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03

お越しいただきありがとうございます。今回は全体的にユルイ感じで進んで行きますのでよろしくお願いします。


 ◇西暦1573年(皇紀2233年)1月25日奥三河山間部。鳳来寺山頂上◇

 

 突然発生した300mを超える巨大な暗雲が渦をまきながら垂れ込める。雷鳴が轟き、強大な稲妻が山を割り、地を揺らした。

 靄が立ち込める裂け目から移動式玉座に座るアーヤが現れた。進行を止めたアーヤの左右に不規則に三鬼が並ぶ。右側にエーリィ、左側にエーブィとシャーリィが立ち。500名の侍女が後ろに控える。


 アーヤは大きく空気を吸い込み独り言つ。

「緑豊かな地のようだ。悪くはないな」

 エーヴィが鼻をスンスンと鳴らし口を開く。

「マー粒子が極端に薄い。これでは文明は期待出来ない、知的生命体が居るかも疑問?」

 エーリィが何故か嬉しそうに期待した目でアーヤを見る。

「なら振り出しに戻るの?せっかく来たのだから、破壊して回らない。知的生命体が居ないなら問題ないでしょう。どうせ数千年もしたら元に戻るし。良いでしょアーヤ。ねえそうしましょ」

 

 笑顔のまま顔を近づけるエーリィだが、同意を求められて困るアーヤ。

アーヤにはエーリィに何があったか分からないようだが……

 間違いなくアーヤに顔を陥没された腹いせなのだ。


 アーヤは思う。着いてすぐの惑星で破壊しまくるなど、どれだけ溜まっているのか。(ガス抜き用の異界をこちらでも用意しないといけないのか)と、やや気が重くなるアーヤであった。


「戻るのも、破壊するのも探索してからだ。頼めるかシャーリィ」

 返事を待つも返事が帰ってこない事で、顔をシャーリィに向けると(何をいまさら)と、首を傾げて冷めた目のエーヴィが教えてくれる。

「シャーリィなら既に、術法を広範囲に展開して探索を始めている」


 エーヴィ、エーリィ、500名の従者の視線を集めるなか、ドヤ顔のアーヤの視線が泳ぎ始める。 

「…シャーリィができる子なのは私が一番知っているもん」

 泳ぎ続ける視線が足下で止まり何かを見つけたのか、突然しゃがみ込むアーヤ。

「わーぁ見てみて。アリさんいるよ〜この世界でも一生懸命に生きているんだねー。かわいいねー」

 

 皆の視線に耐えきれなくなり逃避するアーヤを他所に、集中する為に目を閉じていてシャーリィが、口角をわずかに上げ、(まぶた)をゆっくりと開ける。

「アーヤ。方位は確認しました。前方が南になります。北西に500名程の砦らしき物をがあり、西南西から北東が山が深く、100名前後の集落がいくつか確認できます。北東から西南西に平野が広がっているようで、集落の規模も大きくなるようです」


 逃避していたアーヤが戻ってきた。すぐに立ち上がり指示を出す。

「集落に砦があるのか…なら、ある程度の文明が期待出来そうだな。シャーリィそれならば、平野部を…」

 アーヤの話が終わる前に、シャーリィが言葉を被せてきた。

「北東から西南西に範囲を絞り。半径50kmまで索敵範囲を拡大します」

 戻ってきたアーヤが去っていく。フワフワと目のまえを飛ぶチョウチョと共に去ってゆく……。

「わーぁチョウチョさんだー。アリさんにチョウチョさん。鳥さんの声も聴こえるよー」


 探索を再開したシャーリィだが、何か気になることを発見したのかエーリィに声をかける。

「エーリィ。南東30km付近の探索を頼めますか」

「いいわよ。まかせて」

 広範囲を探索するのは風の緑鬼(ろくき)が適しているが、範囲を絞り詳細の探索は水の青鬼(しょうき)が適している。


「へーっ面白いこと。四万…いや五万かしら。人種(ひとしゅ)らしき存在が戦をしているようね。どうするのアーヤ」

 探索結果をアーヤに報告するエーリィだが、アーヤはチョウチョとまだ戯れていた。と言うかエーヴィと彩凰も混ざり2人と一匹で遊んでいた。


「シャーリィあれ、どうしましょう」

「殴れば戻ってきますかね………」一度言葉を切ったシャーリィだが、思いついたように会話を再開する。

「エーリィ。確認したいのですが、戦っていたのは人種(ひとしゅ)のオスらしき者達ですよね」

「えぇそうよ」エーリィはどうしたのあなたも知ってるでしょ?、と言いたげな表情でシャーリィを見るが、咄嗟にシャーリィの思惑を察しニヤリと、やらしく笑い妖艶に話しだす。


「男たちが猛々しく戦う姿を見ると、身が(よじ)れますわ。()れた男の技と力の応酬。若い男が恐怖しながらも戦う姿。あれを観ないなんて何と勿体ない、なんて悲しいこと。いまこの瞬間にも、あの御仁の命が途切れようとしているのに」

 あぁ〜と(なげき)きながら両膝を揃え崩れ落ちるエーリィの肩に、優しく手を添えるシャーリィが驚いたように口を開いた。


「それほどの御仁がエーリィには見えたのですね。なんて事ですか、今すぐにも向かわなければいけないのに」

 2人がチラリとアーヤを見る。耳がピクピクと動きこちらの様子を伺っているのが分かると、すぐさまエーリィがシャーリィの服を掴み嘆願する。

「シャーリ助けて。どうかあの方を助けて上げて」

 助けを求めるエーリィに対して、シャーリィは両ひざをつきエーリィを抱き寄せるが、悔しそうに唇を噛む。

「ごめんなさい。私には出来ないの。アーヤ様でなければ助けられないわ」

 2人が泣いて…泣いたふりをして抱き合っていると、聞き覚えのある声が聞こえた。アーヤがかえってきたのだ。


「二人とも嘆く必要はない、すぐに向かう。彩凰。皆が乗れるように大きくなれ」

 シャーリィとアーリィの二人の視線はアーヤ越しに、後ろのエーヴィに向けられている。


 エーヴィは声を殺し腹を抱え転げ回っていたが2人の殺気を受け、全身から汗を吹き出しながら立ち上がるのが精一杯だった。余談だがエーヴィは後日、2人から責められ全治三日の怪我で寝込むことになる。


 アーヤに命じられた彩凰は、ピュルルルルゥーーーと鳴きながら、モフモフがモコモコと大きくなって行く。2m…10m…50mと大きくなり続る。80mを超えたときシャボン玉が弾けるようにモフモフが弾けると白銀の柔らかな羽毛が舞う中、全長100mにもなる両翼を持った巨大な七色の白銀の竜が現れた。

 

 アーヤが全員と向き合い指示を飛ばす。

「今から戦場に向かう。この世界の知的生命体との初の接触になるが、制圧するのではなく、可能ならば共存の道を歩みたいと考えている」ここで言葉を切りシャーリィとエーリィに目を向ける。


「シャーリィにエーリィ初の任務、苦労であった。他に気になる事はなかったか」

「西南西に北西の砦よりも規模の大きな物が二箇所に、一千人を超える集落もあり、その先に海があるようです」

「海まで出て戦場に向かうと距離はいくら程になる」

「100kmほどになります」

「彩凰なら30分もかからんか」アーヤが独り言ちると彩凰から念話が入る。


『アーヤ様。サイなら5分もかからないよ』

(速すぎるわ!)と思うアーヤだが、気持ちを落ち着かせ念話を返す。

『皆を乗せて飛んでもらうからな。皆に無理がかからないように頼む』

『分かったわ。任せてよ』

『あぁ頼んだよ』

 アーヤは彩凰との念話を切ると、全員の顔を一瞥した。


「繰り返すことになるが、我はこの世界の制圧は望んでいない。共存の道を歩みたいと考えている。この事を念頭に置き行動してほしい。今から我らは海を経由して戦場へ向かう。皆速やかに彩凰に搭乗せよ」

 

 全員がまごつく事なく、軽やかに彩凰の背に乗り込んで行く。この行動を見るだけでも、ただの侍女でない事がわかる。

 アーヤは移動型玉座を操り彩凰の頭部に座を移すと、侍女頭代理から報告を受けたシャーリィが口を開く。

「アーヤ。全員搭乗しました」

 それを聞いたアーヤが、力強く口を開いた。

「彩凰。出立つせよ」

 彩凰は力強く鳴きながら、両翼を開き二度三度羽ばたくと巨体が宙に浮き、そのまま加速………。

 

 できずに両翼を必死に羽ばたかせるが、木々を薙ぎ払いながら胴体が地面にする程の低空でしか飛べれない彩凰は、両足を地面につき羽ばたくのを止めた。


『アーヤ様どうして、うまく飛べれないのだけど』

 想定していたのだろう。アーヤは当然だと言うように念話を返す。

『彩凰は普段どの様に飛んでいる。外気のマー粒子を取り込みながら飛んでいるのだろう』

『そんなの当然でしょ』

『この世界は不自然な程にマー粒子が少ないゆえ、アーの恩恵を受け難いのはわかるな。ならどうしたら良い』

『わからないから聴いているのだけれど。勿体振らずに教えてよ』

『体内のマーを開放し身体の周りにマー粒子の磁場を作り出せば良い。そうすれば大気中の僅かなマー粒子も意識せずに取り込む事ができ、体内と体外のマーの循環が出来るようになる』

『ありがとう。やってみるわね』


 彩凰が体内のマーを一気に開放すると、爆風が吹き荒れ一瞬の間に周囲が更地になった。拡散した七色に輝く白銀の粒子が彩凰を纏う様に収束する。

 アーヤは失念していた。アーヤが創造した眷属達のマー粒子の貯蔵量を。眷属達がその気になれば惑星など瞬時に壊滅出来る力があることに。


 アーヤは頭を抱えながら右側に控え立つシャーリィに語りかける。

「シャーリィ。被害状況は確認できるか」

「彩凰がマーを開放した事により半径1.5kmは更地になっています。同時にそこに住む動植物も消滅しました」

「人命被害はどうなっている」

「幸い近辺に集落は確認していませんので被害者は出ていないと思いますが、狩猟などで訪れていた可能せはゼロではないかと思います」

「訪れた惑星で、原住民との接触もなく大量虐殺など、奴らと同じになるところだった」


 嘆息したアーヤだが、急に寒気だち首をひねり空を見上げる。蒼白になり唇はわずかに震えていた。

アーヤの異変に気づいたシャーリィが声をかける。

「どうしました。何かありましたか」

 アーヤから返事がないことに焦りを感じたシャーリィが語気を荒げた。

「アーヤ、アーヤ様。どうされました」

 激語したシャーリィに、アーヤの異変を察知したエーヴィ、エーリィ、侍女頭代理がかけ寄る。そのほかの侍女たちも駈け寄ろうとしたが、侍女頭代理の指示によりその場で立ち止まっている。騒めき、皆がそれぞれにアーヤを想い心配し見守る。

 

 シャーリィ、エーヴィ、エーリィの三鬼とアーヤの付き合いは長い。数万年以上の時を共に過ごした中でも、ここまで蒼白のアーヤを見たことはなかった…。

 いや、一度だけあった事を思い出した三鬼。三百年前の惨劇を。あの時のアーヤは怒りにまかせマーを開放しようとした。移動型玉座の緊急危険回避システムにより事なき得たが、もしマーが開放されていれば星系すら消滅していただろう。

 

 今のアーヤは怒りよりも恐怖している様に見える。アーヤが恐怖することなどあるのか。絶対神の次の次の次ぐらいか、又は次の次の次の次の次ぐらいに偉いアーヤが恐怖することなど三鬼や侍女たちには想像できなかった。そう考えた彼女たちは恐怖し、気がつくと「アーヤ様」と彼女たちは必死に叫んでいた。


 アーヤ様と彼女たちの声が響く中、涼しい顔したアーヤが全員の顔を見渡し、驚いたよう目を見開く。

「そのような顔をして、其方らどうしたのだ」

 アーヤのあまりの言いように三鬼が怒鳴りつける。

「どうしたのでは(ありません)(ない)(ありませんわ)」

 三鬼の勢いに押され首をすくめ呟くアーヤ。

「………だってぇ…ぽんぽんが痛かったんだもん………」

「はぁはーーーーーーーーぁ」

 今度は全員の呆れる声が重なった。カミラも語気を強め応戦する。

「だ・か・ら。ぽんぽんが痛かったのヨォーーーーーーー‼」

 

 全員の冷めた目が、いや軽蔑の眼がアーヤを襲うが勇者の様に玉座から立ち上がり、踵を返し全員と向き合い反撃する。

「其方らが勝手に勘違いして騒いでいたのだろう。何故に我が責められなければいけない。それに三百年前の惨劇を忘れた訳ではあるまい」


 “三百年前の惨劇”この言葉を聞いた全員が気まずそうに目を逸らしたのを見たアーヤは、たたみ込みに入る。

「ぽんぽんが痛いのを馬鹿にしている要だから聞かせてやろう、有名なレーサーの話を。その者はレース中にぽんぽんが痛くなり多くのファンが見守る中、ヘリをチャーターしてレースを棄権してしまったのだ。それ程ぽんぽんが痛いのは大変なことなのだ」


 レーサーて何、レースて何、ヘリて何よと呟きながら、雲を掴むような割り切れない思いを抱きながらも、思い込みで騒いでしまった事を恥じる様に全員が項垂れる中、シャーリィは他には聞き取れない程の声でアーヤに語りかけた。


「アーヤ。本当は何があったのですか」

 アーヤは一瞬だけ驚きの顔をするが、すぐにシャーリィに微笑み掛ける。アーヤの十八番。秘技“女神の微笑み”この微笑みを向けられた者は、どの様な精神状態であっても気持ちを落ち着かせてしまう恐ろしい技である。


 アーヤは微笑みながら、自身よりも背が高いシャーリィの頭を優しく、愛おしそうに撫でる。

「お前は物事を多角的に見て考察する力がある。それはとても好ましい事だ。お前は我にとって、愛おしくかけがえの無い存在だ。ここまで無条件に我を信じ付いて来てくれたことは、言葉では言い表せない程に感謝している。これから先も、我がやらなければならないことを助けてくれないか」

 誤魔化されていることを理解しながらも、シャーリィの言葉は決まっている。


「私がアーヤから離れられない事を知っていながら、そんな事を言うのは卑怯ですよ」

 先程まで不安の色は消え、ほぼ笑うことの無いシャーリィが少女の様な屈託のない笑顔を見せながら、両腕を後ろで組み腰を屈めアーヤを見上げる。

「あなたが嫌がっても絶対に離れませんから覚悟してくださいね。アーヤ様」

 シャーリィの可憐さに不覚にも頬を染めてしまったアーヤが視線を逸らすと、エーヴィとエーリィの2人も微笑みながら見上げてきた。

「私たちも離れませんから、かくご(する)(してね)アーヤ様」

「わ、我から其方らを手放すことなど絶対にない。覚悟するのは其方らだ」

 顔を真っ赤に染めたアーヤはどうにか切り返し、玉座に座り短息するとエーヴィの声が聞こえてきた。


「シャーリィを微笑ますなんて、アーヤ…マジ神」

「失礼ですよ。私でも笑います」

「微笑むと笑うは違う。シャーリィの微笑みは激レア」

「本当に奇跡を見たわ。今日を“シャーリィ微笑み記念日”にしましょう」

 エーリィが会話に入ってきた

「そんな記念日いりません」

 シャーリィは照れているのを隠す様に言うが、エーリィとエーブィの猛攻はつづく。


「シャーリィ微笑み記念日は長すぎる、シャーリィ記念日のが良い」

「シャーリィ記念日とか意味全然わかりませんから」

「シャーリィ。ワ・ガ・マ・マ」

「なら、微笑み記念日にしましょう」

「エーリィすごい」

エーヴィがエーリィに尊敬の眼差しを向け手を叩くと、承認されたと言わんばかりに拍手の波が広がっていく。

「だ・か・らぁーーー名称とか関係なく記念日自体がいらないと言っているんです」

 語気を上げ訴えるシャーリィの言葉は誰の耳にも届くことなく、この世界で彼女達にとって初めての記念日が制定された。


 

 



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