信用は積み重ねるしかない
「片桐さん、失った信用ってどうやったら取り戻せると思います?」
「んなもん俺が知りてえよ」
片桐さんはサーバーから自分で注いだビールを片手に、ケタケタ笑いながら話を聴いている。ここbar C-SHOCKは片桐さんのお店で、俺のバイト先でもある。実は片桐さんは酒の飲み過ぎで奥さんに逃げられた過去を持っている。
「信用なんてまた一から積み上げていくしかないわな。ま、ゆっくりしていきな」
そう言うと、片桐さんは「福利厚生ね」と言ってビールとホタルイカの沖漬けを出してくれた。なんだかんだ優しい大人である。
謝る方法、謝る方法……。ChatGPTにでも聞けば、なにか全てがうまくいくような名案を返してくれたりするのだろうか。そんなわきゃない。
嫌なことがあったり、投げ出したいことができたりすると、海へ来ることが多い。たぷたぷと揺蕩っている水面を眺めていると、悩みも包んで飲み込んでくれるような気がするから。結局C-SHOCKでは考えがまとまることもなく店を出た。それで今日も無意識に海へと足が向いてしまった。
30分ほど何もしないで黒い静かな波を見ていた。寒かったので、腕組みをして身体の熱を守った。
海を眺めている間、叶が言った言葉と表情を何度も反芻したのは、なにも己の情けなさによってだけではない。叶のことが大切で、失いたくない相手であることを思い知らされたことがなにより大きかった。
謝れば赦してくれるだろうか。赦すって一体なにを。謝ったとしても嘘をついた事実が消えるわけではない。一度の嘘によって、これまでの本当のことにも嘘だったんじゃないかという疑念が付きまとう。積み上げてきた信用をすべて失ったことの代償は大きい。
(なにもかもやり直したい)
それはそうと、さっきのC hatGPTの回答はひどかった。
《回答:小学生からやり直せば、見えてくるものがありそうですニャン♪》
ひどい煽りだ。なんでAIにまで馬鹿にされなきゃいけないんだ。もうなんかむしゃくしゃするし、ほろ酔いだし、こうなったらその回答の真意を理詰めで問いただしてやる。
(ちゃんと仕事見つけて、それも叶が驚くくらいの大企業に入って、その内定通知を持って謝ろう)
現実のことなど忘れて、AIを論破すべく俺は画面に向かった。




