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ドジを踏んだ亡霊

Q.なぜあの時、マリアックの教会も"汚れ"に覆われていたのですか?

(え? 何? 俺のいる教会に何かあるの? まさか、教会に<暗黒魔法>でも見えたのか?)


 クーリアの様子を見て、俺も少し可能性を考えてみる。

 あの様子を見る限り、俺が今いる教会に何かあったと考えるのが一番だ。

 そしてクーリアが反応したということは、<暗黒魔法>が見えたという可能性が高い。


(だが、俺は教会に<暗黒魔法>は使ってないし――あれ?)


 不思議に思いながらも、俺はレインコートのポケットに手を入れてみる。

 すると、あることに気が付いた――




(……<暗黒魔法>の入った瓶が足りねえ)




 ――そうだ。瓶の数が足りないのだ。

 俺は校舎に兄貴から渡された<暗黒魔法>を全て撃ち込んだわけではない。

 渡された三本のうち使ったのは一本だけで、二本は残してポケットに入れておいたのだが、二本ともなくなっている。

 教会に戻る前には確かにあったのだが――


(……これってまさか)


 嫌な予感がした俺は自室のドアをゆっくり開けて、外の様子を確認してみる――



 ゴボォオオ!!



「どわぁああ!? や、やっちまったぁああ!?」


 ――そして目の前に映ったのは、教会中を覆いつくす<暗黒魔法>だった。

 俺も思わず素の声を出して驚いてしまい、すぐさま部屋のドアを閉める。


(と、とにかく、聖水だ! 聖水があれば、多少は<暗黒魔法>の効果を抑えることができる!)


 そして部屋の棚から聖水を取り出し、とにかくドアへとかけまくる。

 完全に<暗黒魔法>を消すことはできないが、この部屋に<暗黒魔法>が入り込むことはこれで防げる。


(ひ、ひとまずはこれで大丈夫だろう……)


 俺は内心パニックになりながらも、なんとか聖水をドアにかけ終えた。

 これであの気味の悪い<暗黒魔法>がこの部屋まで入ることはないが、こうなった理由はやはり――




(俺が<暗黒魔法>の入った瓶を、教会の中で落っことしたからだろうな……)




 ――ということになる。

 そして俺の落とした瓶が割れて、中に入っていた<暗黒魔法>が教会中に充満。

 一本でも校舎を覆い隠せる量だったのに、二本もぶちまけたから教会内は大惨事。


 ――当の俺はずっとサーチ能力でクーリアを観察してたので、今の今まで気づかなかった。


(ど、どうすりゃいいんだよ、これぇえ!? 俺なんかじゃどうしようもできねえぞ!?)


 完全に錯乱状態に陥った俺だが、なんとか冷静にこの状況を打開する方法を考えてみる。


 とりあえず、いずれは兄貴が俺に確認をとるためにここへ来るだろう。

 そうすれば<暗黒魔法>の解除もできるだろうが、それはそれで嫌だ。


(あのクソ兄貴に借りなんて作りたくねえ……!)


 なんともチンケなプライドだが、俺はとにかくシケアルの兄貴が嫌いだ。

 いつも言いなりになっている分、余計なところで変な借りは作りたくない。

 かといって、この状況は俺の力でどうこうできる訳でもない。


(兄貴の手を借りずに、この<暗黒魔法>をどうすれば――あっ! そうだ! クーリアは!?)


 慌てふためく中で、俺はクーリアのことを思い出す。

 あいつはこの教会から<暗黒魔法>が溢れていることに気付き、掃除するためにここへ向かっているんだった。

 いくらクーリアに<清掃用務員>の力があっても、この濃度の<暗黒魔法>は危険すぎる。


(急げ! あいつがここに来ちまう前に、どうにか俺が外に出て食い止めるんだ! 最悪、この部屋の壁をぶち壊してでも外に出ねえと!)


 俺はまず目を閉じてサーチ能力を働かせ、とにかくクーリアの位置を探ってみる。

 何よりも避けるべき事態は、クーリアがこの教会に入り込んで<暗黒魔法>に飲み込まれてしまうことだ。

 そのためにもすぐにクーリアの居場所を感知し、最悪力づくでも止めて――




「シスター・マリアック!!」


(あいつ、来るの早すぎねえかなぁああ!?)




 ――そう考えていた矢先、クーリアの声が教会の入口の方から聞こえてきた。

 俺もすぐさまサーチ能力を入口へとむけると、そこには確かにクーリアの姿があった。


 だがクーリアがいた校舎と、この教会の位置を考えると、いくらなんでも早すぎる。

 確かクーリアは元<アサシン>だったから、身体能力強化のスキルは使えたはずだ。

 それを使ったにしても早すぎるが、一体何をどうしたんだ――




「ぐっ……!? <清掃能力強化(クイックルハイパワー)>――<除菌疾走(オーバードライブ)>!!」


(なんだそれぇえ!?)


 俺がクーリアの異常なまでの到着の早さを疑問に思っていると、突如クーリアが変な技名を叫びながら教会内をモップ掛けし始めた。

 技名もおかしいが、そのモップ掛けの仕方もとにかくおかしい。

 とにかくありえないほど速いし、壁を走ってるし、天井を走ってるし――


(あいつ……本当に人間か!?)


 ――<アブソリュート(完璧なる)アクター(役者)>として様々なスキルをマスターした俺でも、心の中でそう驚かずにはいられない。

 よく分からないが、さっきクーリアも口にした<クイックルハイパワー>だの<オーバードライブ>だのと言うのは、<清掃用務員>用の能力強化スキルのように見える。

 <アサシン>の能力強化だけでなく、<清掃用務員>としての能力強化まで上乗せできるから、ここまでとんでもない動きができるのだろう。




 ――果たしてクーリアの前世の世界とは、どれだけ猛者の集まる世界だったのだろうか?




「ハァ! ハァ! シ、シスター・マリアック!!」


 そんなとんでもない動きで、クーリアは教会内に溢れだした<暗黒魔法>を次々にモップで洗い落としていく。

 その際に必死に俺の名を呼び、その無事を確認しようとしてくれている。


(俺なんかのために、ここまで必死になってくれてるのかよ……)


 そんなクーリアの姿に、俺はどうしても嬉しさを覚えてしまう。

 この教会の<暗黒魔法>の濃度は校舎のものと比較にならないが、それでもクーリアは徹底的に掃除していく。


 ――全部俺がやったことなのに、ここまで必死になってくれると、嬉しさと申し訳なさで胸が痛い。

 しばらくすると、クーリアは本当に教会内の<暗黒魔法>を全て消し去ってしまった。


(本当にとんでもねえ力だな、<清掃用務員>っつーのは。……あれ? <暗黒魔法>は全部消えたのに、クーリアはまだ焦ってるぞ?)


 ただクーリアの様子を見ると、何やらまだ安心できていないようだ。

 そして教会の奥の辺りを見回し、何かを探しているように見える。

 どこか見慣れた部屋の前にいるようだが――




「シスター・マリアック! ここにおられるのですか!?」


(この部屋!? 俺が今いる部屋じゃねえかぁああ!?)




 ――なんと、クーリアはすでに俺の部屋の前まで来ていた。

 どうやら俺の無事を心配して、ここまで探しに来てくれたようだ。

 その気持ちはありがたいのだが、ここにきて俺はとんでもない問題に直面する――




("フェイキッドの亡霊"の衣装……まだ着替えてなかったぁああ!?)




 ――そうだ。俺はまだ"フェイキッドの亡霊"の衣装である、黒いレインコートのままだったのだ。


「あれ~? もしかして~、クーリアさんですか~? ちょっと待ってくださいね~。今~、お着替え中なんです~」


 とにかく俺はマリアックの声で外にいるクーリアに返事をして時間を稼ぐ。

 そして慌てて黒いレインコートを脱ぎ捨て、いつもの修道服に着替えなおそうとする。


(ヤバいヤバいヤバい!? こんな姿をクーリアに見られたら、俺は言い訳のしようがねえぞ!?)


 完全にテンパりながらも、とにかく急いで着替えようとする。

 クーリアはすでに部屋の外でドアノブをガチャガチャしており、いつ入ってきてもおかしくない。

 俺を心配してくれるのは嬉しいが、エチケットぐらいは守ってほしい。

 とりあえず俺は"フェイキッドの亡霊"の衣装を脱ぐと、ベッドの下に隠す。

 クーリアに"フェイキッドの亡霊"の姿を見られるのだけは絶対に避けたい。

 そして下着姿になったところで、いつもの修道服に着替えようとすると――




 ――バタンッ!


「きゃ、きゃ~!? クーリアさん~!? 入ってきたら~、ダメですよ~!?」




 ――クーリアが部屋に入ってきてしまった。

 俺は慌てて腕で胸を隠す素振りを見せ、マリアックの演技で恥ずかしがるように見せる。


 ――実際、今の俺は男なのに女物の下着姿なわけで、相当恥ずかしい。

 そもそも何より心配なのは、『俺が男だとバレていないか?』ということだ。


 クーリアも最初は焦って目を見開いていたが、俺の姿を見ると落ち着いたようにいつもの表情に戻った。

 とりあえずこの様子だと、俺が無事だったことに安心はしたが、俺が男であることには気付いていないと見える。

 俺は俺で何とか窮地を脱したようだ――


「勝手に部屋に押し入って、申し訳ございません。ですが、あなたが無事でよかった――」



 ――カチャン



 ――そしてクーリアも俺に謝罪のために頭を下げてくれたのだが、その時手に持っていたモップが床へと落ちる。

 その落としたモップを拾うためにしゃがんだクーリアだったが、逆にその体が床へと崩れ落ちていく。


「え? え? ク、クーリアさん~? クーリアさん~~!?」


 俺はマリアックの声で必死に呼びかけるも、クーリアから返事は返ってこない。

 そのままクーリアは床に倒れこみ、意識を失ってしまった。


「クーリアさん~~!?」


 俺も何度も呼びかけるも、クーリアに反応はない。

 まさか、兄貴の<暗黒魔法>にやられて――




(……いや、大丈夫だ。どうやら疲れで倒れただけらしい)


 ――そんな不安がよぎったが、俺は<医者>スキルを使ってクーリアの容態を診察してみる。

 さっきのようなあまりに人間離れした動きと、能力強化の重ね掛けで、クーリアの体が限界に来てしまったようだ。


(本当に無茶してくれるぜ。俺なんかのためによ……)


 俺はそんなクーリアに安心と感謝を覚えながら、先に自身が修道服へ着替えるのを終える。

 クーリアにもこのまま床で寝られるわけにはいかないし、すぐにベッドへ運ぼうとした――




 ――だが、ここでまたしても問題が発生する。


 俺はこれまで女として生きてきたが、中身は男のままだ。

 演技として同性を装い、女性と身体的に接触することはあったが、今俺の目の前にいるクーリアは初恋の相手だ。




 ――そんな女を俺のベッドに寝かせるのか?




(ああああ!?ちくしょぉおお!? めんどくせぇええ!! 恥ずかしいぃいい!!)


 俺は一人心の中で、ただただ男としての心境は叫んでいた。

A.マリアック本人がドジを踏んだから。

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