汚れの元は絶てました。
ついに決着。
全ての元凶、シケアル・スクリーム戦。
「本当にようやく……これで全部終わったんだな」
「はい。これでこのシケアル殿下が起こした"汚れ"騒動は終わりです」
マリアックの肩を支えながら、私は感慨深くこの騒動の終焉に思いをはせる。
シケアル殿下が作り出した<征服・魔王>の領域展開も解除されていき、誓いの大樹周辺の景色も元に戻って行く。
元凶であったシケアル殿下自身がお掃除されたことで、<暗黒魔法>もどんどんと消えていく。
――思えば長かったものだ。
私が前世の記憶を取り戻して<清掃用務員>として覚醒してからもだが、元を正せばマリアックが『一度フェイキッド・スクリームとして死んだ時』からこの騒動は始まっていた。
シケアル殿下も生まれた時から前世の記憶を持ち、この世界が自身のよく知るゲームの世界だと知ってしまったが故に、魔が差したのだろう。
そしてこの世界を自分の意のままに操ろうと考えられてしまった。
今後はシケアル殿下にもどうか、この世界を『ゲームとは違う現実の世界』と考えて生きて欲しい――
「グ、グァア……グオォアァアアアァ!!??」
「シ、シケアル殿下!?」
――私がそんな希望を抱いていると、シケアル殿下が突如苦しみ始めた。
様子がおかしい。私はシケアル殿下に纏わりつく<暗黒魔法>をお掃除しただけなのに――
「な、なぜですか!? なぜシケアル殿下があんなに苦しんでおられるのですか!?」
「……おそらくだが、兄貴は自分でも言っていた通り、『<暗黒魔法>を自身と同化させるレベル』まで磨き上げていた。だから、兄貴自身が掃除されれば――」
「シケアル殿下ご自身も……消えてしまう……!?」
――マリアックとの話の中で見えてきた、シケアル殿下が苦しむ理由。
再度シケアル殿下の姿をよく見てみると、体から<暗黒魔法>が抜け落ちていくのと同時に、シケアル殿下の体もどんどん黒く変色しながら霧散している――
「バ、バカナ……!? 僕ガコンナヤツラニ……殺サレルハズ……!?」
「シケアル殿下! 気をしっかり持ってください! 私は……私はあなたを死なせるつもりなんて――」
「よせ……クーリア。もう、どうしようもねえよ。兄貴は助からねえ……」
霧散する自身の体を見ながら苦しむシケアル殿下に、私は必死に声をかけた。
だがマリアックにも止められてしまう。
確かに私はシケアル殿下をお掃除した。
だが、そのせいでシケアル殿下が死ぬとは思わなかった。
――私のお掃除が、シケアル殿下を殺すとは思わなかった。
「ア……ガァ……クソッタ……レェ……」
シケアル殿下は苦しそうに恨み言を吐きながら、その体から<暗黒魔法>が抜け落ちておられる。
そして<暗黒魔法>が減っていくと同時に、シケアル殿下ご自身の体も消えるように霧散していき――
――シュウウゥ
――とうとうその姿は、私達の目の前から消えてしまった。
「あ……ああ……そ、そんな……!?」
「……クーリア、お前は悪くねえ。これは仕方のねえことだったんだ。誰が一番悪いのかを問うならば……それはシケアルの兄貴だ」
マリアックは私の肩から腕を外し、逆に私の両肩を抱きながら慰めてくれた。
仮にもマリアックの実の兄上を殺してしまった私に対して、慰めてくれるのはありがたい。
――それでも、私が『お掃除で人を殺した』事実は変わらない。
「……とにかく、いったんここを離れよう。親父達とも合流して、俺が事の顛末を全て話す」
「…………」
もうまともに返事を返す気力もない私の体を支えながら、マリアックと一緒に誓いの大樹の元を後にした――
■
「フェイキッド! クーリア! 全てうまくいったのだな!?」
「ああ、うまくはいった。いったんだがよ……」
――そして私達はジーキライ陛下達と合流した。
私はいまだに放心状態で、マリアックに体を支えてもらっている。
「ク、クーリア!? 大丈夫か!?」
「フェイキッド様! クーリアに何があったのですわ!?」
「それなんだが、俺から少し説明させてもらう――」
旦那様とココラルお嬢様も来てくださり、私のことを心配してくださっている。
私のような者のことを心配してくださっている。
――今の私に心配してもらう程の価値もない。
「シケアルの兄貴はクーリアのおかげで、なんとか倒せたんだがよ――」
マリアックは私の代わりに事の顛末を語ってくれた。
陛下達を困惑させないように、この世界の真実についても今は伏せ、シケアル殿下のお掃除についてを語ってくれた。
そして私がお掃除した結果、シケアル殿下が亡くなられたことも――
「……そうか。そのような結末となったか……」
「なあ、親父。どうかこのことで、クーリアを責めないでやってほしい」
「無論だ。吾輩とて、実の息子といえどもこれほどの横暴をした者を、許すわけにはいかぬ。……クーリアよ、お主が気に病むことなど何一つとしてない」
「…………」
――それらの話を聞き終えて、ジーキライ陛下はご自身の見解を述べられた。
マリアックの弁明のおかげもあるだろうが、私が責められることはなかった。
ただそんな陛下の優しいお言葉も、私の心には届いてこない。
――周囲の方々が許してくださろうと、私が私自身を許せない。
「……ファインズ公爵、ココラルの嬢ちゃん。すまないが、クーリアのことを頼む。今の俺じゃ、こいつにかけてやる言葉が見当たらねえ……」
「……かしこまりました、フェイキッド様。さあ、クーリア。わしらと一緒にファインズ公爵邸に帰ろう」
「まずは帰って、ゆっくり休むのですわ。クーリアは悪くありませんことよ。少し休めば、いつもの調子のクーリアに戻れますわよ……」
「…………」
私の体はマリアックから旦那様の腕の中へと託された。
迎え入れてくださった旦那様もココラルお嬢様も、私を気遣って声をかけてくださる。
そんな優しいお二方に支えられながら、私はファインズ公爵邸への帰路につく。
――ただ、どんなに優しい態度も言葉も、今の私には届かない。
私の心の中で渦巻くのは、この私が犯してしまった大罪についてのみ。
私は<清掃用務員>でありながら、その能力をもってしてのお掃除で、シケアル殿下を死なせてしまった。
私はその身に清掃魂を宿しながら、それを凶器として人を殺してしまった。
――これらの事実は何があろうと、私にとって許されるべきことではない。
そもそも私はこの世界にとってはシケアル殿下と同じ、『転生者』という異物だ。
人々の生活を守る<清掃用務員>としての掟を破り、この世界において異物とも言える存在。
"汚れ"騒動は終焉したが、私にはまだ一つだけ『清掃対象』が残っている――
――その名は、『クーリア・ジェニスター』。
この私自身だ。
次が正真正銘、最後の清掃対象です。




