一歩先に進む友人
マリアックの内心はずっとこんな感じでした。
「ささ~、どうぞどうぞ~。おかけになってくださいな~」
「それでは、失礼いたします」
俺はクーリアを自室に招き入れると、椅子に座るように促す。
俺も机を挟んで反対側に座り、クーリアと向かい形になる。
(……ヤバい。クーリアの顔が近い)
クーリアの望み通りに話を振ろうとしたのだが、クーリアと面と向かって話すと考えるだけで、緊張で声が出なくなってしまう。
マリアックの表情でニコニコしているだけの俺。
せっかく初恋の相手と二人きりだというのに、なんともヘタレである。
――そもそもよく考えてみれば、俺の友人関係は皆無だった。
<アブソリュートアクター>としての人との接し方など、すべて偽りと言えるものばかり。
本物の友人としての接し方がピンとこない。クーリアのことをどうこう言えない。
「そういえばこの部屋、以前は私も少しだけお邪魔しましたね」
「そうですね~。あの時は私が着替え中だったり~、クーリアさんがいきなり倒れられたりで~、大変でした~」
そうして俺が悩んでいると、クーリアの方から口を開いてくれた。
クーリアは俺とは違い、自分を偽ることもしなければ、前世での経験もある。
俺よりは『普通の友人関係』というものの経験だってあるはずだ。
ここはクーリアの調子に合わせて話を進めることができれば――
「シスター・マリアック。あの時は勝手に部屋に押し入って着替えを覗き、申し訳ございませんでした。あなた様のお胸が全くなくて平らであることも、私の胸の内にしまっておきます」
「あ、あの~……。『私の胸が平ら』なことを言うのは~、余計かなと思います~……」
――と思ったのだが、クーリアは俺への謝罪とともに余計な一言まで付け加えてきた。
『胸が平ら』なんて情報、仮に俺が本当に女だったとしても、絶対にいらない情報だというのはなんとなく分かる。
俺は本当は男なのであるわけないが、女が胸を小さいことを指摘されると怒るものだというのは聞いたことがある。
「申し訳ございません。私、どうにも人との付き合い方が苦手なようでして……」
「そうですよね~……。よく分かります~……」
ただ、どうやらクーリア本人に悪気はないようだ。
本人も理解してくれているようだが、どうにもクーリアは人付き合いそのものが苦手なようだ。
自分を偽らなさすぎるせいか、思っていることをそのまま口にしてしまうのも原因だろう。
この様子だと、前世でもそのあたりで苦労していた様子が伺える。
それでもクーリアは何やら考えながら、さらに言葉を紡ごうとしてくれる。
こういう努力をしてくれるところはいいのだが――
「シスター・マリアック。以前はあなた様のスカートをめくってしまい、申し訳ございませんでした」
「いえいえ~。あれは別に構いませんよ~。事故みたいなものですから~」
「それにしても、あなた様の白色のパンツは清潔感があり、非常にマッチしていました」
「……そういう一言が~、余計ですね~……」
――やはり一言余計だ。
俺のパンツについて褒めるように話されても、こっちは困るだけだ。
――とりあえず、俺の股間の"フェイキッド"はバレていないようで助かった。
それにしても、さっきからクーリアが話す話題は謝罪ばかり。
これではどれだけ考えて発言したところで、会話が盛り上がりそうにない。
「はぁ……。重ね重ね申し訳ございません。私ももっとご友人らしい会話をしたいのですが、そもそも『ご友人らしさ』というものがわかりません……」
俺との会話がうまく続かなかったせいか、クーリアは溜息をついて落ち込んでしまった。
『友人らしさ』というものを考えこんでいるようだが、そもそもそんなに深く考え込むものだろうか?
(真面目なのもクーリアの魅力なんだが、どうにもそれが悪い方向に作用してるのかもな)
そう考えた俺は、クーリアへ俺なりに助言してみることにした。
「クーリアさんは~、もしかすると~、考えすぎかもしれませんね~」
「え……? 考えすぎ……なのでしょうか?」
クーリアは少し驚いたような顔をしているが、俺からしてみればクーリアは明らかに考えすぎだ。
他人に気を遣って発言しているのかもしれないが、友人関係なんてそこまで深く考える必要なんてないはずだ。
そもそもその気遣いだって、考えすぎて完全に逆効果だ。
俺もまともな友人関係なんてものはなく、見聞きした知識で偉そうに語ってしまことになるが、クーリアに一番必要なのはこの部分だ。
「お友達同士というものは~、もっと気楽でいいんですよ~」
「気楽に……。ですが、私にはそれもよく分かりません」
そうしてマリアックの言葉にしてクーリアにアドバイスしてみるも、どうやらクーリアは『気楽に』という部分からよく分からないらしい。
以前学園の校舎の<暗黒魔法>を掃除していた時も、勇者科の担任や学園長への態度はどこかぎこちないように見えた。
もっとも、それがクーリアの妖艶な魅力を醸し出してもいたのだが。
(いや、どんだけ対人関係不器用なんだよ。マジで前世の世界とかで、どうやって生きてたんだ? ……もしかすると、前世の世界はそんな余裕もないほどの世界だったのか?)
そんなことを俺も内心思いながら、それでもクーリアのことについて考えてみる。
やっぱり俺が以前から思っていた通り、クーリアの前世の世界はかなり過酷な環境だったのだろう。
それこそとんでもないレベルの戦争でも起こって、辺り一面は焼け野原、まともに生き延びた人間さえもほとんどいないような世界。
そんな世界で<清掃用務員>として生き延びていたと考えると、クーリアの実力の高さと人付き合いの不器用さも、なんとなく納得できてくる。
(そうなってくると、クーリアにはもっと具体的な改善を提案した方がいいのかもな)
クーリアはこれまで人と『友人として』接する機会がほとんどなかったのだろう
<アサシン>として『ホトトギス』に所属していた時しかり、前世の過酷な世界しかり。
「そうですね~……。それでは~、こういうのはどうでしょうか~?」
それならばと思い、俺は一つクーリアに提案してみることにした。
俺としても少し気恥ずかしさはあるが、クーリアにはこのやり方が一番だと思う。
このやり方なら、とりあえずクーリアも『友人として』一歩先に進んだ関係の築き方が見えてくるはずだ。
――俺としても、クーリアとはもっと仲良くなりたい。
それがたとえ、『マリアック・アリビュート』という偽りの姿であったとしてもだ。
そして俺はその方法について、クーリアに提案してみた――
「これから私とクーリアさんは~、名前を呼び捨てで呼び合いましょう~。私はあなたを~、『クーリア』と呼びます~。あなたは私を~、『マリアック』と呼んでくださいね~」
マリアックの頭の中で、クーリアの前世の世界が世紀末状態。




