車酔い
遠足当日。俺たちは近くの小高い山に登るのだという。学校からマイクロバスに乗って、山の麓まで来たのだが。
俺は車酔いでダウンしていた。
子どもの身体になったからか大人の頃のように我慢ができない。この身体は三半規管が弱すぎる。バスの中ではなるたけ窓の外の景色を眺めて気を紛らわせていたが、山に近づくにつれて体調は悪化した。
その間、隣に座った芽依がずっと背中をさすってくれていた。本当に面倒見のいい子だ。
麓に着いても体調は戻らなかったので、クラス本隊を見送り、片山先生(通称片まんぼう、38歳独身の男性教諭)と一緒に後発隊として行くことになった。
「山頂で会おうなーー」
冴が今生の別れのごとく、大袈裟に手を振っている。だが、頭がくらくらしているので左手を挙げるのが精一杯の対応だった。
身体に異変を感じたのは、4合目を過ぎた頃だった。車酔いの気持ち悪さを超えて、身体中に不快感が漂っていた。二日酔いの時の、身体が何も受け付けない感覚に近い。踏みしめる大地も山の空気も全てが不愉快だ。
これは不味いと思い、「先生トイレ」と言って山道から外れて茂みに向かった。片まんぼうは着いてくるわけにもいかず、「ここで待ってるからなぁ」と言った。
茂みに入るとその場に倒れ込んだ。指先が、足先がビリビリする。どこからかジジジ、ジジジという音が聞こえてきて、次第に大きくなる。そして、耳をつんざくような大きさになると俺はその音に飲み込まれていった。
気がつくと、俺は澄人の姿に戻っていた。「今かよ!」と心の中で叫んだ。実際にも叫んだ。成人男性の声だったので、遠くで待っている片まんぼうもよもや泉の声とは思うまい。服装は、あの日のままのようである。
とにかくチャッピーに連絡しよう。女児が山から消えたとなれば、これこそ一騒動だ。救助隊による捜索活動が行われ、全国ネットで放映されてしまうかもしれない。それも実在しない少女ともなれば。
急いでスマートフォンを取り出し(校則違反)、チャッピーに連絡しようとするが……。
「圏外かよーーー」
この姿で山頂に向かうわけにもいかず、片まんぼうを置いて脇道から下山を始めた。すまん、片まんぼう。元の姿に戻って嬉しい反面、非日常の夢から醒めたようながっかりした気持ちも同時に抱えながら山道を下る。




