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お風呂の後に報連相です。

「ここが王城のお風呂ですか。流石に広いですね」

「まあ、アタイも下水の臭いが染みついたまま、陛下に会うわけにはいかないからな」


 クッコルセ団長に案内され、私は王城の大浴場にやって来た。

 私のメイド服もクッコルセ団長の鎧も、王城専属の<メイド>によってすぐにクリーニングしてもらえるそうだ。

 私達がお風呂から上がるころには、洗い終わって乾燥までできるとのこと。

 実に優秀。魔法の世界とは、かくも便利なものだ。


「それでは早速お風呂に入らせて―― ん!?」

「くっ? どうしたのだ、クーリア殿?」


 早速湯船に向かう私だったが、どうしても気になるものを見つけてしまった。

 これだけ広いお風呂だ。手が行き届かないのも仕方ないのかもしれないが――




「あそこのタイルが汚れています。デッキブラシを貸していただけませんか?」

「くっ!? こだわるな! いいから風呂に入れ! あんたは一応客人だぞ!?」


 私の清掃魂(セイソウル)が疼いて仕方なかったが、クッコルセ団長に止められてしまった。

 悔しいが仕方ない。今の私は一応客人だ。

 言われたことには従おう。





「実にいいお湯でした」

「アタイもスッキリできた。では早速、陛下の元へ向かうか」


 お風呂を出ると、クリーニングしてもらったメイド服を着なおす。

 本当に下水道での汚れがしっかり落ちている。

 素晴らしい。今度どんな洗剤を使っているのか聞いてみよう。


 そして私はクッコルセ団長と共に、玉座の間へと足を踏み入れる。

 以前は私が粗相を働いてしまったが、今回は落ち着いて行こう。

 もうジーキライ陛下のムキムキつるっぱげヤクザルックにも慣れた。

 よっぽどのことがない限り、私は失敗しない――





「ジーキライ陛下! この度はアタイが粗相を働いて、すみませんでした! くっ! 死にます!」

「おい!? クッコルセ!? なんで吾輩の顔を見るや否や、いきなり自害しようとするのだ!? やめぬか!?」


 ――私は普通に入ったのだが、クッコルセ団長が問題行動を起こしてしまった。

 ジーキライ陛下の眼前に座り、自前の大剣を自らの首にあてがい始める。

 それを見た陛下が自慢の筋肉で、クッコルセ団長の大剣を奪い取って食い止めた。


 ――きっと、クッコルセ団長の誇りと忠誠心が起こした行動なのだろう。

 私にも<清掃用務員>としての誇りと、ファインズ公爵家に対する忠誠心がある。

 それを考えると、分からなくもない。


 ただ、それを含めて考えても――




「クッコルセ団長はおかしな人ですね」

「え? お主が他人にそんなこと言っちゃうの?」


 私が思たことをそのまま口にすると、陛下に驚愕の表情と共にツッコミを入れられた。


 ――確かに今の発言には問題がある。

 <清掃用務員>たるもの、他人を咎めるような発言はいただけない。

 私はどうにも思ったことを、そのまま口にしてしまう癖があるようだ。

 ここもまた改善事項となる。


 確かに私はコミュニケーション能力に問題があるが、だからといってそのままにはしない。

 <清掃用務員>たるもの、常に努力を続けるのだ。




「ハァ……まあよい。とりあえず、クッコルセから話を聞かせてくれ」

「くっ……失礼しました」


 陛下は話を進めるためにも、まずはクッコルセ団長の報告を聞いた。


「クッコルセよ。お主は何故、自身が"汚れ"に操られていたかは分かるか?」

「くっ……それなのですが、詳しいことまでは分かりません。ただアタイは正気を失う前に、城の蔵書室にいたところまでは覚えているのですが……」

「城の蔵書室にですか?」


 陛下の問いに答えたクッコルセ団長の言葉に、私も思わず反応してしまう。

 私がそもそも今回の清掃業務(ミッション)に挑んだのは、陛下に蔵書室への入室を許可してもらうためだった。

 因果関係は薄いと思われるが、思わず動揺が走ってしまう。


「その後、アタイはあの下水道に導かれるように居座ってました。なぜだか、『あそこにいなければいけない』という気持ちが働いていましたが、詳しいことまでは……」

「ふむ……。やはりこれもまた、"汚れ"の力ということだろうな」


 さらに紡がれる、クッコルセ団長の言葉。

 だがその内容もまた、私には理解できないものだ。




「くっ!? そ、そうでした! 確かアタイは蔵書室のある童話を手に取ってから、それ以降の記憶が曖昧なのです!」

「『ある童話』だと? それは何という童話だ?」

「そ、それなのですが――」


 さらにクッコルセ団長は必死に記憶を手繰り寄せ、手掛かりになりそうな話をされる。

 そこには何やら『ある童話』が関係しているようだが、クッコルセ団長はどこか言いづらそうだ。


 それでもなんとか言葉を紡ぎ、童話のタイトルを口にされた――




「『フェイキッドの亡霊』……で、ございます」

「なっ……!? 『フェイキッドの亡霊』だと……!?」




 クッコルセ団長が口にした童話のタイトルを聞き、陛下は思わず動揺されている。

 『フェイキッドの亡霊』――

 それはかつてこのウォッシュール王国第二皇太子であった、フェイキッド・スクリーム殿下を題材にした物語。

 嘘によって追い込まれ、自ら命を絶たれた、シケアル殿下の双子の弟にしてジーキライ陛下の息子。


「フェイキッドの――今は亡き、我が息子の話が関わっているのか……!? しかし、何故……!?」


 その話を聞いた陛下が動揺するのは当然の話だ。

 それにクッコルセ団長の話が事実なら、私も報告しなければいけないことがある――


「ジーキライ陛下。このクーリア・ジェニスターからも、その件についてご報告があります」

「『フェイキッドの亡霊』に関わる話か? それは一体なんだ?」

「私はお掃除を終えてクッコルセ団長と下水道を出る時、何者かに銃で襲われました」

「なんと!? そのようなことが!? まずはお主が無事でよかったが、一体何者だ……?」

「犯人には逃げられてしまいましたが、その姿は確認できました。全身を隠していましたが、その容貌はかの童話、『フェイキッドの亡霊』そのものでした」

「な、何だと!? 一体、何がどうなっておるのだ……!?」


 私が陛下にお話しした、『フェイキッドの亡霊』と酷似した犯人の存在。

 陛下も流石に混乱している。


 ――陛下の亡くなった息子が関与してくる話だ。

 これ以上の情報を今報告するのは得策ではない。

 陛下を余計に混乱させてしまうだけだ。




「くっ……アタイにも分からん。クーリア殿が見たのは、本当にあの童話と同じ『フェイキッドの亡霊』だったとでも言うのか?」

「それについてなのですが、私に一つだけ心当たりがあります」

「くっ?」


 クッコルセ団長も困惑されているが、私には一つだけ心当たりがある。

 だがそのことについては、私個人の問題もある。


 『フェイキッドの亡霊』が手にしていた拳銃――魔法銃"ファルコン"。

 かつての私の相棒とも言えるあの銃が手掛かりであるならば、ここから先は私一人で事の真相を調べたい。




「ジーキライ陛下。私はこれから一人で、急遽向かうべき場所があります。申し訳ございませんが、旦那様であるアトカル・ファインズ公爵にも、少しの間出かけていることをお伝えできませんでしょうか?」

「それは構わぬが……一体、お主一人でどこへ向かうつもりだ?」

「……申し訳ございません。それについては言えません」


 陛下に旦那様への連絡をお願いするも、詳細までは私の口から言いたくない。

 <清掃用務員>としてこのように不十分な内容の要望はあるまじきことだが、それでもこれはそれとは別の話としたい。


「……よかろう。アトカルには吾輩からうまく伝えておく。だが、お主も決して無理をするな」

「お心遣い、感謝いたします。それでは早速失礼します」


 ジーキライ陛下とクッコルセ団長に一礼した私は、玉座の間を後にする。

 その最中に考えていたのは、これから私が向かう場所について――




 私が前世の記憶を取り戻すよりもはるか前、ファインズ公爵家にお仕えするよりも前。

 <清掃用務員>として覚醒した私にとっては、忌まわしき"負の記憶"。


 幼き日より、<アサシン>時代を過ごした場所――




「こんな形で十年ぶりに向かうことになるとは思いませんでした。……行きましょうか。『ホトトギス』へ……」

アサシンとしての過去との対峙へ。

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