手掛かりを探してみます。
"フェイキッドの亡霊"に"ホーク"を盗まれた後、『ホトトギス』のアジトでは状況の確認が行われていた。
まず、"フェイキッドの亡霊"が変装していたタワキスさんの部下だが、アジト内の倉庫に縛られたまま閉じ込められていた。
彼が言うにはずっと倉庫に閉じ込められていたらしく、私にも助け出された時に初めて会ったそうだ。
私どころかタワキスさんを始めとする、『ホトトギス』のメンバーでさえも見破れなかった。
それほどまで完全に別人に成りすます、"フェイキッドの亡霊"の変装能力――
「タワキスさん。先程の人物が使ったスキルは、<役者>のものでしょうか?」
「多分そうやと思うんやけど……。ウチの目ぇまで誤魔化せるなんて、本来有り得へん話やで……」
タワキスさんは疑問に思いながらも、私の考えに答えてくれる。
この世界において私でも知っている、変装能力を持ったスキル――<役者>。
高レベルで使いこなせる者は、それこそ見た目は完全に同じにすることができる。
――だが、"フェイキッドの亡霊"が変装していたのは、見た目だけではない。
声も変えていたし、何よりとんでもないのは<アサシン>の『命の流れを視る』能力でも見破れなかったということだ。
命の流れには個々の違いがある。
私もそれでココラルお嬢様達のような存在を、見えない範囲からでも確認することができる。
当然、タワキスさんにも同じ能力があるのだが、そのタワキスさんの目をも"フェイキッドの亡霊"は欺いた。
――タワキスさんがボスである『ホトトギス』のメンバーに、完全になりきっていたのだ。
「それにしても、これからどうすればいいのでしょうか……? "ファルコン"どころか、"ホーク"まで盗まれてしまうなんて……。それに"汚れ"まで使いこなしています……」
謎の多い"フェイキッドの亡霊"だが、何より今問題視すべきは『この騒動が拡大する可能性』だ。
魔法銃"ファルコン"と実弾銃"ホーク"が両方ともあの人の手に渡った今、あの二丁拳銃はリンク効果でその力を最大限に発揮できるようになった。
そして、"フェイキッドの亡霊"は"汚れ"を自らの力としている。
おそらく、あの人物はこれまでの"汚れ"騒動の元凶と見える。
このままでは私がお掃除するどころか、被害が拡大する一方だ。
それどころか、下手をすれば人が死ぬことも――
「なあ、クーリアちゃん? さっきからあの"フェイキッドの亡霊"とか言う奴が使っとったあの『黒い魔法弾』のことを、"汚れ"って呼んどるよな?」
「はい。あれは私の<清掃用務員>スキルでも確認できましたが、間違いなく"汚れ"です」
「う~ん……。クーリアちゃんが何を言うとるのか、イマイチはっきりせえへんが――」
私が一人考え込んでいると、タワキスさんが口を挟んでこられた。
どうやら、"汚れ"が何かよく分からないらしい。
ここは一つ、私が<清掃用務員>として日頃のお掃除の基本からレクチャーを――
「あの『黒い魔法弾』――"汚れ"やったか? あれはきっとウチがクーリアちゃんに使った、『愛の魔法弾』と同じ類の魔法やと思うで」
「……え!?」
――私がレクチャー方法を考えていると、タワキスさんの話に思わず驚いてしまった。
「タワキスさんのあのピンク色の魔法弾と、"汚れ"が同じ類とはどういうことですか!?」
「ウチの愛を『汚い』とか言わんといてくれや……。せやけど、同じような魔法弾を使ってるウチが思うに、そんな感じがするわ」
――これは思わぬ収穫。
どんな形にせよ、タワキスさんからこれまでの黒い"汚れ"の正体に迫れる情報が得られるかもしれない。
これは<清掃用務員>として、情報を聞かずにはいられない――
「あの『黒い魔法弾』もウチの『愛の魔法弾』――<百合魔法>と同じような魔法や」
「……なんでしょうか? その<百合魔法>というものは?」
――ただ、タワキスさんの口から出てきた言葉は意味が分からなかった。
<百合魔法>と言っているが、その名称は百合の花に失礼ではないだろうか?
百合は綺麗だ。清廉潔白だ。
だがタワキスさんの放つそれは、想像を絶するほど汚い。
月とスッポン、花畑とゴミ収集場ほど大きな差がある。
「……まあいいです。とにかく、その<百合魔法>というものと、"汚れ"が同じようなものということでしょうか?」
「多分やけどな。あの黒い"汚れ"とか言うのも、ウチの<百合魔法>と同じく、『精神のエネルギーを元にした魔法』のような気がするわ」
――『精神のエネルギー』。
確かにこれまで重度の"汚れ"に汚染されてきた人達は、その心をも支配されていた。
この世界の魔法の法則なんて分からない。
だが、そこに可能性がある以上、<清掃用務員>として追及する必要がある。
何より、タワキスさんの<百合魔法>も"汚れ"も、『汚い』という点では共通している。
「タワキスさん。ご助言、感謝します。私はこれから調べたいこともあるので、これで失礼します」
「え~、もう帰るんかいな……。しゃーないけど、一つだけクーリアちゃんに言っときたいことがあるわ」
「私に言いたいことですか?」
アジトを出ようとする私に対し、タワキスさんは一度物凄く嫌そうな顔をしながらも、真剣な表情へと変えて語り掛けてきた――
「今のクーリアちゃんは、かつて自分が<アサシン>やったことを悔やんでるようにも見える。せやけど、そないに気負わんでええで。クーリアちゃんはクーリアちゃんや。『ホトトギス』で<アサシン>をやっとったことも、なんやったら忘れてもらってかまわへん」
――それは昔からクーリア・ジェニスターという人間をよく知る、タワキスさんだから出た言葉だった。
なんだかんだで、この人は私のことをよく知っている。
私が内心、自身の<アサシン>としての過去に苦悩していることも、どうやら見抜かれていたようだ。
「お心遣い、感謝いたします。私にもまだ思うところはありますが、心の片隅に置かせていただきます」
「キャキャキャ! ウチはクーリアちゃんが元気ならそれでええんや! またなんか悩みがあるんやったら、ウチも相談に乗ったるわ!」
タワキスさんはその大きな胸を張りながら、私の心を汲み取ろうとしてくださっている。
スキンシップの多さがタマにキズだが、私のことを心配してくれているのは本心のようだ。
本当に困ったことがあれば、相談にきて――
「あ! ほんならまたここ来るときは、クーリアちゃんの使用済みブラやパンツも持って来てくれや!」
「……すいません。もう二度と来ません」
――やはり、やめておこう。
相談するならもっと適任者がいるはずだ。
私は後ろで必死にスカートをめくろうとしてくるタワキスさんから逃げるように、『ホトトギス』のアジトを後にした。
そして帰り道で考えるのは、今後やるべき"報連相"。
話すべき相手は、旦那様とジーキライ陛下。
報告すべきは、『ホトトギス』であった一連の騒動。
連絡すべきは、"汚れ"の正体が『精神エネルギーの魔法』である可能性があること。
相談すべきは、その『精神エネルギーの魔法』を調べるために、当初の願いだった場所へ入れてもらうこと――
――王城にある蔵書室。
あそこなら、何かヒントがありそうだ。
とにかく変なワードが多いです。




