もう一つの拳銃を確認します。
「うわ~ん……! クーリアちゃ~ん……! 堪忍してえや~……! 十年ぶりの再会で、ウチも歯止めがきかんようになってもうたんや~……!」
私がお掃除し終えたタワキスさんは、少し時間が経つと目が覚めた。
そしてそこから、私の足にしがみつきながらの号泣謝罪。
要するに、十年ぶりに私に会えたことがあまりにも嬉しくて、ついつい暴走してしまったようだ。
「……分かりました。分かりましたので、もう私の足から離れてください。メイド服のスカートで鼻水を拭かないでください。……後、どさくさに紛れて、私の足をスリスリしないでください」
ピンク色の"汚れ"が落ちたことで少しは落ち着いたようだが、それでもタワキスさんのスキンシップは完全には収まらない。
よく見ると、少しずつだがタワキスさんから再びピンク色の"汚れ"が溢れ始めている。
――どうやらこの"汚れ"は、本当にタワキスさんが死ぬまで落ちることはないようだ。
「それよりも、これで満足いただけたでしょうか?」
「ああ。なんやクーリアちゃんのヤバいスキルのおかげで、スッキリしたわ。ほんなら、約束通り"ホーク"に会わせたるわ」
かなり面倒でひどい目には会ったが、これでようやく目的のものを確認することができる。
実弾銃"ホーク"――"フェイキッドの亡霊"と思われる人物に盗まれた、魔法銃"ファルコン"と対になる拳銃。
かつての使い手として、その無事をどうしても確認しておきたい。
「ほんなら、早速行こか。"ホーク"の保管場所は、ウチにしか開けられへん」
「よろしくお願いします。……すみません、私のお尻を撫でるのはやめてください」
私はタワキスさんにお尻を撫でられながら、『ホトトギス』アジトの奥へと案内される。
さっきよりも触り方が優しくなったのが、せめてもの幸いと思っておこう。
■
「あっ! ボス! それにさっきのメイドさん!」
「おぉう。すまんが、ちーっと見張りを頼むで。ここの保管室を開けるさかいな」
そうして私は一際厳重な扉のある部屋へと案内された。
その扉の前には私がここに来た時に一番最初に会った、『ホトトギス』の男が立っている。
タワキスさんと話しながらここの守りを任されているあたり、それなりの地位を持っているようだ。
「ほな、ちょいと待っとれや、クーリアちゃん。今、保管庫を開けたるさかい」
そう言ってタワキスさんは近くにある石板に自身の手を当てる。
その様子を見る限り、前世で言う指紋認証のようなものなのだろう。
成程。これならタワキスさん以外の人間は入れない。
私も今度お屋敷の専用用務室に設置できないか、検討してみよう。
あの部屋には混ぜると危険なものも多い。
私以外の人間が不用意に入ると、非常に危険だ。
安全意識への徹底もまた、<清掃用務員>としての嗜みである。
――ガコンッ
「よし、開いたで。ほな、クーリアちゃんは中に入ってくれや」
認証が終わったのか、保管庫の扉が開かれた。
門番の男の人を入り口に残し、私とタワキスさんだけが保管庫へと入る。
そして部屋の奥に、目的のものが鎮座していた――
――実弾銃"ホーク"。
ひとまずはその無事を確認することができた。
「……安心しました。"ホーク"まで盗まれていたら、大変なことになっていましたので」
「せやな。魔法銃"ファルコン"と実弾銃"ホーク"は二つで一組。二丁拳銃として揃った時、二つの拳銃は真価を発揮するからな」
私はタワキスさんと一緒に、"ファルコン"と"ホーク"について語る。
私が<アサシン>時代に『ホトトギス』から譲り受けていたこの二丁拳銃には、互いがリンクする性能が備わっている。
今にして思えば、スミスピア様に作ってもらった極・清掃三種の神器と同じような原理なのだろう。
私の<収納下衣>の中身とのリンク。
私自身の清掃魂とのリンク。
それらと同じように"ファルコン"と"ホーク"が二つとも揃うと、その性能はさらに上がる。
威力はもちろん、リンクの影響なのか弾切れさえ起こさなくなる。
その強大さゆえ、"ファルコン"と"ホーク"の管理は『ホトトギス』の中でも重大案件だ。
今にして思えば、よく私にこんなとんでもない二丁拳銃が与えられていたものだ。
「クーリアちゃん。なんやったら、"ホーク"はクーリアちゃんが持っとかへんか? 『ホトトギス』のボスであるウチが許可するで」
「いえ、ご遠慮します。今の私は<清掃用務員>です。人に危害を加えることはしません」
「『セイソウヨウムイン』っつーのが何かは分からへんが、あの将来有望な<アサシン>やったクーリアちゃんが、『人に危害を加えない』やなんて、どえらい変わりようやな」
――タワキスさんとの会話で出てきたその言葉を聞いて、私は自らの罪を思い出した。
これまで<清掃用務員>として覚醒して以降、その誇りと信念を元にお掃除にいそしんできた。
だが、私は元<アサシン>。
『人に危害を加えた経験』のある人間だ。
この世界では前世のように大きな罪には問われないが、それでも私の心の奥底には深く禍根を残している。
どれだけ今、<清掃用務員>としての使命を全うしようと、その過去は変えられない。
――もしかしたら、私自身が一番汚れているのかもしれない。
「へぇ……。ここが"ホーク"の保管庫ですか。俺も初めて見ましたよ」
「あ! こら! お前は勝手に入ってきたらアカンやろ!」
私がそんな苦悩を抱えていると、保管庫の入り口で見張りをしていた男が中へと入って来た。
タワキスさんは勝手に入ってきたことを注意しているが、部下であるはずの男は聞く耳を持たずにこちらへと近づいてくる――
「……やっと見つけたんだ。悪いが、"ホーク"も俺がいただく」
「ッ!? だ、誰やお前!?」
――その時、男の声色が変わった。
これまでのものとは違い、やや高音の男性の声――
それを聞いたタワキスさんは、すぐさま"ヤタガラス"を男に構え――
ボォオンッ!
――銃口から炎の魔法弾を発射した。
先程私に使っていたものとは違う。
タワキスさん自身の目つきもかなり鋭くなっている。
今、タワキスさんは本当に男を殺すつもりで攻撃した。
――私にも分かる。
この状況と、<アサシン>としての『命の流れを視る』能力で判断できる。
『命の流れ』そのものが、大きく変化している――
――この男の人は、さっきまでの人間とまるで別人だ。
「チッ。流石に変装はここまでか。まあいい。目的のものはもうそこにある。さっさといただくとするか」
"ヤタガラス"による魔法弾で焼け移った炎をかき消すように、男は燃え盛る衣服を脱ぎ捨てた。
そしてその下から現れたのは、全身を包む黒のレインコートに、『笑い狐の面』――
――"フェイキッドの亡霊"だ。
童話の亡霊、再び。




