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正義のヒーローの登場です。

福祉ヒーローのエントリーだ。

「『フクシマン』……?」


 自らをそう名乗って私の後ろから現れたのは、何とも異様な男性だった。

 ムキムキの肉体を黄色の全身タイツで覆い、背中には赤いマント。

 顔は覆面で覆われており、口と頭頂部だけは見える。

 見たところ、髪の毛はないようだ。


 ――怪しい。怪しすぎる。

 だがこの『フクシマン』と名乗る男性は、少年の願いを聞こうとしているようだが――


「そこのメイドさん。このあたりの空気が綺麗になったのは君のおかげだ! 誇りたまえ!」

「は、はい……。ありがとうございます……」


 フクシマンは私へねぎらいの言葉をかけると、前へ出て人々に話を始めた。


「誇り高きウォッシュールの民達よ! ワッシの力でまずは、皆の腹を満たそうぞ!」


 そう言ってフクシマンは右手を頭上に掲げて指を鳴らす――



 ドサドサ! ドサドサ!



 ――そして現れたのは、肉や野菜といった大量の食材の数々。

 それらを横に置いたフクシマンは、いつの間にか用意されていた調理台へと向かう。




「さて……ワッシの腕の見せ所だな!」



 トントントン! タンタンタン!


 ジュージュー! グツグツ!



 そこからフクシマンが始めたのはお料理だった。

 しかもそのお料理スキルは並大抵のものではない。

 リズムよく肉や野菜を切り、フライパンで炒め、鍋で煮て、調味料で味付けしている。

 私も<メイド>のスキルでお料理はできるが、それとは比べ物にならない。

 この世界にあるお料理専門の<料理人>のスキルでも、これほどまでの腕前は見たことがない。




「ウオオオオ!! ――よし! 完成だ!」


 その凄まじいお料理スキルにより、フクシマンは一瞬で大量のお料理を完成させてしまった。

 肉と野菜が大量に具材として入ったスープ。

 見た目と匂いだけでも分かる。このお料理は絶対に美味しい。

 私も思わずお料理に釘付けだ。


「さあ! 空腹に困るウォッシュールの民よ! ワッシが作ったこの料理を食してくれ!」

「えー!? 食べていいのー!?」

「お、おお……! こんな御馳走は生まれて初めてだ……!」


 フクシマンは出来上がったお料理を、周囲の人々に振舞い始めた。

 人々は無我夢中で口に入れていく。


「う、うめえぇ……!」

「こんなにうまいものを、腹いっぱい食べられるなんて……!」

「ハハハー! 喜んでいただけたようで、ワッシも何よりだ!」


 フクシマンの振舞いに感動する人々。

 その人々を見て大喜びのフクシマン。




 ――素晴らしい。

 私にはお掃除しかできなかったが、このフクシマンという人はお料理で人々のお腹も心も満たしている。

 この場所のように国の福祉が行き届かない場所でも、こうやって人々を救うその逞しき姿――




 ――まさに、『正義のヒーロー』。




「メイドさん! 良かったら君も、ワッシの料理を食べてくれ!」

「……え? は、はい。ありがとうございます」


 感極まって固まっていた私にも、フクシマンはお料理を手渡してくれた。


 ――やはりおいしい。

 全身に天然イオン水がめぐるように、幸福感で満たされていく。

 お掃除も素晴らしいが、お料理も素晴らしい。

 私は<清掃用務員>だが、<メイド>でもある。

 今後はより人々のよい生活のためにも、お料理を覚えることも検討してみよう。


「……ごちそうさまでした。大変美味しかったです」

「そう言ってもらえると、ワッシも頑張った甲斐がある! メイドさんもご苦労であった!」


 私の言葉に対して、フクシマンも明るくエネルギッシュに答えてくれる。

 何者かは分からないが、この人は素晴らしい人だ。

 全身タイツに覆面、ムキムキボディにツルツルヘッドで怪しく思ってしまったが、このお方もまた、私にとって尊敬できる人だ。

 本当に私の周りには見習うべきお方が多い――






「――ん? すいません。少々お待ちいただけませんか? フクシマン様」

「え? あ、はい」


 ――ここに来て、私はあることが頭に引っかかってしまった。

 どうにも最近、似たような特徴を持った人に会った記憶がある。

 私はメモを取り出して、そこに書かれていた内容とフクシマンの特徴を照らし合わせてみる。


 筋肉ムキムキ――あってる。

 頭ツルツル――あってる。

 後は記憶だよりだが、声色も似ている。

 口調こそ変えているものの、もしかしてこの人は――






「すみません。もしかして、あなたはジーキラ――むぐぅ」

「ハハハー!? メイドさん!? 続きは人のいないところでしようかなー!?」


 私がフクシマンの正体を喋ろうとすると、フクシマンは慌てて手でその口を塞いできた。

 覆面で表情全ては分からないが、わずかに見えた口元はかなり引きつっていた。

 そしてそのまま私はフクシマンに片手で抱えられ、人々の中から連れ出されていく。


「おや? フクシマンという人はもうお帰りかな?」

「空気を綺麗にしていたメイドさんも、一緒にいなくなっちゃったけど……?」


 遠ざかる私とフクシマンを見て、人々がそんな疑問を口にしているのが聞こえた。


「すみません。最後にお別れの挨拶ぐらいした方が良かったのでは?」

「今はいいから! とにかくここを離れたいから! 離れてから話すから!」


 私が尋ねてみても、フクシマンはとにかく慌てて走り出すだけだった。

 フクシマンは私を抱えながら、人のいない場所を探して走っていった――





「ゼエ……! ゼエ……! こ、ここまでくれば大丈夫だろう……」


 ――そうして辿り着いたのは、人のいない橋の下。

 ここに来て、ようやく私はフクシマンの腕から解放された。


「……もう、よろしいでしょうか?」

「……ああ。吾輩ももう観念してる……」


 フクシマンの口調は先程までと違い、私が思っていた人物のものになった。

 やはりこの人の正体は――




「何をやっているのですか? ジーキライ・スクリーム陛下……」

何やってんだよ!? 陛下!? 陛下ぁああ!!

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