相対する二人の転生者
ついに追い詰められた元凶、シケアル・スクリーム。
「な、なぜそれを!? いや、それ以上に……『私と同じ』だと!?」
クーリアが放った問いに、兄貴は肯定ととれる態度をとってきた。
やはり思った通りだ。
兄貴はクーリアと同じ、『前世の記憶を持った異世界転生者』だ。
「シケアル殿下。私は先日マリアックから、あなたのメモの内容を見させていただきました。ここから先は私の推測になりますが――」
さらにクーリアは兄貴に対し、自らの考えを述べていく。
もしかするとクーリアは、兄貴の能力の正体にも感づいているのかもしれない。
<暗黒魔法>を始めとする、この世界の先を見据えていた能力――
クーリアの<清掃用務員>と同じく、兄貴の前世に関わる能力だろうが、その正体は一体――
「あなたは前世の記憶を持った転生者であり、同時に『この世界の元となった物語』をご存じなのではないでしょうか?」
(え!? 『この世界の元となった物語』!? い、一体なんの話だ!?)
――そう思いながら俺の耳に飛び込んできたのは、あまりに予想外のクーリアの言葉だった。
俺にはあまりにも突拍子もない話過ぎて、思考が追い付いてこない。
だが肝心の兄貴の方は――
「フ……フフ……フハハハ……! ああ……その通りだ! 僕は前世の記憶をもってこの世界に転生し、ここが何の世界かもよく理解している……!」
――クーリアの言葉の意味を理解し、完全に肯定した。
「僕は前世である日、トラックに撥ねられて死んでね。そして気が付くと、この世界に転生していたんだ。……このゲーム『魔王のデスティニー』の世界にな! そして僕は自らが主人公である、シケアル・スクリームであることも生まれた時から理解していた!」
さらに兄貴はクーリアの質問に答えるように、その言葉を紡いでくる。
――だが、俺にはその内容がさっぱり理解できない。
『トラックに撥ねられる』、『ゲーム』、『魔王のデスティニー』、『主人公』――
それらの言葉はすべて、俺の理解の範疇を超えた言葉だった。
「な、なあ、クーリア。兄貴の言ってる、『ゲーム』だの『魔王のデスティニー』だのってのは、どういう意味なんだ?」
それらの言葉が気になった俺は、動揺しながらもクーリアに尋ねる。
クーリアは兄貴の言葉を理解しているようで、俺に説明をしてくれるが――
「私が生きていた前世の世界には、『異世界転生』という物語の法則がありました。その法則の中には『自分の愛した物語の中に転生する』というパターンが存在します。私は知らないゲームのタイトルですが、おそらく『魔王のデスティニー』というのは、シケアル殿下が愛した物語のタイトルでしょう」
「マ、マジかよ……!? それじゃあ俺達の世界は、作り物だったってことか……!?」
――その説明を聞いて、俺は思わず頭の中が真っ白になった。
つまりクーリアの話によると、この世界そのものが誰かによって作られた『物語』ということだ。
それはつまりこの世界だけでなく、俺達の存在もまた、『物語』の登場人物ということになる。
それならば今こうして俺が抱いている感情も、すべて偽物ということになるのか?
――俺がクーリアに対して抱いた感情も、すべて紛い物だったということか?
「マリアック。この世界は確かに誰かが作った物語かもしれません。ですが、決して作り物や紛い物の類ではありません。シケアル殿下と同じ世界から転生した私が断言します。この世界は、紛れもない『現実の世界』です」
「クーリア……ああ、そうだな。あまりに急なことを言われたから、俺も思わず動揺しちまった。……大丈夫だ。世界の創造者が存在してることに、そこまで驚く理由もねえ。俺はお前の言葉を信じるぜ」
だがそんな困惑する俺の心を理解したのか、クーリアは優しく手を握りながら説明を加えてくれた。
あまりに驚愕の事実だったが、クーリアの言葉を聞いて俺はすぐに落ち着きを取り戻せた。
もとより兄貴の存在だって、『神か何か』だと思ったことだってあった。
世界の真理を今更突き付けられても、そこまで驚く必要はない。
何より、これまでのやり取りで俺は確信した――
――兄貴はやはり神ではない。
その事実さえあれば、俺はクーリアと一緒に戦える。
そもそもこの世界に神が存在しようがしようまいが、俺にとっての神は一人だけ。
『嘘で塗り固められた存在』だった俺に手差し伸べてくれた、クーリアと言う女神だけで十分だ。
「フン! お前らがどう思おうと、この世界が元々ゲームの世界であることに変わりはない! そして僕はこの『魔王のデスティニー』の世界を、徹底的にやりこんで知り尽くしている!」
俺がクーリアの言葉で安心していると、兄貴はそれに対抗するように言葉を投げかけてきた。
その言葉の中には自らがこの『魔王のデスティニー』という物語の世界で好きだった、ファブリと結ばれようと画策していたこと。
その計画のために周囲の人間を巻き込み、物語の通りに話を進めてきたこと。
――結局のところ、兄貴は予知能力の類を持っているわけではなかった。
あくまで『魔王のデスティニー』という物語に沿うように話を進めていたに過ぎず、"フェイキッドの亡霊"もその一つでしかない。
それどころか『ファブリと結ばれたい』という理由のためだけに、ファインズ公爵夫人まで病死させたことまで自白してきた。
「なんだ? 二人して僕をそう睨むなよ? 元々この世界は『魔王のデスティニー』というゲームの世界なんだ」
それらすべてを白状しても、兄貴に罪の意識はないようだ。
『あくまで物語の通りにやっただけ』という態度をとり、自らを正当化している。
――兄貴にとってはここが『遊びの世界』に見えているのかもしれないが、俺やクーリア達にとっては紛れもない現実だ。
そんな兄貴の態度を見ていると、はらわたが煮えくり返ってくる。
『兄貴は人間じゃない』という俺の考察は、ある意味的を得ている。
――考え方が完全に人間じゃない。
それこそ自分の好きな物語を読んでその通りに動かす、ただの子供だ。
そんなすべてを物語の通りに進めていた兄貴だが、やはり計算外だったのがクーリアの存在。
クーリアはこの『魔王のデスティニー』という物語を知らず、前世の記憶が蘇った後も、知らず知らずに兄貴の計画を乱していた。
物語の通りなら、転生者など本来存在するはずがない。
兄貴はそれを理解して自らが転生者であることを伏せていたが、クーリアは記憶が戻ると同時に暴露した。
こんな馬鹿正直な人間がいることなど、兄貴には想像もつかなかったのだろう。
こんな馬鹿正直な人間が自らと同じ転生者だと、兄貴が思うはずもない。
――『クーリアが転生者だったこと』、『クーリアが転生者であることを周囲に打ち明けたこと』。
これらが完全に兄貴の独善的な計画を、瓦解させてくれた。
「そう考えると一番おかしいのは……クーリア・ジェニスター、お前の存在だ」
「私の存在がですか?」
そんなクーリアを恨みがましく睨みながら、兄貴はさらに話を続けてきた。
まさに計画をダメにしたクーリアへの恨み節なのだが――
「お前はどのルートであろうと、『絶対に途中で死ぬはずのモブキャラ』だったんだ。そのため、僕の計画に沿う形で死んでもらうはずだったのに、お前はことごとく生き延びてきた。クッコルセに襲われようと、フェイキッドに狙われようと、お前は死ななかった。なぜかは分からなかったが、ようやく合点がいった。まさか、お前も僕と同じ転生者だったとはな」
――それはクーリアの運命を左右させるような言葉だった。
そんな兄貴の言葉を聞いて、クーリアは愕然としている。俺も思わず固まってしまう。
兄貴がこれまでクーリアの死にこだわっていたことに、俺はようやく納得できた。
クーリアは『魔王のデスティニー』という物語において、『必ず死ぬはずの人物』だった。
そんなクーリアがずっと生きていることが、兄貴にとっては許せなかった。
クーリアが生きていることそのものを、兄貴は計画最大の弊害としていた。
もしもクーリアに前世の記憶がなかったら? もしも俺がクーリアに惚れていなかったら?
もしも俺がクーリアが死なないよう、裏で手助けしていなかったら――
――クーリアはなんの抵抗もできずに死んでいた。
「なんだ? 本当のことを知って怖気づいたか? 所詮お前はこの『魔王のデスティニー』という物語において、ただの脇役に過ぎないんだよ。フハハハ――」
ギュォオンッ!!
「――ッ!? な、なんだ!?」
兄貴はそんなクーリアの姿を嘲笑っていたが、俺はもう我慢の限界だ。
初恋の相手をこんなくだらない人間に馬鹿にされ、黙っていられるほど俺は大人じゃない。
俺が愛する女をこんなくだらない私欲のために殺そうとした人間を前にして、何もしないほど温厚じゃない。
俺のクーリアに対する気持ちは、紛れもない『本物』だ。
そんなクーリアへの気持ちを込めながら俺は左手で"ファルコン"を構え、兄貴目がけて『白い魔法弾』を放った――
「いい加減にしろよ、クソ兄貴が……! それ以上クーリアのことを侮辱するんじゃねえよ……!」
フェイキッドが放った、『白い魔法弾』の正体とは?




