不器用すぎる友人
時系列はお泊り会をしていた頃へ。
「あの……シスター・マリアック。なぜ、教会の出入り口で転んでいるのでしょうか?」
「すみません~。お仕事をしていたら~、足を滑らせちゃいました~」
(ほんっとうに恥ずかしい! なんで俺がこうやってクーリアのことを考えたりして転んでるタイミングで、いっつも本人が現れるんだよ!? ちくしょお! 俺だって少しぐらいはいいところを見せたい! マリアックのままじゃ無理だけどなぁ!)
なぜか教会にやって来たクーリアは、転んだ俺の姿をマジマジと見つめている。
表向きにはマリアックとして弁解をするも、俺の心の声は羞恥の叫びをあげている。
(た、頼むからそんなにマジマジと見ないでくれ……!)
そんな俺の恥ずかしさを他所に、クーリアは前のめりに転んだままの俺へと手を差し伸べてくれた。
俺はその手を掴んで立ち上がるも、どうにも釈然としない。
マリアックの役を演じる以上仕方ないところもあるが、俺だって逆をやってみたい。
「ありがとうございます~。ところで~、今日は何の御用ですか~? また懺悔でしょうか~?」
「いえ、今日はそう言った理由ではありません」
色々願望などもあったが、俺は気を取り直してマリアックとしての役割を演じる。
以前『ファブリを全裸にしてしまった』時のように、今度は『親父のハゲ頭を馬鹿にしてしまった』とでも懺悔しに来たのかと思ったが、どうやら違うらしい。
俺は服の埃をはたきながらクーリアの話を聞こうとするが、当のクーリア本人は自身の胸に手を当てて呼吸を整えている。
(もしかしたら、昨日クッコルセに襲われた件で思うところでもあんのかもしれねえ。これは俺も、覚悟して聞いた方がよさそうだな……!)
クーリアの様子を見る限り、重大な要件であることは間違いないようだ。
あの件には俺も裏で大きく関わってる。
これはしっかり話を聞く必要が――
「シスター・マリアック。まずは確認させていただきます。以前あなた様もおっしゃられていましたが、私とあなた様は『お友達』でよろしいでしょうか?」
「……は、はい~? そ、それはその通りですよ~? い、今更聞くことでしょうか~?」
――そう思って身構えていた俺の耳に飛び込んできた言葉は、思わず気が抜けてしまうような内容だった。
どうやら以前に俺がクーリアのことを『お友達』と呼んだ件についてらしいが、果たしてどういう意図でこんな話が出てきたのだろうか?
(……いや待て。そもそもクーリアがこんな風に俺に直接、友達かどうかを確認してきたということは――)
ただここで、俺はもしかすると、とんでもない勘違いをしていたかもしれないという可能性に気付く――
(クーリアは俺のことをこれまで、『友達とさえ』思ってなかったってことかぁああ!?)
――という、俺にとってはあまりにも悲痛な可能性。
確かに俺が勝手に言い出したことではあるが、それでもマリアックとしてはそれなりに親しくしていた気ではいた。
だが、クーリアがそう思っていなかったのなら、俺にとってはあまりにもマヌケでダサすぎる話だ。
(思い上がりもはなはだしすぎたか……)
俺は心の中で一人落ち込むが、肝心のクーリアは遠慮なしに話を続けてくる。
「お答えいただき、ありがとうございます。実は私、少しの間休暇を頂きました」
「それはよかったでね~。クーリアさんは働きすぎなので~、お休みが必要だと思ってました~」
(……? 話の脈絡が見えてこねえぞ?)
次にクーリアが話してきたのは、自身の休暇についてだった。
俺もマリアックの言葉として返したが、普段からクーリアは働きすぎな印象がある。
<暗黒魔法>の掃除もあるのに、ファインズ公爵家の従者としてココラルの嬢ちゃんに付き添ったりで、いつ休んでいるのかも分からない。
――この話の流れも分からない。
(どっちにしろ、クーリアに休みが必要なのも事実だ。……だが、それと俺が――というか、『マリアックとクーリアが友人かどうか』の確認が、どうして必要になってくるんだ?)
どうしても見えてこない、クーリアがこの話をする意図。
ただ話し方を聞く限り、俺のことを嫌ってるとかそういうのではないらしい。
少し安心してきたが、本当になんでこんな話を――
「ですので、ご友人であるシスター・マリアックと、是非とも共に時間を過ごしたいのです」
「……は、はい~?」
――そう思ってクーリアが紡いだ言葉は、要するに『休みができたから俺と遊んでほしい』といった都度の内容だった。
要件を伝え終えたクーリアは、期待に満ちた眼差しで俺を見つめている。
――少しクーリアの性格を考えて、整理し直してみよう。
クーリアは休暇をもらった。
休暇ができたから、俺と遊ぼうと思った。
ただ、俺と本当に友達かどうかが不安だったため、確認してきた。
おそらくこんな感じの理由なのだろうが、これらを総じて俺が思ったのは――
(こいつ……人間関係の構築が下手くそすぎねえかなぁああ!?)
――という、クーリアの想像を絶する不器用さだった。
おそらく当の本人は、『完璧な流れで説明できた』とでも思っているのだろう。
目を見ればなんとなく分かる。最近は慣れてきたのか、より分かるようになってきた。
過去最高クラスに変化の少ないドヤ顔だ。
(ただ、俺も兄貴の対策でいろいろ考えることもあるし、下手にクーリアと一緒のところを兄貴に見られるとマズいし……)
「そ、そうですね~。私もまだ~、お仕事が残っていますが~……」
クーリアの気持ちを無碍にしてしまうが、俺にも優先するべきことがある。
これはクーリアのためでもあるので、俺も適当な理由をつけて断ろうと思ったが――
(あ、あれ!? クーリアの奴、泣いてねえか!?)
――よく見ると、クーリアの瞳はうるんでおり、今にも泣きそうだった。
それほどまでに俺と遊ぶのを断られたのが堪えたのだろうか。
いずれにせよ、俺の胸の方が苦しくなってくる。
(くうぅ!? クーリアのこんな顔は見たくない! 下心全開だが、兄貴に関することなんて後で考えよう!)
『男は惚れた女の涙に弱い』とか聞いたことがあるが、俺は今まさにそのことを実感している。
こんな状況に出くわしてしまっては、俺の方が折れざるを得ない。
「でも~、今日は切り上げて~、クーリアさんと一緒に~、のんびりしましょうか~」
「よ、よろしいのですか……!?」
こうして、俺はあっさりとクーリアとの休暇を過ごすことを了承してしまった。
(兄貴に見つかったりしたら、そん時はそん時だ。俺もクーリアの傍にいることを考えると、そっちの方が安全かもしれない。うん)
俺は自らを心の中で無理矢理納得させながら、クーリアを教会の奥にある自室へと案内する。
実際、俺もクーリアと一緒の時間を過ごせると考えると、胸躍るものがある。
「私の要望を聞いてくださるのはありがたいのですが、シスター・マリアックのお仕事は本当によろしいのですか?」
「残っている仕事は~、明日以降でもできますし~、私もクーリアさんと~、詳しくお話ししたいですしね~」
クーリアは再度俺に確認してくるが、もうここまで来たら俺だってクーリアと一緒に話がしたい。
物事の順番がメチャクチャになっている気がするが、俺だって中身は男だ。
惚れた女の願いには敵わない。




