰宅口より冷たかった。


 濡れた外套を返された者たちが、まだ湯気の薄い粥を手に並んでいる。その列の横で、賃金受取窓だけが先に開き、青紐で束ねた小札の束が机へ置かれた。


 ――翌朝係一括移送分。半刻賃金、後日まとめ払い。


 ロウナの帰宅灯札も、ネリアの薬粥鍋番札も、ルドの火守り交替札も、同じ紐で締められていた。本人名の欄だけが、朝の霜のように白い。


「帰宅確認は終わっています。朝番にまとめれば、晩餐会側の手当で処理できます」


 王宮翻訳室の係が、窓口の老書記へ紙束を押した。


 老書記は受け取らなかった。代わりに、窓の内側から小さな木札を三枚出す。


「名無し束では払えない。ここは功績窓ではなく、働いた手へ銅貨を渡す窓だ」


 その声で、ロウナが粥椀を置いた。


「わたしは帰りました。だから、今朝また働くかどうかを、自分の名で返事します」


 サラは束ね紐を切らず、青い保留札をその上へ重ねた。


「帰宅済みは、次の労務に同意済みという意味ではありません。半刻賃金札は、帰った人の名前と、もう一度働くかどうかの返事を待ちます」


 ネリアが慈療院の朝番椅子に手をかけた。鍋の取っ手には、まだ夜薬の匂いが残っている。


「わたしは朝番に入れます。でも、この鍋を運んだ時間は、わたしの半刻です。名前なしで晩餐会側の善意にされるのは嫌です」


 ルドは火守りの手袋を外し、賃金窓の前で自分の札へ太い字を書いた。


「ルド。火を見た半刻。次の火守りは、粥を食べてから返事」


 窓の向こうで、老書記がその三枚だけを別皿に載せた。銅貨は少ない。けれど、音ははっきり鳴った。


 ロウナの手に一枚。ネリアの椅子の横に一枚。ルドの粥椀のそばに一枚。


 朝が、ようやく名前を呼び始めた。


 そのとき、サラの指先が一括移送簿の下段で止まった。


 ――朝番責任者、後添え可。旧保守印写しにより第三棚式へ接続。


 サラはその欄を塗らず、青い線で囲んだ。


「後で責任者名を足せる欄ほど、先に本人名を消します。これは賃金ではなく、朝の手を誰かの名義へ移す入口です」


 宿舎口の外で、まだ薄い朝の灯が一本、賃金窓の板に反射した。


 サラは旧工房印ではなく、三人の名前の横に自分の確認欄を置いた。


 ――本人名・半刻賃金・次朝番返事、未完了。


 完了していないからこそ、三人はまだ、自分の朝を選べる。

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