復旧命令第二式は、別部署の印で夜番灯を消せません
夜番交代口の脇に、消灯棚が運び込まれていた。
昨日まで半刻だけ残すことになった小灯の下へ、今度は黒い木箱が置かれている。箱の蓋には、王宮記録室の整った印字が貼られていた。
『復旧命令第二式。旧保守権限は別部署補完権限へ接続済み。交代口灯、消灯確認済み』
準備係は、消灯棒を握ったまま動けずにいた。帰る足元は昨日守れた。けれど今日は、帰ったあとに残すはずの灯りが、別部署の印で先に閉じられようとしている。
「別部署の方は、ここを見ましたか」
サラが尋ねると、側近は即座に答えた。
「王宮記録室の様式番号だ。現場確認は様式に含まれる。旧保守権限も接続済みなら、君が口を出す余地はない」
「様式は、灯油皿の残りを見ません」
サラは消灯棚の前へ膝をついた。小灯の皿には、まだ半刻分の油が残っている。芯は一本、短いが折れていない。灯りを消せば、次の夜番がここへ来た時、薬名札は読めない。
ネリアが薬瓶籠を抱え、灯りの内側へ一歩入った。籠の札には夜露がつきかけている。
「小灯があると、ミナさんの瓶名が読めます。消えると、また私が覚えていることにされます」
トマは消灯棒を受け取り、棚の高さを測った。
「この棚の差し込み口、私の肩より高い。灯芯箱を持った準備係が一人で戻すと、棒が斜めに落ちます。消した人の名も、次に点ける人の名も残りません」
リリアは、木箱の蓋に似せられた花文字線を見た。唇を噛んだが、もう自分の名義へ引き取らなかった。
「わたしは、この交代口灯を読んでいません。読んでいない灯りを、わたしの名誉欄で消灯済みにしません」
側近が眉を上げる。
「では、誰が責任を取る。第二式は正式だ」
「責任は、消した人の肩書きではなく、消える生活の側へ戻します」
サラは青札を四枚出した。一枚目を灯油皿の横へ置く。
『交代口灯。残り芯一本、半刻分。次の夜番が薬名札を読めるまで消灯不可』
二枚目を消灯棒に結ぶ。
『消灯棒。戻す高さ二人確認。灯芯箱を持つ者一人で処理済みにしない』
三枚目をネリアの薬瓶籠の札へ添えた。
『薬名札。夜露確認前。小灯下で本人が読めるまで記録室様式へ統合不可』
最後の一枚をリリアの前へ置く。
『別部署補完欄。本人未読の交代口灯を、名誉欄または旧保守権限で読了済みにしない』
準備係は、消灯棒を棚へ戻さなかった。代わりに、棒の根元へ自分の名を書いた。
「私は、帰るために消さないのではありません。次の夜番が、自分の名で灯りを受け取れるように残します」
ネリアは薬瓶籠を小灯の下へ置き直した。トマは棚の差し込み口に赤い紐を巻き、一人処理不可の高さを示した。リリアは青札の未読欄に、自分の字で「読んでいません」と書いた。
それだけで、王宮記録室の印はまだ強い。祝灯式は止まったままだ。
けれど、別部署の印だけで夜番灯一本を消すことはできなくなった。消灯棚の前で、準備係の肩が少しだけ伸びる。命令に逆らった顔ではない。自分の手で、次の誰かの明るさを残した顔だった。
サラは木箱の底に挟まっていた控えを抜いた。
『祝灯式本火発令権限。第二式補完欄より一括接続可』
小灯の炎が、文字の端を揺らした。
「夜番灯一本を読んでいない印が」
サラは控えを青札の隣へ伏せた。
「王都全部の本火を、読了済みにしようとしています」




