清掃対象:シケアル・スクリームⅡ
「ぐうぅ!? な、なんだこれ!? き、気色悪い――ウアァア!?」
「マリアックゥウ!?」
マリアックの身に襲い掛かった、<暗黒魔法>による大量の触手。
全方位からマリアックの逃げ道を完全に防ぎながら襲い掛かったそれは、マリアックの全身をキツく締め上げてしまった。
「あぐぁあ……!? く、苦しいぃ……!?」
「フハハハ! 僕に逆らわなければ、こんな思いをせずに済んだものを! ……さあ、クーリア・ジェニスター。これ以上フェイキッドの苦しむ姿を見たくないなら、大人しく僕に降伏しろぉお!!」
苦しむマリアックを嘲笑いながら、シケアル殿下は私に降伏を促してくる。
マリアックは目を閉じ、歯を食いしばりながら、<暗黒魔法>でできた触手の締め付けに耐えている。
――その姿を見ていると、私の胸も締め付けられてくる。
マリアックの苦しむ姿は見たくない。
できることなら、私が代わってあげたいぐらいだ。
このままこんな光景を見させられるのなら、ここで私が降伏して――
「ク、クーリア! 俺のことには、か、構うな! 今のうちに、シケアルの兄貴を……掃除しちまえぇえ!!」
――私が迷っていると、マリアックが触手に締め付けられたまま声を張り上げてきた。
かなり苦しそうだが、それでも必死に私に思いを伝えてくる。
ただそれでも、私はどうしても躊躇してしまう――
「で、ですがマリアック。今私がシケアル殿下のお掃除に移ると、あなたも巻き添えを……!」
マリアックはシケアル殿下が操る触手によって、盾にされている状態だ。
いくら箒天戟を始めとした極・清掃三種の神器が私の意志の通りに人に危害を加えないとしても、<暗黒魔法>の影響下にないマリアックを巻き添えにしまっては、それはそれで暴力だ。
私にはそんなことできるはず――
「いいから、やれって言ってんだよぉ! 俺ごと掃除しちまって構わねえ! あ、安心しろ! 俺はお前を……信じてる!!」
――それでも、マリアック本人からの言葉で私の迷いは晴れた。
『私を信じている』というマリアックのそのお言葉は、私にこれまでにないほどの勇気を与えてくれた。
友人を救うため、敬愛する方々を守るため、この国とこの世界を守るため――
私はお掃除を完遂する。
必ずやシケアル殿下を清掃業務完了してみせる。
「……ありがとうございます、マリアック。申し訳ございませんが、暫しの間だけご辛抱願います」
「ああ……やっちまえ! お前の<清掃用務員>の力で……この"汚れ"の元凶のクソ兄貴を……綺麗に掃除しちまいなぁああ!!」
私は決意を込めながら、それでも自然と零れた笑みでマリアックの気持ちに応えた。
マリアックも苦しみながら無理矢理笑顔を作り、私に希望を託してくれた。
――もう私は恐れないし、迷わない。
それら全ての気持ちを清掃魂へと変換し、私はシケアル殿下の前に堂々と構える。
「フハハハ! フェイキッドごと僕に攻撃を加えるつもりか! だがたとえそれができたとしても、僕を倒すことなどできない! 僕のこの<魔王>スキルは赤子の頃から密かにずっと磨き続けてきた力だ! たかが<清掃用務員>ごときに何ができると――」
「<清掃用務員>を舐めないでいただきたいですね。そもそも私は危害を加える攻撃の類は一切しませんし、何より<清掃用務員>とは常に進化を続ける者です」
シケアル殿下はご自身の<魔王>スキルとそれによる<暗黒魔法>に対し、絶対的な自信を持たれているようだ。
確かにシケアル殿下が生まれて十七年の間に培われてきたスキルと、この世界を知り尽くしているという知識は強大だ。
それに対して、私はついこの間、前世の記憶を蘇らせたばかり。
――それでも、私には負けない自信がある。
前世で十二年間に渡って培い、"超一流"と呼ばれる程に磨き上げた<清掃用務員>のスキル。
現世で二十五年間クーリア・ジェニスターとして生き、その中で培った<アサシン>と<メイド>のスキル。
合計約三十七年分の技能と経験と考えれば、私だって負けてはいない。
――そして何より、私を信じてくれる人のためにも、私は自信をもって挑むことができる。
「……この『魔王のデスティニー』という世界は魔法の世界です。私も最初は多少戸惑いましたが、<清掃用務員>のスキルはこの世界に融合し、今尚進化を続けています」
「……? 突然何を言い出す?」
私はシケアル殿下に対し、自信を持って話を始める。
先程シケアル殿下も見せた、『領域展開』という技――
あれはきっと己の"魂"の力を解放し、周辺をそのまま支配する技だ。
シケアル殿下の"魂"の色はマリアックやスミスピア様もおっしゃっていた通り、"漆黒"。
スミスピア様に作らせたその漆黒の剣を媒体としていることで、今この<暗黒魔法>で支配する空間――<征服・魔王>を発動させていることは、直感的に分かる。
――ただ、これらの条件は私にも合致する。
「シケアル殿下。あなたが使った『領域展開』と呼ばれる技ですが、私も使わせていただきます」
「な、なんだと!? 馬鹿な!? お前にこの技を真似できる要因が――」
「要因は揃っております。今私が手にするこの最強のモップ――箒天戟もまた、スミスピア様が作られた至高の一品です」
「はぁ!? なんで<鍛冶屋>がモップを作ってるんだ!? そもそも! それはモップなのか!?」
そうして話をする中で、私は確信をもって次の一手を口にした。
シケアル殿下は私の箒天戟がモップだと分からないようだが、それは仕方ないかもしれない。
今の箒天戟はまだモデルチェンジすらしておらず、普段の巨大なフォークのような姿のままだ。
私はそんな最初の姿のままの箒天戟を両手で握りしめ、先端を地面へと構える。
そしてシケアル殿下がやったのと同じように、清掃魂を込めながら箒天戟の先端を地面へと突き刺した――
「<清掃用務員>流最終奥義。領域展開――<咆哮・清掃魂>!!」
世界よ! ご照覧あれ!
これが<清掃用務員>だぁああ!!




