Re.清掃対象:シケアル・スクリームⅡ
フェイキッド、最後の大博打!
「ぐうぅ!? な、なんだこれ!? き、気色悪い――ウアァア!?」
「マリアックゥウ!?」
俺の全方位から襲い掛かって来た、<暗黒魔法>による大量の触手。
完全に逃げ道を防がれ、避ける余裕すらなく、俺の体はキツく締めあげられてしまう。
苦しくて仕方ない。悲鳴を上げずにはいられない。
「あぐぁあ……!? く、苦しいぃ……!?」
「フハハハ! 僕に逆らわなければ、こんな思いをせずに済んだものを! ……さあ、クーリア・ジェニスター。これ以上フェイキッドの苦しむ姿を見たくないなら、大人しく僕に降伏しろぉお!!」
兄貴の目的は俺を人質にして、クーリアを降伏させることだ。
俺は目を閉じ、歯を食いしばりながら<暗黒魔法>による触手の締め付けに必死に耐えるが、この状況は非常にマズい。
クーリアの性格を考えれば俺の身を優先し、降伏してしまってもおかしくない。
痛みに耐えながらわずかに目を開けると、クーリアの困惑した表情が見える。
だが、クーリアの降伏なんて俺は望まない。
むしろこうやって兄貴が俺を人質にとって油断し、その能力を俺の方に割いている現状はチャンスでもある。
――今この時こそ、クーリアの<清掃用務員>の力の見せ所だ。
「ク、クーリア! 俺のことには、か、構うな! 今のうちに、シケアルの兄貴を……掃除しちまえぇえ!!」
俺は苦しみながらも必死にクーリアへと声をかけ、その思いを伝える。
ただそれでも、やはり俺が兄貴の盾にされている状況ゆえか、躊躇しているようだが――
「で、ですがマリアック。今私がシケアル殿下のお掃除に移ると、あなたも巻き添えを……!」
「いいから、やれって言ってんだよぉ! 俺ごと掃除しちまって構わねえ! あ、安心しろ! 俺はお前を……信じてる!!」
――俺はそんなことは構わずに、『俺ごと兄貴を掃除する』ことを願い出た。
クーリアの本心はよく分かる。清掃対象ではない俺も巻き込んで掃除してしまえば、それは暴力にもなる。
誇り高い<清掃用務員>であるクーリアにとっては辛いだろうが、それでもやるしかない。
――最大のチャンスはここだ。
「……ありがとうございます、マリアック。申し訳ございませんが、暫しの間だけご辛抱願います」
「ああ……やっちまえ! お前の<清掃用務員>の力で……この"汚れ"の元凶のクソ兄貴を……綺麗に掃除しちまいなぁああ!!」
クーリアもそんな俺の気持ちを飲み込んでくれて、兄貴の眼前で構え始める。
その瞳に迷いはない。俺は安心してクーリアの勝利を信じられる。
「フハハハ! フェイキッドごと僕に攻撃を加えるつもりか! だがたとえそれができたとしても、僕を倒すことなどできない! 僕のこの<魔王>スキルは赤子の頃から密かにずっと磨き続けてきた力だ! たかが<清掃用務員>ごときに何ができると――」
「<清掃用務員>を舐めないでいただきたいですね。そもそも私は危害を加える攻撃の類は一切しませんし、何より<清掃用務員>とは常に進化を続ける者です」
そんなクーリアのことを兄貴は嘲笑い、<清掃用務員>の力も侮っている。
だがクーリアは一切臆さず、毅然とした態度で兄貴と言葉を交わし始める。
クーリアと兄貴の前世で<清掃用務員>がどういう存在だったのか、詳しいことは分からない。
だが今この世界において、<清掃用務員>の存在は兄貴よりもはるかに崇高な存在だ。
クーリア自身の人間性もあるのだろうが、この世界における本当の意味での<勇者>――
――それが<清掃用務員>だ。
「シケアル殿下。あなたが使った『領域展開』と呼ばれる技ですが、私も使わせていただきます」
「な、なんだと!? 馬鹿な!? お前にこの技を真似できる要因が――」
「要因は揃っております。今私が手にするこの最強のモップ――箒天戟もまた、スミスピア様が作られた至高の一品です」
「はぁ!? なんで<鍛冶屋>がモップを作ってるんだ!? そもそも! それはモップなのか!?」
そしてクーリアは兄貴と言葉を交わす中で、自らも『領域展開』を使うことを宣言する。
確かにクーリアにも兄貴と同じ要因はそろっている。
クーリアがその身に宿す、兄貴とは真逆の色の"魂"。
スミスピア製のモップ――箒天戟。
さらには兄貴と同じ異世界転生者と来れば、クーリアが『領域展開』を使えてもおかしくはない。
――今更『箒天戟がモップかどうか』という点については、考えるだけ無駄な気がするのでやめておく。
そしてクーリアは宣言通り、槍のような先端の箒天戟を地面に突き刺し、本当にその力を行使し始める――
「<清掃用務員>流最終奥義。領域展開――<咆哮・清掃魂>!!」
――その言葉と共に、クーリアが地面に突き刺した箒天戟から、巨大な魔法陣が形成されていく。
「あ、ありえない!? こんなただのモブキャラに……ただの<清掃用務員>に、僕の<征服・魔王>よりも巨大な領域展開を発動できるなんて――」
「私の清掃魂は決して稚拙なものではありません。常に進化を続け、成長する。それこそが<清掃用務員>のあり方にして、清掃魂です!!」
クーリアが使った領域展開――<咆哮・清掃魂>。
それによって描かれた白い魔法陣は兄貴の黒い魔法陣よりも大きく、完全に<征服・魔王>を上回る領域展開だ。
兄貴も驚いているが、俺も驚いている。
これがクーリアの持つ<清掃用務員>の力の源――清掃魂というものなのか。
そこから始まるのは、クーリアによる一方的な蹂躙――
「お掃除の基本は、『外から内へ』。お掃除の基本を忘れることなかれ」
クーリアはまず魔法陣から無色透明なドームを展開し、兄貴が作った漆黒の領域さえも包み込む。
「お、おのれぇえ! ふざけた真似をするな! 僕は……僕はこの世界で最強なんだぁああ!!」
その光景に兄貴は驚きながらも、<暗黒魔法>の触手をクーリアに襲わせるが――
「お掃除の基本は、『上から下へ』。箒天戟――モデル『玄武』!」
――ブゥウウン!
「な、なんだ!? 見えない壁のようなものが、僕の<暗黒魔法>を防いだだと!?」
――クーリアはそれを地面から引き抜いた箒天戟を変形させ、無色透明のドームを頭上から伸ばして防壁を張る。
それによって<暗黒魔法>は防がれ、兄貴にはさらに動揺が走る。
「ふ、ふざけるなぁあ!! こんな馬鹿げた能力に……僕が負けるはずがないんだぁああ!!」
さらに絶叫と発狂を続けながら、兄貴は周囲の<征服・魔王>から<暗黒魔法>を弾丸のようにクーリアへと飛ばす。
クーリアの全方位から襲う攻撃だが、もう俺も心配することはない――
「お掃除の基本は、『奥から手前へ』。箒天戟――モデル『朱雀』!」
ヒュン! ヒュン!
「今度はなんだ!? その変な武器から、何を飛ばしてるんだ!?」
――クーリアは再度変形させた箒天戟を頭上で回転させ、洗剤の鳥と思われるものをそこから羽ばたかせる。
その鳥達は兄貴が放った<暗黒魔法>の弾丸をことごとく撃ち落とし、さらには――
「うぐっ!? がはっ!? ば、馬鹿な!? 僕の<暗黒魔法>を貫いてきただと!? 僕の<暗黒魔法>を上回っているだと!?」
――本体である兄貴にも届いた。
<暗黒魔法>による守りも通用せず、もう兄貴とクーリアの力の差が目に見えて分かる。
――この勝負、クーリアの方が一枚上手だ。
「お掃除の基本は、『"汚れ"をもとから絶つ』。箒天戟――モデル『白虎』!!」
キュルピィィィイイン!!
そしてクーリアは再度箒天戟を変化させると、そのまま兄貴の方へと振りぬく。
距離はあるが、兄貴に届かせることが目的ではない。
クーリアの振りぬいた箒天戟によってできたのは、兄貴へとつながる一つのトンネル――
――まさに、勝利への架け橋だ。
「箒天戟――モデル『青龍』……!」
その道が完成すると、クーリアは箒天戟の先端を剣のような形状に変化させ、体を低く構える。
この技には見覚えがある。クーリアがクッコルセの相手をしたときに使った、<清掃用務員>の奥義とも言える技――
「<従伏絶掃勢>!!」
――刹那、クーリアは静かな構えから一気に動き出し、兄貴へとつながったトンネルの中を駆け抜ける。
トンネルは狭いが、クーリアは体勢を低くしたまま、猛烈な勢いで走っていく。
「く、くそぉ!? 僕が……僕が負けるはずが……!」
トンネルの先にいる兄貴はなんとか体勢を立て直したようだが、もう遅い。
クーリアはその勢いのまま兄貴へと突撃し、箒天戟を振り払う――
キュッッッピリィィィイイイイン!!!
「のわ~~~~!!??」
――それはまさに刹那の掃除。
兄貴はその身に纏っていた<暗黒魔法>ごと、クーリアによって掃除された。
兄貴の体から<暗黒魔法>が抜け落ちていくのが俺にも分かる。
俺の葛藤、クーリアへの真相の伝達――
随分遠回りをしてしまったが、ようやくすべての元凶である兄貴を倒すことができたのだ。
これにて一件落着――とはならないのですよ。




