用水路の状況を洗い出します。
次のお掃除は用水路だ。
ジーキライ・スクリーム陛下から出された、蔵書室への入室条件。
それは私が城の周りにある用水路を、綺麗にお掃除するというものだ。
陛下からその条件を出された翌日、私は朝から一人でその用水路の確認に向かった。
ココラルお嬢様は一人でご通学されているが、お嬢様自身から許可は得ている。
『"汚れ"のお掃除が先決ですわ!』とおっしゃられていたので、そのお言葉に甘えさせてもらっている。
ただ、『今クーリアが学園に行って、先生や学園長に会うとマズいですわ……』ともおっしゃっていた。
こちらについては意味の分からない話だが、きっとお嬢様は要点だけ私に分かりやすく伝えて下さったのだろう。
それ以上は何もおっしゃらなかったので、こちらも深く詮索しない方がいい。
私はココラルお嬢様を信じる。
お嬢様の従者として、<メイド>として、<清掃用務員>として、クリーンな心で信じよう。
「それにしても……あまりよろしくない状況ですね」
そうして用水路までやって来た私だが、状況は中々に深刻。
<用務眼>で確認したところ、周辺を"汚れ"が空気と一緒に漂っているのが見える。
濃度自体はそれほどでもない。だが、その成分は有害だ。
用水路の近くに住んでいる人達も、どこか体調が悪そうに見える。
"汚れ"の影響だろうか。嫌な虫が湧いているのも見える。
前世ではこのように"汚れ"をハッキリ視認できなかったが、これはもしかするとウイルスの類かもしれない。
だとすれば、早急なお掃除が必要になる。
「あら~? クーリアさんじゃないですか~。こんなところでお会いするなんて~、奇遇ですね~」
私がお掃除について考えていると、聞きなれたほがらかな声が耳に入って来た。
「シスター・マリアック……? あなた様こそ、どうしてこのような場所に?」
「<シスター>としての~、活動の一環ですね~。この辺りは~、苦しんでる人が多いですから~」
私に声をかけてきたのは、敬愛なるシスター・マリアック。
彼女は腕にバケットを抱え、いつもの笑顔で立っておられた。
「このような場所にも出向かれるとは……。流石はシスター・マリアック。実に仕事熱心でございます」
「いえいえ~。これは<シスター>として~、当然の活動ですから~」
彼女はそう言いながら、道行く人々にバケットから取り出した聖水を配っていく。
何度か転びながら、笑顔で一つずつ手渡していく。
なんとも慈愛に溢れたことか。
彼女にとっては当然の行いのようだが、その"当然"を笑顔で難なくこなすことが素晴らしい。
シスター・マリアックもここで活動しているのならば、より早急なお掃除が求められる。
「ところで~、クーリアさんはどうして~、ここに来たのですか~?」
「陛下よりお掃除の依頼を受けました。この用水路をお掃除してほしいとのことです」
私がここにいる理由も尋ねられたので、私は簡潔に説明した。
シスター・マリアックにはすでに私が転生者であり、<清掃用務員>であることは伝えてある。
よって、話す内容はこれぐらい簡潔で十分。
旦那様が陛下に行った話し方を参考にした甲斐があった。
「確かにこの辺りは~、空気がよどんでますね~」
「はい。ですので、まずは私の方でこの空気をお掃除します」
「く、空気をお掃除~? そんなことって~、できるんですか~?」
「少々道具の準備は必要になりますが、できないことはありません」
シスター・マリアックも危惧する通り、『空気をお掃除』することは簡単ではない。
だが、そこは<清掃用務員>たる私の工夫次第。
前世の世界でもこういう時に使える道具はあった。
"あれ"があれば楽だったのだが、この世界にはない。
だったら作ればいいだけの話。この世界には前世とはまた違う力もある。
「ともかく、必要な道具を取り出しましょう。<収納下衣>、フルオープン」
まずはその道具を作るため、私は<収納下衣>の中身を全て取り出した。
ガチャガチャ ガラガラ
ゴチャゴチャ ゴロゴロ
ガララララ――
「あ、あの~……クーリアさん~?」
「どうかされましたか? シスター・マリアック」
「<収納下衣>の中身が~、多すぎないでしょうか~?」
私が準備をしようとしていると、シスター・マリアックが驚いた表情で尋ねてきた。
成程。確かに驚かれるのも無理はない。
予備を含めた清掃三種の神器が三セット。
各種溶剤の入った霧吹きが計五十本ほど。
清掃台車に洗浄用の水が十リットル。
ココラルお嬢様がいつでもティータイムを楽しめるように、ティーセットと専用テラス。
何かに使えるかもと思って用意しておいた、<アサシン>時代の各種魔法石。
清掃三種の神器以外の清掃道具が諸々――
この世界の<メイド>スキルで手に入れた<収納下衣>だが、本来ならここまで容量は入らない。
尋ねられた以上、この点については説明しておこう。
「<メイド>スキルに<清掃用務員>スキルを融合させることで、<収納下衣>の容量アップに成功しました」
「え……え~……。そんなことって~、できるんですか~……?」
私の説明を聞いたシスター・マリアックは、どこか引き気味な表情をしている。
詳しく説明しようにも、少々難しい話だ。
おそらく<清掃用務員>として『道具の使い分け』の必要性が生じ、<収納下衣>の容量アップに成功したのだろう。
原理を説明しろと言われても、私にもできない。
でも、できてしまったのだから仕方ない。
それに何より便利なのだ。
今の私はまさに、『人間用務室』と言っても過言ではない。
流石に容量が大きくなったため、多少は重くなってはいるが、この程度なら許容範囲だ。
「さてと……。一応ここにあるもので、私が望むものは作れそうですね」
「い、今から作るのですね~……」
私の横でシスター・マリアックが相変わらず引き気味に話しかけてくるが、今はお掃除を優先しよう。
私は<清掃用務員>。
たとえ"汚れ"がどんな形であれ、必ずお掃除する者だ。




