思い込むと周りが見えない
「ただいまー」
玄関を開けると叶がいた。まさに渡りに舟。プレゼントというものは、買うとすぐに渡したくて、うずうずしてしまう。相手に喜ばれこそすれ、怒られることはないからだ。その意味でも、今日の俺はツイている。さすがは神のお告げだ(誰も告げてはいない)。
「その、これ買ってきたんだ。いつも世話になってるから、叶のためにーー」
「どういうことか説明してよ」
話を遮られた。その上、思っていた空気とはどうにも違う。どうなっているんだ神のお告げよ(誰も告げてはいない)。
「面接、行ってないんだって? 掃除しようと思ったら部屋にスマホ置き忘れてて、ちょうど人事の人から電話があって。何かあったらいけないから、スマホ忘れてることだけでも伝えておかなきゃと思って、そしたら面接に来てないって。私、事故にでも遭ったんじゃないかと思って心配したんだから。家の周り探したり、地域のニュースを見たり。でも小学生への声掛け事案とか、そんなのしかなくて。どうして? どうして面接行かなかったの。バレなきゃいいと思った? 私もうすぐ大学生だよ? いつまでも澄人の面倒見てあげられないんだよ? ちゃんと将来のこと考えなよ。じゃないと私だって……」
恩返しとか、日頃の感謝とかそんな空気ではない。どうやって弁解すればいい。何から話す? 面接だと思って少女に声をかけたこと? よくよく考えたら(考えなくても)意味がわからない。それで誘拐と勘違いされて、交番で事情を聴かれて。あまつさえ、その後パチンコを打っている。何一つ弁解の余地がない。最初は誤解とはいえ、その後全ては自分の身から出た錆なのである。
「あんたは不器用だけど、嘘だけはつかないと思ってた」
俺の頭の中には、なぜかいつも悪い方へ悪い方へとことが進むように囁いてくる悪魔がいるのだ。そのせいでいつもいつも不幸が舞い込んでくる。叶はとても心配してくれている。それは痛いほどわかる。言ってることだって、何一つ間違っていない。俺だって最初は人を助けたかっただけなんだ。なのに、どうして俺は……。
いたたまれなくなって、何も言わずに家を出た。外の空気は昼間とは打って変わってひんやりとしていて、夜風が肌に冷たかった。




