これが私の一日の流れです。
――午前四時 起床
<清掃用務員>であり、ファインズ公爵邸のメイドのリーダーである私の朝は早い。
最近はお仕事も増えたため、夜明け前には準備に取り掛かる。
まずは前日の内に洗って乾かしておいた清掃道具を、<収納下衣>へと戻す。
<清掃用務員>たるもの、始業前には準備を終わらせておく。
その際に忘れてはいけないのは、清掃道具への感謝の心。
「今日も一日、よろしくお願いします」
<清掃用務員>にとって、清掃道具はまさに命だ。
スミスピア様もおっしゃっていたが、道具には魂が宿っている。
そのお言葉を信じて、私は清掃道具に感謝の言葉を伝えることを習慣づけるようにした。
特に私の清掃魂から生まれた、浄化手袋、地気霧吹、箒天戟は我が子同然なので、入念に感謝の気持ちを込めて優しく撫でながら<収納下衣>へと戻していく。
最近の私の朝の日課だ。
――午前五時 朝食準備
清掃道具の片づけが終わったら、今度は朝食の準備をする。
私はお屋敷のメイドのリーダーでもあるので、献立の担当もしている。
旦那様やココラルお嬢様を始め、お屋敷の方々全員においしくて栄養のあるものを食べてもらいたい。
以前フクシマンことジーキライ陛下のお料理を見てから、私なりにお料理についても勉強を進めている。
「この世界で、醤油は作れないものでしょうか……」
特にこだわっているのは、前世のような食事の再現。
私自身懐かしさもあるが、醤油などの調味料が再現できれば、お料理の幅は広がる。
元々前世から知識があるわけではないが、色々試行錯誤を重ねている。
そんな試行錯誤を続けながら、私はお屋敷にいる全員分の朝食の下ごしらえを行う。
盛り付けなどに関しては、後で他のメイド達に任せる。
ある程度準備ができたら、時間の間を縫いながらお屋敷のお掃除もできる範囲で行う。
――午前六時 朝食配膳
この時間帯になると、私以外のメイドや執事といった住み込みの使用人も起き始める。
そんな使用人達と一緒に朝食の盛り付けを行い、食堂へと配膳する。
一通りの配膳ができ始めたら、私は旦那様とココラルお嬢様を起こしに向かう。
「おはようございます。旦那様、ココラルお嬢様」
「おはよう、クーリア」
「おはようございますですわ。クーリアもよく眠れたのですわ?」
「もちろんでございます」
この時にも礼儀はもちろん忘れない。
私は<メイド>スキルを全開にして、瀟洒にふるまう。
お二方が食堂へとやって来られたら、淹れたての紅茶をふるまう。
これらさりげない一連の動作こそ、普段の何気ない日常を演出してくれる。
<メイド>と<清掃用務員>。
日常を支える二つのスキルがあるからこそできる芸当だ。
――午前七時 登校準備
ココラルお嬢様が聖ノミトール学園に登校するため、私の方でも準備を行う。
私はお嬢様に付き添ってお屋敷を離れることになるので、その間の業務内容を他のメイドに伝えておく。
また、メモの確認や<収納下衣>の中身のチェックを行い、漏れがないかもしっかり確認する。
メモとチェックは<清掃用務員>の嗜み。
事前準備は万全に。重ね重ねのチェックは重要だ。
――午前八時 登校
ココラルお嬢様と一緒に聖ノミトール学園へ登校する。
最近のお嬢様は学園内でも人気者であるため、様々な人が近寄ってくる。
大体がいい人ばかりなのだが、油断はできない。
私は<アサシン>スキルを全開にして、事前の危機を察知できるようにする。
いざという時は私がお嬢様の身代わりとなる必要だって出てくる。
私にとっては忌々しい<アサシン>だった過去だが、ココラルお嬢様のためになるならば本望だ。
――午前九時 学園敷地内清掃
この時間になるとココラルお嬢様は授業に行かれるので、私は私で別行動になる。
箒天戟を始めとした極・清掃三種の神器の使い方になれる意味も含めて、私の方から申し出て学園内のお掃除をさせていただいている。
授業中であっても、課外授業などで行き交う人は多い。
そんな環境で"静"の清掃魂を意識してお掃除することで、私もまた<清掃用務員>として磨かれていく。
「あ、あの! クーリアさん! サインをお願いします!」
「わ、わひにもサインを頼むのじゃ!」
そんな学園内での清掃業務の最中に、よく勇者科の担任の先生と学園長から声をかけられる。
なぜか私のサインをねだってくるが、こういう時も無碍にしてはいけない。
<清掃用務員>たる者、コミュニケーションは大切だ。
マリアックという友人との交友も経て、私自身のコミュニケーション能力も大分上がって来ている。
「どうぞ。私のサインでよろしければ、いくらでもお申し付けください」
「はうぅう!?」
「ほひゅぅう!?」
ただ、マリアックと接する時と比べると、やはり表情や態度が固すぎるようだ。
担任の先生も学園長も、私のサインを受け取ると何故か妙な悲鳴を上げられている。
ここについては、もっと相手に緊張させない態度がまだまだ課題のようだ。
――午前十二時 教会昼食
「お待ちしてましたよ~、クーリア~」
「いつもありがとうございます、マリアック」
お昼になるころには学園内は清掃業務完了となり、昼食のためにマリアックの教会に立ち寄る。
この間に極・清掃三種の神器には私が専用に調合した消毒液のお風呂で、ゆっくり疲れを癒してもらう。
私自身もマリアックとお話をしながら昼食をとり、休息をとる。
「……あっ。あそこの天井のシミが気になりますね。少しお掃除してきます」
「クーリア~……。お昼休憩中ぐらい~、お掃除のことも忘れましょうよ~……」
そんなお昼休憩中であっても、私の清掃魂はうずいて仕方ない。
埃やシミといった汚れを見つけると、すぐさまお掃除に向かう。
マリアックと過ごす時間は大切だが、やはり私にとってお掃除は切っても切れない関係だ。
「まったくも~、クーリアは困ったさんですね~」
ただ、そんな私の態度にもマリアックはほがらかな笑顔で返してくれる。
自惚れかもしれないが、私と彼女の心の距離もだいぶ縮まった気がする。
――午後一時 街中清掃
マリアックの教会で昼食をとった後、私は学園を出て王国の街中の清掃業務へと移る。
私が追っている黒い"汚れ"を追うのと同時に、常に清潔な環境を維持することも重要だ。
"汚れ"の正体はいまだにわからないが、それが"汚れ"である以上、日々のお掃除が"汚れ"への対策にもなる。
<清掃用務員>として、日頃から妥協は許されない。
「あー! クーリアのおねえちゃんだー!」
「いつもおそうじありがとー!」
そうしてお掃除をする私だが、最近は声をかけてくれる人も多くなった。
特に子供達は私に積極的に寄ってきて、感謝の言葉を述べてくれる。
この感謝の言葉だけで、私の清掃魂は黄金の輝きを維持できる。
さりげない感謝の言葉は<清掃用務員>にとって、この上ない賛美の言葉なのだ。
――午後四時 郊外清掃
「クーリアちゃぁあん!! オッパイ揉ませてくれぇえ! ケツ触らせてくれぇえ! ウチにパンツくれぇええ!!」
「申し訳ございません、タワキスさん! その要望にお応えするわけにはいきません!」
王国の中心に位置する街中のお掃除が終わったら、今度は郊外の方のお掃除に向かう。
ただこの時、『ホトトギス』のアジトの周辺も清掃対象に入る。
私がこの辺りに来ると、タワキスさんが『クーリアちゃんの匂いがする!』などと訳の分からないことを言って、目を血走らせながら私を追いかけてくる。
この時ばかりはとにかく<清掃能力強化>と<除菌疾走>を駆使して、最速での清掃業務完了を目指す。
タワキスさんに捕まる事態だけはどうしても避けたい。
私の清掃魂が濁ってしまうし、何より私の大事なものをいろいろ失いそうだ。
そうして私はタワキスさんから逃げ回りながらも、お掃除を終えていく。
――午後五時 王城清掃
「くっ? クーリア殿。また王城の掃除に来られたのか」
「今日もお世話になります。クッコルセ団長」
タワキスさんから逃げ回りながら即行で清掃業務完了した後、私は王城のお掃除へと向かう。
郊外の後に王城。
この順番には、私なりの意味がある――
「ハァ、ハァ……! クーリアちゃ~ん……! なんでいつも王城に逃げ込むんや~……!」
「くっ!? こいつ、いつもの変質者か!? 今日という今日は逃がさんぞ!」
――追ってきたタワキスさんを撒くためだ。
流石のタワキスさんも裏社会を仕切る『ホトトギス』のボスとして、王城にまでは入れない。
最近はここまで私を追ってきたタワキスさんを、今度はクッコルセ団長が追いかけるのがいつもの流れだ。
「フゥ……。流石に疲れてきましたね……」
この頃になってくると、私にも少し疲れが見えてくる。
その疲れを癒すためにも、<収納下衣>からポーションを取り出し、一気に飲み干す。
この世界のポーションは前世で言うエナジードリンクのようなもののようだ。
日によっては五、六本飲むときもあるが、これは非常に頼りになる。
いつも<収納下衣>にも最低十本は用意している。
そうして少し体力を回復したら、私は王城のお掃除を始める。
――午後六時 帰還
王城のお掃除も終えると、私はファインズ公爵邸に戻る。
そしてまずやるべきは夕食の準備だ。
メイド達にその日の献立を伝え、私もまたお料理に入る。
「うわぁ……! クーリア先輩、すごい包丁さばきですね……!」
元々<アサシン>として刃物の扱いには慣れていたが、最近はお料理の腕前自体も上がって来ている。
そのおかげで、今ならものの数分で全ての材料を切り終えることができる。
「フゥ……。すみません。後の手順はお願いします」
「わ、分かりました!」
ただ、私も流石に手が足らなくなってくる。
材料を切り終えた後は後輩メイドに残りのお料理を任せ、私は別のお仕事へと移る。
――午後七時 就寝準備
この時間帯に旦那様やココラルお嬢様は、食堂で夕食をとられる。
よって、この時間は私にとってチャンスとなる。
「……よし。ベッドメイクもできました」
お二方の自室に誰もいない間に、私は就寝準備を整える。
<清掃用務員>としても、<メイド>としても、ベッドメイクのスキルは習得している。
そのスキルで素早くベッドメイクを終わらせると、お部屋の中のお掃除もしておく。
旦那様とお嬢様の部屋となると、今まで以上の丁寧さが求められる。
間違って私物を壊すことなど、決してあってはならない。
私は<アサシン>、<メイド>、<清掃用務員>のスキルを総動員し、明鏡止水の心をもってしてお掃除を終える。
――午後八時 屋敷内清掃
少し遅くなってしまったが、ここでファインズ公爵邸の残りのお掃除を行う。
朝の内にも他のお仕事と同時進行で少しは行っていたが、この時間帯に集中して終わらせてしまう。
「ふぁ~……。まだ午後の八時だというのに、なんだか眠いですね……」
ただ最近気になるのは、こんな早い時間帯で眠気が襲ってくるということだ。
こういう時にもポーションを飲み干すが、もう少し本数を用意した方がいいかもしれない。
――午後十時 業務終了連絡
「それでは皆さん。本日もお疲れさまでした」
「クーリア先輩! お疲れさまでした!」
この時間帯になると、旦那様やココラルお嬢様も自室でお休みに入られる。
私もメイドのリーダーとして、後輩メイド達に終業の挨拶をする。
住み込みの者はそれぞれの部屋へ、家に帰る者はそれぞれの家へと帰っていく。
このタイミングで一日のお仕事は終わりなのだが、私にはまだやるべきことがある。
――午後十一時 鍛錬
お仕事が終わると、私はお屋敷の外で一人鍛錬に励む。
"汚れ"の正体が分からない以上、その規模は未知数。
"超一流"ということに溺れることなく、私は<清掃用務員>として更なるレベルアップを図る。
「箒天戟の扱いにもだいぶ慣れてきましたね。本当にこの子はいい子です」
特に重視すべきは箒天戟の扱い。
この子は素晴らしい清掃道具ゆえ、使い手である私自身にも相応の力が求められる。
お掃除の基本を思い出しながら、モデルチェンジも使い分け、決して慢心せずに箒天戟の動きを確認する。
<清掃用務員>として、努力を怠ってはいけない。
その後は屋外のシャワーを使い、自身の体を素早くきれいに洗い上げる。
――午前一時 片付け
その日の鍛錬とシャワーが終わったら、使い終わった清掃道具を入念にお手入れする。
各種清掃道具は綺麗に磨き上げ、不足し始めた洗剤やポーションは補充する。
浄化手袋は丹念に揉み洗い、地気霧吹は綿棒で細部まで磨き、箒天戟はしっかりブラッシングする。
道具もまた建物などと同様、こういった日々のお手入れが長持ちの秘訣だ。
――午前三時 就寝
全ての清掃道具の片付けが終わったところで、私も寝る。
ただ最近は何故か横になると起きられないので、イスに座ったま窓辺に寄り添うようにして寝ている。
これなら次の日も問題なく起きられる。
以上がこの私、クーリア・ジェニスターのここ最近の一日の流れだ。
※こんな生活、絶対に真似しないでください。




