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得たものの大きさ

      1


その場所は、とても澄んでいて、何か聖なるものがそこに居るかのように感じられた。


石原瑠奈は、虹の原学園、中等部理科準備室で、時乃澄香にキスをされたあと、意識を失い倒れているところを、高遠美鈴が見つけ保健室に運ばれた。

高遠は、少しでも気分を楽にしてあげようと思い、聖方陣を展開し聖域を作りだしていた。

高遠のもとに、一枚羽の御使いが降りてきた。そして語った。

「時乃澄香は、死んで、拘束されました」

 すると、一枚羽の御使いは、天高く舞い上がっていった。

 石原瑠奈の額を見ると、御使いの文字が輝いていた。


そのころ、石原瑠奈は、保健室のベッドで夢を観た。それは、壮大な夢で、大きな巨人に関節部分に、人がいて、首に玉座があり、王様と思しき人の姿があり。その巨人は、多くの人々を踏み潰し、やがて、別の世界に体を覗かせた。

 

 石原瑠奈は、頭の先まで凍るような思いをし、目を覚ました。記憶の中に、時乃澄香にキスをされたのを思い出し顔が熱るのを覚えた。体を起こし、横を見ると、黒髪、ショートカットの高遠美鈴が椅子に座っていた。

「高遠さんどうして?時乃!時乃!澄香は?」

高遠は、石原瑠奈の額を凝視していた。

「石原瑠奈、時乃澄香は、死んだ」

 石原は、高遠が何を言っているのか理解できなかった。

「澄香とは、さっきまで一緒だったのよ。何それ、冗談言わないでよ」

 高遠は、長くため息を出し、ポケットから鏡を出した。

「これは、ソロモンの鏡。お前の契約者が何処にいるかを映す」

 石原は、その鏡を手に取り覗いた。そこには、見たことのない獣に囲まれ、手足を鎖で拘束された時乃澄香が、真鍮色の髪を垂らし半透明に映っていた。

 石原は、鏡を床に投げた。割れることはなかったが、高遠は、かなり怒っていた。

「高遠さん、あなたは、こんな嫌がらせして面白いの?」

 高遠は、何も言わなかった。

「高遠さん、車椅子も隠したの?」

 高遠は、怒りを覚えた。

「石原いいかげんにしろ! 」

 石原は、ベッドからはいだし、ドアに向かってほふく前進をした。しかしその道のりは遠く、息を切らしてしまった。

「石原、お前は、時乃と契約し、多くの賜物をもらった。その一つが癒しだ。さあ、立ってその事実を認めなさい。私も、怒って悪かった」

 高遠美鈴は、石原瑠奈の手を取り、立ちあがらせた。生まれつき立てなかった足で立ち上がり、高遠が移動する方向に、歩く。あまりの出来事に、石原は、高遠の手を離し、口を押えた。

「高遠さん、私、おかしくなったの?」

「ふっ。面白いな。だが、これは事実だ。御使いの最大の契約『アガペ』によるものだ。鏡をみてごらん。額に文字があるはずだ」

 石原は、保健室の鏡に自分を映した。額に読めない文字が書いてあった。

「それは、御使いの文字。これで、事情は、少しは理解できたと思う」

 石原は、体の向きを変え、ベッドに座った。

「高遠さん、あなたは、何者」

「私か?それは、答えることはできない。やがてわかる日が来る」

 石原は、足をなでながら、時乃澄香の死について考えた。高遠の言うことが事実なら、あの鏡が見せたことは、事実だろう。なら、希望があると考えていた。

「高遠さん。さっきの鏡で澄香が見えたと言うことは、死んだと言っても、救いはあるのでは?」

「それは…確かに、救いはあるが、今、時乃が繋がれて繫がれているところが、まずい」

 石原は、保健室を歩きだした。とても軽やかに嬉しそうにしている。

「私が助けに行きます! 」

「軽く言うな」

 そこに、錦野萌が保健室に入ってきた。

「瑠奈…あなた、どうして歩いているの?もしかして私を騙していたの?なにそれ、そんなのおかしいでしょ。あなたは、私がいないと何もできないじゃない。そうでしょ! 」

 錦野は、石原を突き飛ばした。高遠は、素早く、石原を支えた。

「なにそれ!」

 そう言うと、錦野は、保健室を出て行った。「大丈夫か石原」

 石原は、涙を流し、その場に崩れた。一番の親友だった萌は、私を支配していたことによって、満足感を得、モチベーション保っていたことに辛さを感じていた。高遠は、石原の肩に手を置き、

「石原、時乃を救いたいのだろ。泣くのを止めなさい。救う方法を教えます。良く聞くのです」

 石原は、涙を拭き、高遠を見つめた。

「時乃澄香は、地の底の御使い、アポリュオンに拘束されている。何故、そうなったかと言うと。地球人に干渉しすぎたため、我主は、お許しにならなかった。厳罰として、地の底で拘束されることになった。ここまではわかるね」

「はい」

 石原は、ベッドに座りなおした。高遠は、腕を組み、強い口調で語った。

「そして、助けるためには、アポリュオンと会い、救いの条件を聞きだし、実行すること。そのために、まず、地の底に行くことだ」

 石原は、あいまいにしか理解できず、困ってしまった。

「ごめんなさい。私、理解力乏しくて。そのアポリュオンさん?に会えばいいの?」

「ふー。まあ。いきなり聞いても状況も、成すべきことも理解しにくいだろう。私が、一つの試練を与える。その結果しだいで、石原を地の底に連れて行こう」


 高遠は、石原の手を取り、教室へ向かった。すでに最終下校時間が過ぎていたからである。教室の電気を付け、石原は、自分の席に向かった。しかし様子がおかしい。鞄はあらぬ方向にあり、教科書ノートは散乱し、ペンケースは、中身を撒き散らし、机の上に、嘘つきと書いてあった。それを見た石原は、しゃがみ込み大泣きした。高遠は、何かを呟きながら、石原の両肩に手を置き、

「我主の守りがあるように」

 石原は、長く泣いていたが、心が温まり、体も軽くなるのを覚えた。

 涙を拭いた石原は、鞄に荷物を入れ、机の落書きを消し、教室を後にした。

 高遠は、石原を励ますために、手を握ってあげた。石原は、少し体を寄せた。その時、高遠は感じた。探していたのは、この子だと。


       2


 高遠は、自分のアパートに来て欲しいと石原に告げた。石原は、快く行くことにした。『あすなろ荘』と書いた。ものすごく古いアパートであった。どうやら二階のようで、外に備え付けてある階段を上がる。嫌な音が響く。廊下を歩くと再び嫌な音がする。左側を見ると、トイレとお風呂と思われる扉がある。構造から判断すると、後から増築したようである。高遠は、二○四と書いた部屋に、鍵を使わず入る。石原も恐々入ってみる。布団と段ボールの箱以外何もない四畳半のアパート。靴を脱ぎ、畳に上がる。石原は、初めて正座をしてみた。何気ないことだが、凄く嬉しかった。高遠は、布団を敷いた。

「年代を感じる布団ですね」

「これか、これは、もう七十年程前のものだ」

「高遠さん十六歳ですよね。誰かにもらったの?」

「舌が滑った。忘れてくれ。それよりも、ここに寝てくれるか?」

「はい。いいですけど」

 石原は、制服のまま、布団に仰向けに寝た。すると、高遠は手を取り、

「これから、石原の魂をある場所に飛ばす。どんな出来事が起こるかは、分からない。一つヒントになることを教えることがある。私が口に出したいのだが、事情があり、書いたものを読んでくれるか」

「はい」

 高遠は、段ボールの箱から、巻物を取り出した。その巻物には、こう書いてあった。


『不品行、汚れ、好色、偶像礼拝、魔術、敵意、争い、そねみ、憤り、党派心、分裂、分派、ねたみ、酩酊、遊興』


「読んだ?」

「はい。でもこれは?」

「我主の言葉である。さあ行くのです」


 高遠は、聴いたことのない言葉で、何かを唱え出した。すると、石原は、深い眠りについた。


        3


 石原瑠奈は、目を覚ました。そこは、自分の部屋であった。大好きなぬいぐるみがいっぱいあり、車椅子が横にあった。あの出来事は夢であったのだと理解した。何時ものように、制服に着替える。何時も通りに時間を使い、食事に行く。部屋から出た石原瑠奈を見つけ、兄、真咲が手伝いに行く。何時ものように、食卓に着くと、父と母も食卓に着いた。

両親ともに敬虔なクリスチャンなので、お祈りをしてから食事をいただく。石原瑠奈は、心の中で思った。この日常で良かったと。歯磨きを終えると、呼び鈴が鳴る。錦野萌が迎えに来たのである。

「おはよう、瑠奈」

 いつも通りに、爽やかな挨拶をする錦野。石原瑠奈も挨拶をし、登校の支度をし、錦野に車椅子を押してもらい、学校へ向かう。道々、錦野に挨拶する生徒が何人もいる。石原は、少し羨ましかった。教室に入ると、何か忘れている気がした。ぼんやり浮かぶ人の姿、大切な人だったような気がしていた。授業が始まり、勉強に集中した。何の問題もなく学校での時間を過ごした。錦野に車椅子を押してもらい、下校する。帰りも、多くの生徒が錦野に挨拶をする。石原は、この時『ねたみ』を感じていたが、それが、何から来るのか理解していなかった。


 一日が終わり、ベッドの中に入った。石原は、思った。昨日の夢は、何だったのかと考えると、一瞬寒気が通った。寝付くのに時間がかかったが、目覚ましが鳴るまで、熟睡した。


 朝、朝食を食べている時、石原瑠奈は、兄、真咲が口を動かさずに、何か話している気がした。それは、別に自分に関係ないことだったので、あまり気にしなかった。


 錦野が迎えに来てくれたので、登校する。道々、生徒が錦野に挨拶する。その時、

(錦野さん偉いわね。あんな足手まといな子の面倒見て)

(もし陸上部にいたら、日本代表になれたでしょうに)

(少し顔がいいだけで、錦野さんに迷惑かけているあの子なんなの)

 石原の頭の中に次々、言葉が飛び込んでくる。授業が始まるまで、その声は、止むことなく聞こえた。

 

 家庭科の授業のため、教室を移動するので、錦野は、石原の車椅子を押してあげた。

(この子は、私が面倒見てあげないと何もできない、でも、この子のおかげで、私は生きる価値を感じる。これからもずっと、私の足台でいることね)

 石原は、気が狂いそうであった。また、何か悪い夢を見ているのではと、自分の手をつまんでみた。傷みを感じこれは、現実だと把握した。そして、以前見た夢を思い出した。自分が歩けるようになり、それを見た錦野は、自分を突き飛ばし、机をひっくり返し、鞄の中身をぶちまけ、机に落書きをしたのを思い出した。


 夢と現実が分からなくなっていた。家庭科では、カレーライスを作るため、各々食材を切る作業をしていた。その間も、石原への悪口が聞こえ続いた。人参の皮をピーラーでむくまでは良かった。次に乱切りするため、包丁を握ると、錦野と隣の友達がこそこそ笑っていた。その笑いが自分のことを笑っていると感じ心の線が切れた。気が付くと、石原は、錦野を包丁で刺していた『敵意』返り血をたっぷり浴び、包丁を落とした。錦野が倒れると、クラス全員悲鳴を上げて家庭科室から出ていった。


 石原は、放心状態であったが、自分のしたこと理解し、車椅子で学校の外へ出た。外は、霧がかかり、誰もいなかった。更に怖くなり、全力で移動した。石原は、心の中で思った(もう死のう)そこに、初老の男性が通りかかった。その男性は、石原の姿を見ると近寄り、

「血だらけでどうしたの?」

 と声をかけた。石原は、怖くて何も言うことができず。震えていた。初老の男性は、車椅子を押し、近くの公園に行き、ハンカチを水で濡らし、石原の顔を丁寧に拭いてあげた。それから、初老の男性は、自販機から、ココアを買い、石原に飲むように勧めた。落ち着きを取り戻した石原は、ココアをゆっくり飲んだ。

 石原は、何があったかを初老の男性に話した。すると、初老の男性は、時間をかけて、多くのことを語りだした。その内容は、とても今の自分に必要であり。信じるに値するものであった。

「もう大丈夫かい?僕は、そろそろ行かないといけない」

「お名前だけでも教えてください」

「名は、長島魚人。また、会える日を楽しみにしているよ」

 そう言うと、初老の男性は、霧の中に消えて行った。

 石原は、心が平安になり、全てを警察に話そうと心に決めていた。すると、途轍もない眠気に襲われて、意識を失った。


        4


 石原瑠奈は、目を開けた。そこは、古い小さな部屋であった。横を見ると、高遠美鈴が正座をして、見つめていた。すると感情が込み上げてきて、涙が止まらなくなった。そのまま起き上がると、高遠に抱き付き、声を出して泣き続けた。高遠の制服を涙で濡らし、顔を擦り付けた。高遠は、優しく背中を撫でてあげ、

「合格だよ。石原瑠奈。苦しかったと思うけど、勝利出来て良かった」

 石原は、泣き続けていた。高遠の制服は、涙で色が変わっていた。

「元気を出しなさい!石原瑠奈。私は、お前と契約をする。さあ顔をあげなさい」

 すると、高遠は、石原の額にキスをし「アガペ」と言った。

 石原の額に、御使いの文字が刻まれた。

 石原は、高遠から手を離し、布団に仰向けになった。

「今日は、泊まっていくといい」

「いいの?」

「もちろん、我契約者よ。落ち着いたようだね」

「私は、萌を殺した」

「そういう試練だったようだね。大丈夫、錦野萌は、死んでいないし、石原は、殺してもいない。だが、現実でもある。だから、教えられた言葉を一生忘れてはならない」

「はい」

「何か食べ物買ってくるよ」

 そう言うと、高遠は、部屋を出ていった。

石原は、スマートフォンを取り出し、家に電話をした。帰るように説得されたが、強引に電話を切った。

 高遠は、コンビニで弁当とパン、ココアを買って来た。

 石原は、ココアを渡され、あの時のことを思い出し、とても幸せな気持ちになった。

 高遠は、歯磨きのセットと、コンビニで買ったタオルと下着を石原に渡し、お風呂に行くことを勧めた。しかし石原は、あのお風呂を見ると怖くなり、入るのをためらった。高遠は、自分が入ることを前提としていなかったが、考えを変え、湯船の横に居ることにした。

 石原は、湯船に浸かると、体中に、文字が光り輝き走るのを見た。高遠は、制服姿のまま、その様子を見ていた。

「これは、どういうことですか?」

「それは、霊脈、この流れが悪いと、ある意味、病気状態になる。石原は、とてもいい流れだ。あまり、人に見られないようにしなさい。普通の人間は、これを見ただけで、何らかの反応をすることもある」

 石原は、小さく頷き、湯船から出て、体を洗った。その間も高遠は、傍にいた。石原は、濡れるから、お風呂から出ることを言ったが、高遠は、動かなかった。

 夜も遅くなり、高遠は、石原を布団に寝かせた。まだ、寝るのが怖いかもしれないと思い、手も握った。


 石原瑠奈は、明け方まで、熟睡していた。そして夢を見た。大きな巨人に関節部分に、人がいて、首に玉座があり、王様と思しき人の姿があり。その巨人は、多くの人々を踏み潰し、やがて、別の世界に体を覗かせた。

 凍るような思いが起り、飛び起きた。そこには、高遠美鈴が正座をし、凝視していた。

「怖い夢を見たかもしれないが、その夢のことは、覚えておくといい」

「二回も同じ夢を見るなんて…」

「まだ、早いが朝だ。今日から、旅の準備をする」

「私、学校行かないと」

「時乃澄香を助けるんだろ」

 石原は、軽く返事をすると、自分が窮地に追い込まれ、時乃のことを忘れていたことを悔やんだ。

「高遠さん、私は、何をすればいいの?」

「一つは、防御の聖法と雷の聖法を出すことと空間を操る方法を習得すること、もう一つは、アポリュオンへのプレゼントを用意すること」

「雷ってこれのことですよね」

「うわ!早く止めなさい」

 小さく雷が四畳半の部屋に落ちた。

「制御もできないのに、何てことを…」

「ごめんなさい。昨日、お風呂で自分の霊脈

見ていたら、自然に分かったの」

「制御できるように、訓練しよう」

 高遠は、ある意味驚いていた。この短時間で、雷を発生させるとは、なんという壊れた器なんだと。


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