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清掃対象:フェイキッドの亡霊

真面目に強敵。

"フェイキッドの亡霊"。

「あなたはあの時の……"フェイキッドの亡霊"!?」

「こいつを知っとるんか!? クーリアちゃん!?」


 タワキスさんも自身の部下が突然別人に変わり、動揺しながらも私に尋ねてくる。


 私が下水度で会った、私を銃撃した犯人。

 あの時と同じく、黒のレインコートに『笑い狐の面』。

 そして――




 ――実弾銃"ホーク"と対になる、魔法銃"ファルコン"を盗んだ張本人。




「あぁ、あの時のメイドか。テメェに用はないんだ。今回の俺の目的は一つだけ――」


 "フェイキッドの亡霊"は私にわずかに反応するが、すぐさま次の行動へと移った。

 保管庫の壁を蹴り、天井を蹴って舞いながら、一直線に置かれている"ホーク"を狙う――




「クーリアちゃん! 下がっとれ! ワレみたいな怪しい奴に、"ホーク"はやらへんでぇえ!!」


 そんな"フェイキッドの亡霊"に立ち向かうべく、タワキスさんが私を腕で制しながら前へと出る。

 そして、"ホーク"を狙って飛び込んできた"フェイキッドの亡霊"へ、"ヤタガラス"の銃口を向けて――



 バァアンッ! バァアンッ!



 ――実弾を連射した。

 タワキスさんは本気で"フェイキッドの亡霊"を殺しにかかっている。

 私の頭の中で、『人が殺されようとしているなら、止めるのが<清掃用務員>の務め』という考えがよぎるが、そんな考えはすぐに無意味なものだと分かる――



 ヒュン! ヒュン!



「な、なんやこいつ!? 身のこなしが軽すぎるやろ!?」


 ――"フェイキッドの亡霊"はタワキスさんの銃弾を軽々と躱し、どんどんと距離を詰めてくる。

 そして"ホーク"の傍にいるタワキスさんの近くまで来ると――



 バシンッ!



「痛っ!? こ、こいつ!? 何モンや!?」


 ――タワキスさんが持っていた"ヤタガラス"を、側転しながら蹴り落とした。

 その一連の流れだけでも分かる。

 この"フェイキッドの亡霊"と思われる人物は、とんでもない体術の使い手だ。

 その動きは、"超一流"の<アサシン>と同等クラス――


「クソがぁあ!! 舐めとんちゃうぞぉお!!」


 ――だが、タワキスさんとて負けてはいない。

 仮にも『ホトトギス』のボスなだけのことはあり、体術の腕前も私が知るころよりパワーアップしている。

 回し蹴りで"フェイキッドの亡霊"を牽制し、"ホーク"から距離をとらせる。


「仕方ねえ……。テメェにもちょっと、大人しくしててもらおうか……!」


 そう言うと、"フェイキッドの亡霊"は胸元に右手を入れて何かを取り出した――




「なっ!? そ、それは、魔法銃"ファルコン"か!? ワレが盗んだんか!?」


 ――タワキスさんも驚く通り、"フェイキッドの亡霊"の右手に握られているのは、狙われている実弾銃"ホーク"の対となる魔法銃"ファルコン"だ。

 "フェイキッドの亡霊"は右手で"ファルコン"を構えると、その銃口をタワキスさんへと向けてくる――


 ――私の<清掃用務員>としての本能が告げている。

 今、"ファルコン"には前回と同じように『黒い"汚れ"の弾丸』が込められている。

 タワキスさんには"汚れ"に対抗する術はない。

 いくらタワキスさんがピンク色の高濃度の汚染物であろうと、黒い"汚れ"はそれ以上に人の心を蝕んでくる。




 私は<清掃用務員>。

 たとえタワキスさんのように、もう手遅れなまでに汚れた人であっても――




 ――それ以上に汚さないよう、守ることもまた務めだ。




 バギュゥウン!


 バシンッ!



「ッ!? 俺の魔法弾を弾きやがった!?」


 私はタワキスさんの前へと出て、浄化手袋(ラーグローブ)で"ファルコン"から放たれた"汚れ"の弾丸を弾き飛ばす。


「つぅ……!? これは、ただの"汚れ"ではありませんね……!」


 なんとか浄化手袋(ラーグローブ)で"汚れ"の弾丸を弾くことはできたが、その際の感触は私の手にもしっかり伝わって来た。

 今"フェイキッドの亡霊"が放った"汚れ"は、とんでもなく濃度が高い。

 油汚れ、排泄物、水垢――

 そういったありとあらゆる"汚れ"の集合体とも言える程、その力は強大だ。

 浄化手袋(ラーグローブ)越しにでも、私の手が痺れてくる。


「チィ……。面倒な女だ……」


 私が"汚れ"を塞いだのを見て、"フェイキッドの亡霊"はその矛先を私へと変えてくる。

 右手に握られた"ファルコン"を私目がけて構えると――



 バギュゥン! バギュゥン!



 ――"汚れ"を私目がけて連射してきた。


「地気霧吹(アースプレー)! お願いします!」


 それに対して私もエプロンドレスのポケットから地気霧吹(アースプレー)を取り出し、高濃度の界面活性剤を射出して撃ち落とす。

 <用務眼(ヨウムアイ)>で"汚れ"を細かく分析する余裕もない。

 浄化手袋(ラーグローブ)で弾こうにも、触れることさえ危険なレベルの"汚れ"だ。

 とにかく今は界面活性剤の『中性洗剤として、"汚れ"を浮かすことに特化した効果』に頼り、ひたすら撃ち出される"汚れ"を撃ち落としていく――



 バギュゥン!



「ぐぅ!? 流石に分析が甘かったですね……!」


 ――それでも、"汚れ"の弾丸を完全に相殺することはできない。

 濃度こそ薄まったが、勢いがそのままの"汚れ"の弾丸の一発が私の右肩に当たり、地気霧吹(アースプレー)を思わず落としてしまう。

 そして痛みで右肩を抑えながらよろめく私に対し、"フェイキッドの亡霊"はなおも"ファルコン"の銃口を向けてくる。


「ク、クーリアちゃん!?」

「動くんじぇねえよ、『ホトトギス』のボス。テメェが下手に動いたら、俺はこの女を撃ち殺す」

「ぐっ……!?」


 さらに身動きが取れなくなった私を銃口で逃さないようにしながら、タワキスさんをも口で制してくる。


 ――完全にこちらの劣勢。

 私とタワキスさんの二人を相手に、この"フェイキッドの亡霊"の姿をした人物は一人で完全に優勢に立っている。


 ――強すぎる。こんな人は見たことがない。

 <アサシン>としてのスキルだけではない。

 ここに至るまでに使っていた変装スキルや、<清掃用務員>の私をも上回る冷静で迅速で的確な判断力――




 思わず私の清掃魂(セイソウル)さえも、萎縮してしまう。

 圧倒的な戦闘力と、"汚れ"の力の両立。

 こんな相手に、どうやって対抗すれば――






「……おい、クーリア・ジェニスター」

「え……?」


 私が戦慄していると、"フェイキッドの亡霊"が私に声をかけてきた。

 その声はやはりやや高めだが、男性のもの。

 だがそれは、どこか私を諭すようなトーン――




「お前はこれ以上、"汚れ"だなんだの件に首を突っ込むな。……命を落とすことになるぞ」




 ――そしてその内容もまた、私への助言のようなもの。




「それはどういう――」

「これ以上は何も言えん。それに俺も、そろそろ目的を果たさせてもらう」


 私の疑問を遮りながら、"フェイキッドの亡霊"の姿が突如視界から消えた。

 決して姿そのものが消えたのではない。

 想像もつかないスピードで、私の視界から一瞬で消えただけだ。


 そして"フェイキッドの亡霊"が次にした行動は――



 ガシィ!



「それじゃ。実弾銃"ホーク"は頂いていくぜ」

「あっ!? し、しもた!?」


 ――置かれていた"ホーク"の強奪。

 タワキスさんも反応するが、すでに"フェイキッドの亡霊"は"ファルコン"と"ホーク"を持ちながら、保管庫の外へと出ている。


「ボ、ボス!? 何があったでヤンスか!?」

「お前ら! その黒い服着た仮面の奴を逃がすな! 取り押さえろ!」

「わ、分かったでゴン――スゥ!?」

「は、速すぎるでアリンス!?」


 タワキスさんの部下も騒ぎを聞いて駆け付けてきたようだが、その隙間も軽々と抜けて、"フェイキッドの亡霊"は吹き抜ける風のように走り抜けていく。




 ――そして、あっという間に『ホトトギス』のアジトから消えていった。




「な、何者やったんや……? そ、そや! クーリアちゃん! 無事か!?」

「私は大丈夫です。それよりも、"ホーク"が――」

「残念やが、なってもうたもんはしゃーない。とにかく、今はクーリアちゃんの手当てと状況確認や」


 タワキスさんが言う通り、今から追っても遅すぎる。

 今はこの状況でできることを優先するべきだ。


 それこそ、亡霊のように掴むことさえできなかった存在――"フェイキッドの亡霊"。

 ただ姿こそ童話に出てくる姿と同じだが、確かにあの人は生きた人間だ。

 私の<アサシン>時代の武器である"ファルコン"と"ホーク"を手に入れた、この"汚れ"騒動に大きく関わってくる人物。




 "汚れ"の元を断つためにも私はまた、あの"フェイキッドの亡霊"と対峙しないといけない。

 それこそが――<清掃用務員>の使命だ。

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