誓いの大樹に呼び出されました。
すべてが終わって少し後、クーリア視点でのお話。
これが本当の最終話です。
(ノベプラ版は挿絵ありです)
「マリアック。お待たせしました」
「ああ、来てくれたんだな。クーリア」
シケアル殿下の騒動が収まってしばらくした後、私はマリアックにある場所へと呼び出された。
あの後、私は愚かにも自らの命を絶とうとしたが、マリアック達のおかげで踏みとどまることができた。
皆様には感謝してもしきれない。
本来ならシケアル殿下と同じこの世界の異物なのに、私のことを受け入れてくださっている。
そうして落ち着いた日常に戻ったある日、私は誓いの大樹でマリアックと二人だけで会う約束をした。
「思えばここで、あのとんでもない事件があったんだよな」
「そうですね。マリアックがいなければ、この世界はシケアル殿下の意のままに操られていたことでしょう」
「それを言うなら、俺の方こそ礼を言いたい。クーリアがいなきゃ、兄貴を倒すことなんてできっこなかったんだからよ」
私とマリアックは誓いの大樹の下で、当時のことを振り返る。
マリアックが今も着ている黒いレインコートも相まって、当時のことが蘇ってくる。
私のお掃除でシケアル殿下の命を奪ってしまったことは今でも心苦しいが、こうしてマリアックを始めとした大勢の方々の支えもあり、私が取り乱すことはもうない。
――マリアックは私に感謝しているが、私だって感謝していることは変わらない。
「……さてと、今日ここにお前を呼び出した理由だが、いつだったかの約束を果たそうと思ってな」
「約束……ですか?」
少しするとマリアックは私の目の前へと移動し、こちらの目をジッと見つめてくる。
何やら風のざわめきが気になるが、それ以上に私の心は別のものに惹かれている――
――マリアックの曇りない眼が、私の心を捉えてくる。
「兄貴との決戦の前日、俺はお前に約束しただろ? 『すべてが終わったら、俺の好きな女について教える』ってよ」
「そういえばそんな話もありましたね。あの後の混乱で忘れていました」
「お前って本当にマイペースだよな。まあ、ここはお前にそのことを教えるのにもちょうどいい場所だ。早速だが、その女について教えてやるよ」
マリアックは私の目を見つめながら話を続けてくるが、『ここがちょうどいい場所』というのはどういう意味だろうか?
ここは愛し合う男女がその手をつないで告白し合い、永遠に結ばれることを誓う場所――誓いの大樹。
そんなところでマリアックの好きな女性の話をするということは、近くにその相手がいるということだろうか?
――だが辺りを確認しても、私とマリアック以外は誰もいない。
「……『一体誰のことだろう?』って感じだな?」
「はい。私にはマリアックの好きな女性の見当もつきません」
「ハァ……やっぱ、そうなるか。前にも散々、特徴を上げたんだけどなぁ……」
マリアックは悩む私の姿を見て呆れている。
確かに以前、マリアックが好きな女性の特徴は教えてもらった。
頑張り屋。見ていて危なっかしい。でも守ってあげたい。
それらの特徴に当てはまり、なおかつ同年代であるココラルお嬢様とファブリ様の名前をあげたが、どちらでもないとのこと。
それならば一体、誰なのだろうか――
「まあ、今からそいつのさらなる特徴も含めて、ちゃんと名前も教えてやる。今度こそしっかりとな」
――私が顎に手を当てて悩んでいると、その手をマリアックが握って来た。
そしてその言葉の通り、マリアックは好きな女性のさらなる特徴をあげていく――
「そいつは俺よりも年上だ。そこそこ歳は離れてるが、それでも俺はそいつの魅力に惹きつけられて仕方ない」
「年上だったのですか。そうなると、勇者科の担任の先生などでしょうか?」
「いいや、違う。あともう一つ最大の特徴として、とんでもないレベルで鈍感だ。変人の究極系と言ってもいい」
「そのような女性に惚れるとは、マリアックも変わり者ですね」
「まあな。ただ、俺が好きな相手はもっと変わり者だ。そもそもの話、前世ではこことは違う世界で生きていた『異世界転生者』らしく、この世界の常識が通じないことも多い」
「……私やシケアル殿下以外に、そのような方がいらっしゃるのですか?」
「いいや、いねえな。少なくとも俺が知る『異世界転生者』は、兄貴を除けば一人しかいねえさ」
――そうしてあげられた特徴を聞く中で、私は悩みながらも一つの可能性に気付いてしまった。
今この告白スポットである誓いの大樹に、私を呼び出した理由。
こうして逸話の通りに、マリアックが私の手を優しく握ってくる理由。
――そもそも『異世界転生者の女性』となると、私の中でも候補は一人しか残らない。
「あ、あの……マリアック……?」
「ああ、そうだった。実は俺、その好きな女にはちゃんと本名で呼び捨てにされてえんだ。そいつってかなり遠慮がちな性格だけど、やっぱ呼び捨てで呼んでもらえると特別感がある」
私はもう本当の答えが分かってきているが、動悸が激しくうまく言葉が出ない。
それでも今目の前にいるマリアックが、私に『どんな言葉』を求めているのかは分かる。
これはもう私が<清掃用務員>であることも、清掃魂を宿すことも関係ない。
クーリア・ジェニスターという一人の人間にとって、とても重大な話だ。
私は緊張で声を震わせながらも、友人であるマリアックの――
――いや、目の前にいるどこか愛おしい少年へと言葉を紡ぐ――
「フェ……フェイキッド……? あ、あなたの好きな女性のな、名前を教えては、も、もらえませんか?」
「アハハ! お前がここまで恥ずかしがるなんて、珍しいものが見れた。これは俺もじらした甲斐があったな」
私の言葉を聞くと、フェイキッドはいたずらっぽい少年の笑みを浮かべた後、ひときわ私の手を強く握りながら、その女性の名前を口にした――
「俺が好きな女は、誇り高き<清掃用務員>……クーリア・ジェニスターだ」
以上を持ちまして、この「超一流清掃用務員異世界転生譚。元暗殺者兼公爵令嬢側近従者転生後、前世記憶復活、清掃魂覚醒。周辺汚染物徹底清掃開始。異世界清掃黙示録。 ~咆哮、清掃魂~」の物語は本当の意味で完結となります。
本編「Episode of Cleaning Janitor」、番外編「Episode of Absolute Actor」を含め、エピローグに位置するこの「Epilogue of Janitor and Actor」まで読んでいただき、誠にありがとうございました。
急遽番外編まで作ってしまい、想像をはるかに絶するボリュームになってしまいましたが、少しでも読んでくださった方々にお楽しみいただけたのならば、私にとってそれ以上の賛辞はありません。
番外編ではあまりお掃除要素がありませんでしたが、やはりこの言葉は必要かと思い、改めて述べさせていただきます――
全国の清掃業の方々、重ね重ね本当にもうしわけございませんでしたぁああ!!
そして最後に、改めて私から感謝の言葉を述べさせていただきます――
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございましたぁぁあああ!!!




