清掃対象:王城周辺用水路近郊
※作中のお掃除は真似しないでください。
「必要なのは、この風を操る魔法石に、次亜塩素酸水に――」
私は取り出した道具を使って、テキパキと清掃道具を組み立てていく。
二本のハタキを用意し、その先端に風の魔法石を埋め込む。
用意した風の魔法石は二つのタイプがある。
『風を吸収するタイプ』と『風を放出するタイプ』。
この二つの間にさらに『水を溜め込むタイプ』の魔法石を挟み込み、その水の魔法石へ次亜塩素酸水を含ませる。
<用務眼>で確認できた"汚れ"の成分を理解し、濃度もしっかり調整してある。
人体への悪影響もない。今回はこの点が重要だ。
「――よし。ひとまずこれで、道具の準備はできました」
そうして出来上がった二本の専用ハタキ。
本来ハタキは埃を落とすものだが、今回は違う用途で使わせてもらう。
素早く動くための軽量性。ハタキの先端のパタパタ部分での"汚れ"キャッチ性能。
この二つの性能が頼みの綱だ。
私はハタキを両手に一本ずつ持って、腰を深く落とした。
「あ、あの~……クーリアさん~? 一体これから~、何を始められるのですか~」
「もちろん、お掃除です。ですが、今回は私もかなり激しく動きます。シスター・マリアックは危険ですので、どうか離れて見ていてください」
オドオドしながら様子を見ていたシスター・マリアックを制し、私は早速清掃業務へととりかかる。
相手が空気の"汚れ"となると、大切なのは『空気を巻き込むこと』だ。
難しい話だが、今の私なら問題ない。
<清掃用務員>としてだけでなく、<アサシン>のスキルも持つ私ならば――
「<清掃能力強化>――<除菌疾走>!!」
ビュゥウウンッ!
「きゃあ~~!?」
吹き抜ける風の音と共に、私は地面を蹴ってお掃除を開始した。
シスター・マリアックがその時に生じた風でスカートを押さえているが、終わった後に謝っておこう。
――今優先すべきは、この周辺のお掃除だ。
タンッ!
<除菌疾走>の力を使い、私は壁を蹴って建物の上へと上がる。
そして高所から<用務眼>で"汚れ"の拡大範囲を確認し、その範囲内で一番高い場所へと飛び移る。
「……この辺りですね。では、このハタキの出番です」
"汚れ"の範囲の確認。<アサシン>と<メイド>スキルによる人の往来の確認。
これらが終わった私は二本の専用ハタキを手にしたまま、さらに上空へと飛び上がり――
「……<洗風大掃>」
ビュオオオオ!!
――そこから自らの体を、超高速で回転させる。
それによって巻き起こるのは、まるで吸引力が変わらない掃除機のような強力な竜巻。
その竜巻の中心に私は身を置き、専用ハタキを持った両手を広げながら回り続ける。
「……よし。想定通りの結果です」
私はその身を回転させながら、周囲の状況も確認する。
空気中の"汚れ"は、私が起こした竜巻に吸い寄せられている。
そして吸い寄せられた"汚れ"をすくいとるように、私は両手のハタキを動かす。
ハタキのパタパタ部分によって、"汚れ"を含んだ空気がハタキの内側へと入り込む。
入り込んだ空気はまず『風を吸収する』魔法石によって、私が用意したルートをたどる。
ルート通りに空気は『水を溜め込む』魔法石へと移り、内部の次亜塩素酸水で清浄される。
"汚れ"がなくなって綺麗になった空気は『風を放出する』魔法石によって、再び外へと出る。
この際に空気には適度な次亜塩素酸水が含まれるようになり、大気そのものの清浄効果が高められる。
前世の世界であった、空気清浄機――
この世界にはないが、それを代用する手立てはある。
魔法の世界とは便利なものだ。
それにここは屋外。空気清浄機以上の空気をお掃除しないといけない。
それらを考慮した上で、今の私にできること。
それは――
――『私自身が空気清浄機になる』ことだ。
「な、なあ……。あそこの空、女の人が見えないか……?」
「ほ、本当だ……。竜巻が起こってるけど、一体何が……?」
「あ、あれ? なんだか倦怠感がなくなっていくような……?」
地面の方から人々の話声が聞こえる。
その話の内容から、私が<洗風大掃>で空気清浄機をしている効果があることが伺える。
この際に重要なのは着地。
私は竜巻を起こして"汚れ"を引き寄せながら、ゆっくりと地面へと降りていく。
先に確認しておいた通り、私は人の往来が少ない場所へ着地するよう、少しずつ高度を下げていく。
着地に合わせて回転も抑え、竜巻も小さくしていく。
人々に危害を加えず、迷惑も起こさない。
これまで失敗ばかりの私だが、<清掃用務員>としてこの心構えは外せない。
――スタン
そして私は両手に持ったハタキの動きも止め、地面へと着地する。
周囲を見渡してみるが、辺りへの影響はない。
高度を下げるのと同時に、風力を押さえることもできた。
――完璧だ。
「ひとまずは第一段階、清掃業務完了です」
これで用水路周辺のお掃除は終わった。
だが、これは第一段階に過ぎない。
この大気汚染はおそらく、用水路が元凶となっているもの。
今度は用水路のお掃除に向かわないと――
「ねーねー! おねえちゃんがこのあたりのくらーい空気を、きれいにしてくれたのー!?」
――そうして次の戦場へ向かおうとする私に、幼い少年が声をかけてきた。
「はい。私がこの周辺の空気を、少々お掃除させていただきました」
「すごーい! おねえさんはきっと、<女神>さまだねー!」
少年はあどけない表情で、私に思いの丈を述べてくる。
<女神>だなんてとんでもない。
私はただ、お掃除をしていただけに過ぎない。
「おねえさーん! <女神>さまなら、ぼくたちのごはんを用意したりできないー!?」
「ごはん……ですか?」
「うーん! このあたりの人はねー! ごはんが少ないんだー!」
少年に言われて、私は<アサシン>スキルで周囲の人々の体調を視てみる。
確かに少年が言う通り、栄養の取れていない人が多い。
シスター・マリアックもこの場所に来て施しをしていたところを見るに、どうにもここは国の福祉が行き届いていないようだ。
「こ、こら! メイドさんが困ってるじゃないかい! す、すみません! うちの子がご迷惑を……」
「……いえ。お気になさらないでください」
少年の母親と思われる人物が、私に謝罪しにやって来た。
確かにこの状況は私でもどうにもできない。
<清掃用務員>の役目はあくまでお掃除。
人々の生活を現状より下げない努力はできても、上げることはできない。
――私は無力だ。
仕方のないことと分かっていても、心のどこかで罪悪感を感じる。
私とて<清掃用務員>として、人々の生活を守る使命を背負う者。
それなのに、私にはこの少年のような人々の生活を、これ以上よくすることができない――
「ハハハー! 少年よ! ご飯に関する相談なら、ここはワッシの出番だー!」
――私が一人苦悩していると、後ろから明るくてエネルギッシュな声が聞こえてきた。
私は振り返り、その声の主を確認した――
「ワッシは『フクシマン』! 人々の生活を底から盛り上げる、正義の福祉ヒーローだー!」
新キャラ(?)登場。




