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狙われた女騎士

クッコルセが闇落ちした原因。

「懐かしいな……。この童話を見ていると、フェイキッド様が生きておられた日々を思い出す……」


 俺の存在など気付かずに、クッコルセは本棚にあった童話『フェイキッドの亡霊』を手に取り、読み始める。

 その表情はどこか昔を懐かしむようで、俺のことをまだ覚えていてくれていることが分かる。

 それは俺にとって、これ以上ないほど嬉しいことだ。

 本当ならここで、俺は素顔で飛び出してこう言いたい――




(フェイキッド・スクリームは今も生きている)




 ――と。

 だがそんなことをしてしまえば、今度はシケアルの兄貴が何をしでかすか分からない。

 今はまだ俺にクッコルセを操らせるようにだけ命じているが、それこそ本当にクッコルセを殺しにかかるかもしれない。

 いくらクッコルセが<騎士>として優秀であっても、兄貴の実力は想像の上を行く。


(すまねえ、クッコルセ。俺のことは恨んでくれて構わない。だから今は、兄貴の計画に従ってくれ……!)


 俺は心の中で懺悔しながら、<暗黒魔法>が装填された"ファルコン"の銃口をクッコルセへと向ける――



 ――バシュンッ!!



「くっ!?」


 ――そして放たれた、クッコルセを操るための<暗黒魔法>の魔法弾。

 <暗黒魔法>はクッコルセの鎧へと纏わりつき、その身へと入り込み、心をも蝕んでいく。

 次第にクッコルセは立ったままダラリと頭を下げ、その身に纏う空気さえも変わっていく――




「くっ……そうだ。アタイは行かなければ……」




 ――そしてブツブツと呟きながら蔵書室を出て、フラフラとどこかへ向かい始めた。

 そんなクッコルセの姿を見ていると、自分のしでかしたことが嫌でも実感できてしまう。


(兄貴の命令とはいえ、俺はこの手で人の心を<暗黒魔法>で操っちまったのか……)


 そんな己の行動を理解すると、手が震えてくる。

 俺はただ兄貴の言いなりになるがまま、どんどんと一線を越え始めている。

 その事実が恐ろしく、否応なく俺の心の弱さを実感させてくる。




 ――本当に俺は一体、どこまで人として堕ちればいいのだろうか?

 兄貴の命令に従うたび、俺の自己嫌悪はどんどんと膨れ上がる。




(……それにしても、クッコルセはどこへ行くつもりだ?)


 俺の心は重くなり続けるが、自分がやったことの顛末はどうしても気になる。

 兄貴の命令はクッコルセに<暗黒魔法>の魔法弾を放った時点で終わったが、俺だってこのまま無責任な終わらせ方はしたくない。


 たとえそれが無意味であっても、俺はクッコルセの後を追わずにはいられない――





「くっ……ここを守らねば……」


(あれは……王城の下水道か?)


 ――そうして俺はクッコルセの後をこっそり追っていくと、クッコルセ本人は用水路から王城の下水道の中へと入っていった。

 これらの行動は兄貴の<暗黒魔法>の影響によるものだろうが、この奥に何かあるのだろうか?


(それにしても、このあたりの空気だが……まさか、<暗黒魔法>の影響が出てるのか?)


 それともう一つ気になったのが、この用水路周辺の空気だ。

 どうにも近隣住人の体調がよろしくないことが、見ただけでも感じ取れる。

 俺もサーチ能力を働かせてみるが、どうにも<暗黒魔法>が宙を舞っているように見える。


(俺がやったわけじゃないし、兄貴の仕業だろうな。つーか、なんで国の皇太子が進んで国民に害を与えてんだよ……)


 目的こそ分からないが、やはり兄貴の行動は気味が悪い。

 仮にも王族である兄貴が、ここまで多くの国民の生活に悪影響を与えていると思うと、俺も黙って見てられない。




 ――俺だって元は王族だ。

 幼いころは国王である親父に、『王族としての在り方』を教えられていた。

 兄貴の悪事の一部に加担しておいて虫のいい話だが、こんな光景を放ってはおけない。


(兄貴から直接命じられてるわけじゃねえが、一応『命令の範疇』にはなるか……)


 俺はいろいろと考えた末、あることを思いつく。

 兄貴からの命令の中には『心優しきシスター・マリアックを演じる』というものがある。


 それを利用する方法を思いついた俺は、その日は教会へと戻った――





「皆さん~! 私の聖水で~、少しでも~、元気になってくださいね~!」


 ――そして翌日、俺はマリアックとして用水路の周辺に住む国民の前に現れた。

 腕にはバケットを抱え、中には大量の聖水を入れてある。

 この聖水があれば、多少は<暗黒魔法>の影響を跳ねのけることができる。


「ささ~、どうぞどうぞ~」

「おおぉ……。なんとお優しいシスター様じゃ……」


 俺は用意した聖水を付近の住人に配って回る。

 クーリアのように<暗黒魔法>を消すことはできないが、それでも少しぐらいは力になれるはずだ。


 これらの行動はすべて兄貴から演じるように命じられた、『心優しきシスター・マリアック』としての行動だ。

 よって、これは命令の範疇である。

 多少こじつけではあるが、この行動は許されるもののはずだ。


「この聖水をふりかければ~、少しは元気になりますよ~」

「なんと慈悲深いシスター様だこと……!」

「あなた様こそ、まさに聖女様だ……!」


 そうして俺が聖水を配って回ると、住人達が感謝の言葉を述べてくれる。

 本当はここの住人達を苦しめる<暗黒魔法>を放った兄貴の下僕なので、感謝される筋合いなどない。

 それこそ本当のことを話せば、恨まれたって仕方ない。


 ――それでも俺は厚かましくも、心のどこかで嬉しかった。

 こうしていると、クーリアがあそこまで人のために必死になって掃除をする理由も、なんとなく分かる気がする。

 きっと<清掃用務員>という職業は、クーリアが生きていた前世の世界でも高尚な職業だったに違いない。


 俺も少し、そんなクーリアに感化されてきたようだ。


(まあ、俺はそもそも男だから、どうあがいても『聖女』にはならねえんだがな)


 住人達の感謝の言葉にそんな皮肉を思いながら、それでも俺は聖水を配り続ける。

 言ってしまえば俺の偽善的な行動だが、それでも憧れるクーリアのようなことだってしてみたくなる。

 今でも俺を覚えてくれているクッコルセを陥れた俺にできる、ある種の懺悔でもある。


 もっとも、こんなところをクーリア本人に見られると恥ずかしくなってくるだろうが――




「それにしても……あまりよろしくない状況ですね」


(なんで本当にいるんだよぉお!? クーリアァア!?)

そしてクーリアの用水路周辺お掃除へとつながる。

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