地の底へ
1
高遠美鈴と石原瑠奈は、学校とは逆方向のバスに乗り、高尾野グラウンドまで、移動することにした。バスに乗りあった人から不思議な目で見られた、明らかに虹の原学園の制服であり、しかも登校時間であったからである。
グラウンドに着くと、高遠は、棒で円を描き、いつもの、知らない文字で書き始めた。
「石原、まずは、雷の操作からだ。雷を発動するのに、基本、聖方陣は、いらないが、上位のサンダーストライク等には必要である。今、地面に書いたのは、もしもの時のためだ。さあ、私に目を向けて、ショックボルトと唱えるのです」
石原は、そんなセリフ恥ずかしいよと思っていた。なので、小さな声で、
「ショックボルト」
しかし、発動したのは、サンダーボルトであった。高遠は、慌てず。
「バリィ」
サンダーボルトは、消えた。
「何故、サンダーボルトが発動するんだ。試に、ライトニングシーボルトを唱えてくれるか」
石原は、また、恥ずかしいなと思いながら。
「ライトニングシーボルト」
巨大な雷が、高遠の書いた聖方陣に吸収された。
「どうやら、上位のほうが安定するようだ。とりあえず、よしとしよう。次は、バリィだ。私が、攻撃するから、バリィと唱えて、シールドを張るんだ。わかったか?」
石原は、また恥ずかしい台詞言うんだと思いながら、高遠の攻撃をバリィで防いでいった。
「バリィは、完璧だな。昨日まで人間だったとは思えない」
「人間だった?」
「あ!舌がすべった。忘れてくれ」
「うー」
「問題は次だ、空間を操る力。これは時乃の能力だが、石原も継承している。この能力は、あまりにも大き過ぎて、聖方陣を展開する必要がある。石原の霊脈にその方法は刻み込まれている。故に、聖方陣展開と唱えれば、陣は、展開される。やってみるといい」
石原は、また恥ずかしいなと思いながら、
「聖方陣展開」
と小声で言ってみた。すると黄金色に輝く聖方陣が出現し、ゆっくり回転していた。石原は、体中の霊脈が沸騰する気がして、地面に手をついた。すると聖方陣は、消え、辺りは静まりかえった。
「やはり展開できたか、でも力を逃がさないと、自分を分解してしまうかもしれない。逃がす方法を霊脈から学ぶのだ」
石原は、体中に走る霊脈を感じていた。逃がす方向、そして発動するタイミング。
「聖方陣展開、空間よ!開け」
グラウンドに大きな穴が開いた。その穴は、亜空間と繋がり、砂を飲み込み始めていた。
「石原!早く解除しろ、でないと、飲み込まれるぞ」
「聖方陣展開、空間よ!閉じよ」
グラウンドは、大きな窪みを作り、静寂が戻った。
「どうやら、空間を操る能力は、かなり安定しているようだ。なら、地の底に行くのは容易い」
石原は、自分の霊脈と語り、力の安定を計った。高遠は、持ってきた鞄からハンマーのような物を取り出し、石原に渡した。
「これは?」
「それは、石原瑠奈が、何者であるかの証。アポリュオンと会う時にも有効だろう。ちなみに、時乃澄香は、開眼剣をもっている。さあ、それを脇腹に入れたまえ」
「脇腹に?」
「大丈夫だから」
石原は、ハンマーを恐る恐る脇腹に近づけた。すると、高遠が手を引っ張り、無理やり脇腹に入れた。
「なにこれ?」
「そこに収まるようになっている。気にするな、取り出すときも同じだ」
高遠は、自分の脇腹に手を入れ、雷を帯びた大剣を取り出した。軽く振り回すと、脇腹に入れた。
「ところで、アポリュオンは、どんな姿をしていると思う?」
「そうですね。たぶん、ゲームとかアニメに出てくるミノタウロスみたいな筋肉質な感じかな」
「実は、美しいとだけ言っておこう」
そう言うと、バス停の方へ歩き出した。石原もついていくが、グラウンドのへこみが気になった。三十分一本のバスに乗り、あすなろ荘に戻ってきた。部屋に入ると、高遠は、石原に横になるように、言った。そして、霊脈を全身チェックした。
「よし!いいだろう。準備は、できた。あとは、アポリュオンへのプレゼントだけだ」
「何がいいのかな?竜の首とか?」
「確かにそれは、凄いが、竜は、まだ登場しないな」
「ふーん。何か知っているんだ」
高遠は、顔を横に向けた。怒っているわけではないが、彼女は、よくそう言う態度をとる。
「そうだ!甘いものどうかな?シュークリームとか」
「シュークリーム?何かなそれは」
「高遠さん、知らないってことはないよね」
石原は、高遠を覗き込む。
「知らない」
高遠は、即答する。
「じゃあ、食べて美味しかったら、プレゼントにしましょう。あ、でも私お金ないです」
「私が払うからいいよ」と高遠。
「私の空間を操る能力で、ぱぁと移動しましょう」
「まて!勘違いするな。空間転移は、テレポートとは違う。あくまでも空間を操るのだ。
大きな戦艦をこちらの世界に入れたり、あちらの世界に送ったり、そう言うものであって、個人を移動できるとか、聞いたことがない」
石原瑠奈は、霊脈と語りあった。そして、答えを得た。
「聖方陣展開、テレポートゲート」
黄金色の聖方陣に空間の裂け目が現れた。石原は、それを覗いた。裂け目の向こうに『やっふ』と書いたお店が見える。高遠の手を取り、空間を超えた。
「なんて壊れた器なんだ」
高遠は、驚きを隠せなかった。
2
その店は、県道沿いにあり、可愛らしい看板が掲げてあった。石原瑠奈と高遠美鈴は、靴を履いていなかったが、気にせず店に入っていった。石原は、シュークリーム二個注文し、高遠がお金を払った。お店にあるテーブルセットに座ると、石原は、高遠に食べることを勧めた。すると高遠は、大きな声で、
「なんだこれは!濃厚な味わい、しかししつこくない。美味しいではないか!」
石原は、微笑ながらその様子を見ていた。
店員は、二人が靴を履いていないことを、不思議思っていた。
「よし!プレゼントは、このシュークリームにしよう。石原は、どう思う?」
「このシュークリームなら完璧です」
高遠は、十二個入りのシュークリームを買った。店員から生ものなので、お早めに食べることを勧められた。
石原と高遠は、店の裏に行き、テレポートゲートで、アパートに戻った。
石原は、靴下が汚れていたが、高遠は、綺麗であった。
「私の靴下、汚れていないだろ、雷が清めてくれる。服も体も汚れは落とされる」
「便利ですね」
「さて、シュークリームは、生ものだから、早く届ける必要がある。私が、連れて行ったら腐ってしまうだろう。なので、石原の能力で、地の底に行こう」
二人は、靴を履き、アパートの駐車場に出た。石原は、高遠と手を繫ぎ、霊脈の流れから、地の底の座標を知り、ゲートを開いた。
そこは、闇の中であった。石原は、スマートフォンで足元を照らした。すると、地面に目が現れ、二人を凝視した。石原は、怖くなり、後ずさった。その時、多くの足音がした。その主は、見たことのない獣であった。スマートフォンを持つ手が震え、何をするべきかと考えることもできなかった。
「石原、試されている。倒すんだ」
石原は、スマートフォンをポケットにしまい。
「ライトニングシーボルト」
強大な雷が落ち、一帯にいた獣は焼け死んだ。しかし、数は多く、獣は、石原に飛びかかった。
「我!召喚する。ジン」
高遠がそう告げると、雷色に輝く巨人が現れ、腕を振るい、獣を一掃した。
「さすがだね、ライジング。こんな地の底に何のようだ」
「アポリュオン!」
高遠が見つめるほうから、長い髪をした美少女が現れた。その服装は、白より白い着物を着、透き通る肌、完全無的な容姿。背の高さは百七十センチぐらいあり、スレンダーであった。
「アポリュオンさんお願いします。時乃澄香を解放してあげてください」
石原は、懇願した。
「我は、そなたを知らぬ」
高遠は、石原に、ハンマーを見せるように、小声で言った。
石原は、片膝をつき、脇腹から出したハンマーを見せた。
「ほうほう。面白い、そなたがな。話は、宮殿で聞こうではないか、付いてくるがよい」
二人は、アポリュオンに付いていき、宮殿の中へ入った。そこは、とても明るく、地上にいるような錯覚を覚える場所であった。アポリュオンの兵士達は、身構えていた。ここ数千年客は、来たことがなかったからである。
奥の部屋に案内された。アポリュオンは、自分の椅子に座ると、しもべに、二人の椅子を用意させた。
「で、我に時乃を解放しろと」
高遠は、小声で石原にプレゼントを渡すように言った。
「あのーアポリュオンさん。プレゼントをお持ちしたのですけど、お受け取りしていただけますか?」
アポリュオンは、しもべに、プレゼントをとりにいかせた。石原は、緊張しながら、渡した。
「これは、食べ物か?」
「シュークリームです」
「我は、食べ物かと聞いたのだ」
「ごめんなさい。食べ物です」と石原
アポリュオンは、シュークリームを一つ手に取り、口に運ぶ。
「これは、旨い」
そう言うと、二個三個と食べた。
「いいだろう。時乃澄香を解放するクエストを与える。惑星メトシェラへ行き、日本人を助け出せ」
石原は、深々と頭を下げた。アポリュオンは、もう一つシュークリームを食べると。立ち上がり、石原瑠奈のように、ゲートを開いた。
「ここから行くがよい」
石原は、躊躇なくゲートに入った。高遠も入ろうとしたが、アポリュオンが手で遮った。
「これは、あの者がすべきことだ。お前は、地球から出ることは許されていない」
高遠は、目をつぶり、自分を制した。




