性別を超えた男
フェイキッドが使えた、『白い魔法弾』の正体――
「フェイキッド……!? お前まで僕に逆らうのか!? 僕の力を知らないわけじゃないだろう!?」
「んなもん、俺が一番よく理解してるっての。だけどよ、クーリアを馬鹿にすることだけは許せねえんだよ……!」
俺が魔法銃"ファルコン"から放った白い魔法弾は、兄貴が腕でガードしたことによって防がれてしまった。
その瞬間にわずかだが、<暗黒魔法>を白い魔法弾が砕いたのも見えた。
「……フェイキッド。お前が僕に放った白い魔法弾が何かは分からない。だが、それで僕を倒せると思ってるのか?」
「思ってねえさ。そもそもテメェを倒すのは、俺の役目じゃねえ。ここにいるクーリアの役目だ」
「……残念だ。僕の傍で言う通りに動いていれば、お前の未来は約束されていたのにな」
「はぁ? テメェの用意したクソみてえな未来なんて、俺の方から願い下げだ。テメェに感謝だなんだをする義理なんて、何一つとしてねえよ」
俺はそのまま兄貴を睨み、"ファルコン"の銃口を向けながら口論をする。
表向きには俺は徹底して兄貴に逆らっているのだが、内心では別の考えがあった。
それは先程俺が撃った『白い魔法弾』についてなのだが――
(これって……<百合魔法>じゃねえかなぁああ!!??)
――おそらく、<百合魔法>による魔法弾だ。
以前俺も資料を読んだときにその存在を知ったが、<暗黒魔法>を打ち破る、白い魔法――
――俺は男の身でありながら、女にしか使えない<百合魔法>を使えてしまった。
(え!? いや!? なんで!? いくらなんでも、俺が<百合魔法>を使えるのはおかしいだろ!? <百合魔法>は確か、女同士の愛情だかで――)
俺は表向きには兄貴を睨みながら、内心で慌てながら<百合魔法>が使えた理由を考える。
資料の通りなら、本来<百合魔法>は『女同士の愛情』がカギとなる魔法だ。
だが、俺は男だ。いくら<アブソリュートアクター>で演技をしても、心は男だ。
そもそも『女同士』となると、それはクーリアの存在がカギにもなって――
(ま、待てよ……!? まさかとは思うが――)
――だがそこまで考えて、俺の頭の中である仮説が成り立った。
一つ、『クーリアは俺のことをいまだに女だと思っている』。
二つ、『先程俺はクーリアと誓いの大樹の下で、一応愛を誓った』
これらの仮説から、『女同士という条件が成立して、愛情という条件も成立した』と考えるほかない。
(……ぜんっぜん! 意味分かんねえけどなぁああ!!)
一応頭の中でそう納得させたものの、正直無茶苦茶な理論である。
だがもうここまで来て、『無茶苦茶』もクソもない。
そもそもクーリアの<清掃用務員>の能力だって、前世の世界の能力がこの世界に適応したものだ。
兄貴が知っているこの世界の知識なんて、所詮は物語上の上辺だけだ。
――俺が性別の壁を越えて<百合魔法>を使えても、もう関係ない。
(つーか! もうこうなったらヤケクソだぁああ!!)
俺は心の中で半狂乱になりながらも、『今はとりあえず女でも構わない』といった覚悟を決める。
いずれにせよ、これで俺にも兄貴の<暗黒魔法>に対抗できる力が備わった。
こんな土壇場だが、これを利用しない手はない。
そして俺は内心でも冷静に戻ると、兄貴との話を続けるように振舞う。
「……いや、一応、俺も兄貴に一つだけ感謝することがあるな」
「え……? わわっ!?」
兄貴に対して恩なんて何もないが、ここは嫌味も含めて俺の本心を言おう。
俺は左手で"ファルコン"を構えたまま、空いた右手でクーリアの体を抱き寄せ、兄貴に向かって語る――
「こいつと――クーリアと引き合わせてくれたことにだけは、素直に感謝してやるよ! テメェの行いで良かったと思えるものなんて、それだけだ!」
――仮にも兄貴の計画がなければ、俺がクーリアとここまで深く関わることもなかった。
相変わらず臭いセリフだと自分でも思うが、これは俺の本心だ。
「お、おのれ……! どこまで僕を馬鹿にするつもりだ……!?」
「シケアル殿下。いい加減諦めてください。あなたは一人だけです。この周辺はすでにジーキライ陛下を始めとした、ウォッシュール王国の最高戦力で包囲されています。潔く諦めて――」
「黙れ! だ、だったら、お前が僕の下につくというのはどうだ!? 同じ転生者同士、ともにこの世界を塗り替えないか!?」
そんな俺の姿を見た兄貴は、今度は無謀にもクーリアを味方に引き入れようとする。
俺はクーリアと言葉を交わさずともその気持ちを確認し合い、兄貴の言葉を拒絶した。
その途中で俺達との思い出も語ってくれたのだが――
「私が年齢に不相応なディアンドル風の衣装を着た時も、マリアック達はドン引きながらも許してくれました」
「うん。ちょっと待ってくれ。あれは違うんだ。その……逆だから……」
――何かおかしな話も紛れ込んでいた。
学園長も死にかけたクーリアの着せ替えショーの件だが、どうやらクーリア自身は『似合ってない』と思っていたらしい。
――無論、真相は逆である。
『似合いすぎていた』のである。そのせいでショックが大きすぎたのだ。
どうにもクーリアは謙遜しやすい性格のためか、自分に自信がないらしい。
本当にどこか抜けているが、それでもやはり憎めない。
「おい! フェイキッド! 本当にこんな頭のおかしい女に従ってていいのか!? 僕に従っていれば、未来は約束されるのだぞ!?」
クーリアに相手にされなかった兄貴だが、今度は俺の方に呼びかけてきた。
これほどまでの愚行を行い、これまで俺を虐げておいて、よくそんなことが言えるとも思ったが、俺はハッキリと兄貴を言葉で突き放す。
「いい加減にしろつってんだろ、クソ兄貴。第一、テメェは俺に『異世界転生』だのなんだのって話、ずっと隠してただろ? クーリアは自分が転生したことに気付いた時、真っ先に周囲に話してくれたぞ?」
「はぁ!? なんだそれは!? 完全に馬鹿の行動じゃないか!?」
「ああ、俺もこいつのことは馬鹿だと思うぜ。……だけどよ、テメェみてえな嘘つき野郎よりも、俺にはずっと信頼できる」
『クーリアが馬鹿』だという意見には同調できるが、同じ異世界転生者である兄貴とは大きな違いがある。
――『クーリアは嘘をつかない』。
恐ろしく心配になるほどの正直者だが、だからこそ俺はクーリアのことを信じられる。
『異世界転生』についても、俺はクーリアが正直者だから信用できた。
兄貴のような隠してばかりの人間など、信じる理由が見当たらない。
――そもそもここが兄貴の前世と違う世界なら、部外者は兄貴の方だ。
クーリアのことは受け入れられても、私欲でこの世界を動かしていた兄貴のことを、少なくとも俺は受け入れない。
「……フハハハ。いいだろう。そこまで僕に逆らうというのなら、この僕自らが引導を渡してやるよぉお!!」
とうとう兄貴は悪い方向に吹っ切れてしまったのだろう。
高笑いしながら俺とクーリアを睨みつつ、腰に携えていた剣を引き抜く。
それは俺も何度か見た、<暗黒魔法>を宿した刀身を持つ漆黒の剣――
「この剣はかの名工、スミスピア・ガンランスが作りし最高傑作だ! この僕の<暗黒魔法>を最大限に活かし、あらゆる人間の心を塗りつぶす最強の力だ! そこに僕が今に至るまでに磨き上げたスキルの力があれば、この世界に敵などいない!!」
兄貴はその剣を地面に突き刺すと、そこから大量の<暗黒魔法>を溢れさせてくる。
その<暗黒魔法>は誓いの大樹周辺を空まで覆い隠し、まるでその空間が兄貴に支配されたようだ。
――とんでもない規模と力だが、俺とクーリアの二人でやるしかない。
俺達の世界に乗り込んできた部外者を、ここで完全に打ち倒す。
「クーリア……準備はいいな?」
「はい。覚悟はできています」
俺はクーリアから右手を離し、しまっていた"ホーク"を構えなおす。
クーリアも俺の言葉に反応し、箒天戟を強く握りしめる。
もう覚悟は決まった――
――今この時こそ、因縁の終焉の時だ。
「さあ、来い! 『魔王のデスティニー』の主人公たるこの僕が持つスキル、<魔王>の力でお前らを葬り……この国も世界も、僕の色に塗り替えてやるぞぉおお!!」
半ばヤケクソのフェイキッド!
それでももう始めるしかない!
さあ! 本編に引き続き、ラストダンスだ!




