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もう一つの拳銃を確認します。

「うわ~ん……! クーリアちゃ~ん……! 堪忍してえや~……! 十年ぶりの再会で、ウチも歯止めがきかんようになってもうたんや~……!」


 私がお掃除し終えたタワキスさんは、少し時間が経つと目が覚めた。

 そしてそこから、私の足にしがみつきながらの号泣謝罪。

 要するに、十年ぶりに私に会えたことがあまりにも嬉しくて、ついつい暴走してしまったようだ。


「……分かりました。分かりましたので、もう私の足から離れてください。メイド服のスカートで鼻水を拭かないでください。……後、どさくさに紛れて、私の足をスリスリしないでください」


 ピンク色の"汚れ"が落ちたことで少しは落ち着いたようだが、それでもタワキスさんのスキンシップは完全には収まらない。

 よく見ると、少しずつだがタワキスさんから再びピンク色の"汚れ"が溢れ始めている。


 ――どうやらこの"汚れ"は、本当にタワキスさんが死ぬまで落ちることはないようだ。


「それよりも、これで満足いただけたでしょうか?」

「ああ。なんやクーリアちゃんのヤバいスキルのおかげで、スッキリしたわ。ほんなら、約束通り"ホーク"に会わせたるわ」


 かなり面倒でひどい目には会ったが、これでようやく目的のものを確認することができる。

 実弾銃"ホーク"――"フェイキッドの亡霊"と思われる人物に盗まれた、魔法銃"ファルコン"と対になる拳銃。

 かつての使い手として、その無事をどうしても確認しておきたい。


「ほんなら、早速行こか。"ホーク"の保管場所は、ウチにしか開けられへん」

「よろしくお願いします。……すみません、私のお尻を撫でるのはやめてください」


 私はタワキスさんにお尻を撫でられながら、『ホトトギス』アジトの奥へと案内される。

 さっきよりも触り方が優しくなったのが、せめてもの幸いと思っておこう。





「あっ! ボス! それにさっきのメイドさん!」

「おぉう。すまんが、ちーっと見張りを頼むで。ここの保管室を開けるさかいな」


 そうして私は一際厳重な扉のある部屋へと案内された。

 その扉の前には私がここに来た時に一番最初に会った、『ホトトギス』の男が立っている。

 タワキスさんと話しながらここの守りを任されているあたり、それなりの地位を持っているようだ。


「ほな、ちょいと待っとれや、クーリアちゃん。今、保管庫を開けたるさかい」


 そう言ってタワキスさんは近くにある石板に自身の手を当てる。

 その様子を見る限り、前世で言う指紋認証のようなものなのだろう。

 成程。これならタワキスさん以外の人間は入れない。

 私も今度お屋敷の専用用務室に設置できないか、検討してみよう。

 あの部屋には混ぜると危険なものも多い。

 私以外の人間が不用意に入ると、非常に危険だ。

 安全意識への徹底もまた、<清掃用務員>としての嗜みである。



 ――ガコンッ



「よし、開いたで。ほな、クーリアちゃんは中に入ってくれや」


 認証が終わったのか、保管庫の扉が開かれた。

 門番の男の人を入り口に残し、私とタワキスさんだけが保管庫へと入る。


 そして部屋の奥に、目的のものが鎮座していた――




 ――実弾銃"ホーク"。

 ひとまずはその無事を確認することができた。




「……安心しました。"ホーク"まで盗まれていたら、大変なことになっていましたので」

「せやな。魔法銃"ファルコン"と実弾銃"ホーク"は二つで一組。二丁拳銃として揃った時、二つの拳銃は真価を発揮するからな」


 私はタワキスさんと一緒に、"ファルコン"と"ホーク"について語る。

 私が<アサシン>時代に『ホトトギス』から譲り受けていたこの二丁拳銃には、互いがリンクする性能が備わっている。

 今にして思えば、スミスピア様に作ってもらった極・清掃三種の神器クリーンアップアルティメットリオと同じような原理なのだろう。


 私の<収納下衣(タンスカート)>の中身とのリンク。

 私自身の清掃魂(セイソウル)とのリンク。


 それらと同じように"ファルコン"と"ホーク"が二つとも揃うと、その性能はさらに上がる。

 威力はもちろん、リンクの影響なのか弾切れさえ起こさなくなる。

 その強大さゆえ、"ファルコン"と"ホーク"の管理は『ホトトギス』の中でも重大案件だ。


 今にして思えば、よく私にこんなとんでもない二丁拳銃が与えられていたものだ。




「クーリアちゃん。なんやったら、"ホーク"はクーリアちゃんが持っとかへんか? 『ホトトギス』のボスであるウチが許可するで」

「いえ、ご遠慮します。今の私は<清掃用務員>です。人に危害を加えることはしません」

「『セイソウヨウムイン』っつーのが何かは分からへんが、あの将来有望な<アサシン>やったクーリアちゃんが、『人に危害を加えない』やなんて、どえらい変わりようやな」


 ――タワキスさんとの会話で出てきたその言葉を聞いて、私は自らの罪を思い出した。

 これまで<清掃用務員>として覚醒して以降、その誇りと信念を元にお掃除にいそしんできた。


 だが、私は元<アサシン>。

 『人に危害を加えた経験』のある人間だ。

 この世界では前世のように大きな罪には問われないが、それでも私の心の奥底には深く禍根を残している。

 どれだけ今、<清掃用務員>としての使命を全うしようと、その過去は変えられない。




 ――もしかしたら、私自身が一番汚れているのかもしれない。




「へぇ……。ここが"ホーク"の保管庫ですか。俺も初めて見ましたよ」

「あ! こら! お前は勝手に入ってきたらアカンやろ!」


 私がそんな苦悩を抱えていると、保管庫の入り口で見張りをしていた男が中へと入って来た。

 タワキスさんは勝手に入ってきたことを注意しているが、部下であるはずの男は聞く耳を持たずにこちらへと近づいてくる――






「……やっと見つけたんだ。悪いが、"ホーク"も俺がいただく」

「ッ!? だ、誰やお前!?」


 ――その時、男の声色が変わった。

 これまでのものとは違い、やや高音の男性の声――

 それを聞いたタワキスさんは、すぐさま"ヤタガラス"を男に構え――



 ボォオンッ!



 ――銃口から炎の魔法弾を発射した。

 先程私に使っていたものとは違う。

 タワキスさん自身の目つきもかなり鋭くなっている。

 今、タワキスさんは本当に男を殺すつもりで攻撃した。


 ――私にも分かる。

 この状況と、<アサシン>としての『命の流れを視る』能力で判断できる。

 『命の流れ』そのものが、大きく変化している――




 ――この男の人は、さっきまでの人間とまるで別人だ。




「チッ。流石に変装はここまでか。まあいい。目的のものはもうそこにある。さっさといただくとするか」


 "ヤタガラス"による魔法弾で焼け移った炎をかき消すように、男は燃え盛る衣服を脱ぎ捨てた。


 そしてその下から現れたのは、全身を包む黒のレインコートに、『笑い狐の面』――




 ――"フェイキッドの亡霊"だ。

童話の亡霊、再び。

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