清掃対象:シケアル・スクリームⅢ
今こそ咆哮させよ! 誇り高き清掃魂を!
領域展開――<咆哮・清掃魂>。
私のその言葉と共に地面へと突き刺さった箒天戟から、白い魔法陣が描かれていく。
その魔法陣の大きさはシケアル殿下が<征服・魔王>のために作った、黒い魔法陣を上回るほど大きい。
――これでいい。この大きさが必要だ。
私はお掃除の基本を思い浮かべながら、魔法陣を描いていく――
「あ、ありえない!? こんなただのモブキャラに……ただの<清掃用務員>に、僕の<征服・魔王>よりも巨大な領域展開を発動できるなんて――」
「私の清掃魂は決して稚拙なものではありません。常に進化を続け、成長する。それこそが<清掃用務員>のあり方にして、清掃魂です!!」
<咆哮・清掃魂>に驚くシケアル殿下に対して、私は熱い清掃魂を込めながら叫んで返す。
だが、こんな時でも頭のクリーンさは忘れない。
魔法陣のサイズが完全にシケアル殿下の<征服・魔王>を上回ったことを確認すると、私は<咆哮・清掃魂>に更なる展開を施す――
「お掃除の基本は、『外から内へ』。お掃除の基本を忘れることなかれ」
――そしてお掃除の基本を、私は魔法の詠唱のように言葉に出して紡いでいく。
その言葉に呼応して、私が描いた魔法陣から無色透明なドームが現れる。
色のせいで見えづらいが、ドームはシケアル殿下の<征服・魔王>を完全に覆い隠している。
これでこれ以上、シケアル殿下が作った<暗黒魔法>が外へ広がることはない。
シケアル殿下がどれだけ強大な<暗黒魔法>を操ろうと、お掃除の基本は変わらない。
「お、おのれぇえ! ふざけた真似をするな! 僕は……僕はこの世界で最強なんだぁああ!!」
シケアル殿下の方は私の清掃魂に気圧されたのか、絶叫しながら<暗黒魔法>を触手のように伸ばしてくる。
だが、これも問題ない。
<暗黒魔法>はお掃除できる。お掃除できるなら<清掃用務員>の敵ではない。
私は地面に刺した箒天戟を抜き取り、強く握りしめながら<咆哮・清掃魂>の次のフェーズへと移る――
「お掃除の基本は、『上から下へ』。箒天戟――モデル『玄武』!」
――ブゥウウン!
「な、なんだ!? 見えない壁のようなものが、僕の<暗黒魔法>を防いだだと!?」
私はモデル『玄武』となった箒天戟を、その場で上から下へと振り下ろす。
そうして現れたのは、頭上の<咆哮・清掃魂>から伸びる無色透明な壁。
私の眼前に現れたその清掃魂のバリアはシケアル殿下の<暗黒魔法>の触手を遮り、私の身を守ってくれた。
――私には理解できる。
私は今まさに<咆哮・清掃魂>で覆われたこの周辺を、完全に支配している。
シケアル殿下の<征服・魔王>をも上回る、圧倒的な領域展開能力。
お掃除の基本を守ることで私の清掃魂に呼応し、<咆哮・清掃魂>も変化していく。
「ふ、ふざけるなぁあ!! こんな馬鹿げた能力に……僕が負けるはずがないんだぁああ!!」
なおも絶叫と発狂を続けるシケアル殿下だったが、今度は周囲の<征服・魔王>から<暗黒魔法>を弾丸のように飛ばしてくる。
これらも全方位へモデル『玄武』の箒天戟でバリアを展開して防いでもいいが、このままだとこちらが守勢に回るばかりだ。
こちらからも攻められるよう、ここは私も次の一手を打とう――
「お掃除の基本は、『奥から手前へ』。箒天戟――モデル『朱雀』!」
ヒュン! ヒュン!
「今度はなんだ!? その変な武器から、何を飛ばしてるんだ!?」
私はモデル『朱雀』となった箒天戟を、その場で頭上で回転させる。
そうした箒天戟からは、私の清掃魂が様々な洗剤の成分を含んだ鳥の姿となって羽ばたき、シケアル殿下の<暗黒魔法>の弾丸へと飛んでいく。
私の位置を『奥』とし、『手前』から来る各々の成分を持った<暗黒魔法>の弾丸を、私の願い通りに対応した成分が含まれた清掃魂の鳥達がどんどんと撃ち落としていく。
さらにはシケアル殿下自身にも清掃魂の鳥は飛んでいく――
「うぐっ!? がはっ!? ば、馬鹿な!? 僕の<暗黒魔法>を貫いてきただと!? 僕の<暗黒魔法>を上回っているだと!?」
――清掃魂の鳥はシケアル殿下へと纏わりつき、その身に宿っている<暗黒魔法>を落としていく。
そうすることでシケアル殿下自身の動きが鈍り、私への攻撃の手も緩む。
――チャンスはここだ。今しかない。
「お掃除の基本は、『"汚れ"をもとから絶つ』。箒天戟――モデル『白虎』!!」
私は箒天戟をさらにモデル『白虎』へと変形させ、一度ゴルフクラブのように構える。
そしてそのままゴルフのように、シケアル殿下目がけてスイングする――
キュルピィィィイイン!!
――そうして出来上がったのは、私とシケアル殿下を結ぶお掃除への道。
箒天戟が振り払われた先へ伸びるように清掃魂が放たれ、シケアル殿下の<暗黒魔法>の影響が及ばない清掃魂のトンネルとなった。
トンネルは高さが低く、とても狭い。
だが、私にはこれぐらいのスペースで問題ない。
「箒天戟――モデル『青龍』……!」
私は箒天戟を対人特化のモデル『青龍』へと変形させ、右手で体の横に添えながら体勢を低くする。
最初の構えで意識するのは、礼のために伏せる従者である<メイド>の如し。
清掃対象たるシケアル殿下に向ける次の動きは、一瞬の勢いを持った<アサシン>の如し。
そしてここから清掃業務完了へ至るのに必要なのは、『絶対にお掃除する』という断固たる信念を持った<清掃用務員>の如し。
それら全てのスキルを信じ、私は一度目を閉じて意識を集中させる。
心を落ち着かせて"静"の清掃魂をまずは保ち、地面に体を沈めたまま感覚を研ぎ澄ます。
これで終わりにする。
私は私が敬愛する方々と愛すべきこの世界のために、シケアル殿下のお掃除を完遂する。
もう、私のターンは決定している――
――ありとあらゆる思いを胸に、私は再び目を開く。
"静"の清掃魂から、"動"の清掃魂への一瞬の切り替え。
その急転換が達人の居合のように、この技をより加速させる――
「<従伏絶掃勢>!!」
――その<清掃用務員>奥義の名を掛け声に、私は清掃魂のトンネルの中を体勢を低くしたまま駆け抜ける。
「く、くそぉ!? 僕が……僕が負けるはずが……!」
トンネルの先にいるシケアル殿下はなんとか体勢を立て直したようだが、もう遅い。
私はそのままシケアル殿下目がけて突撃し、箒天戟を振り払う――
キュッッッピリィィィイイイイン!!!
「のわ~~~~!!??」
――そして完全に決まった<清掃用務員>奥義、<従伏絶掃勢>。
<用務眼>でもシケアル殿下から<暗黒魔法>が抜け落ちていくのが分かる。
――これで全てが終わった。
「おわっ!? おわわわっ!?」
「マリアック!?」
<暗黒魔法>の触手に囚われていたマリアックも解放され、地面へと落ちていく。
私は慌てて真下に駆け寄り、マリアックを受け止める。
「ハァ……ハァ……。や、やったんだな……クーリア……」
「はい。これで"汚れ"の元は絶ちました」
疲弊しきったマリアックの肩を支えながら、私は結末を伝える。
これでようやく終わったのだ。
この"汚れ"騒動の全てが――
「これにて完全に……清掃業務完了です」
これでようやく、終わったのだ……。




