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頭のおかしいヤバい女

本編でクーリアがマリアックに懺悔していた時、マリアック当人は何を思っていたのか。

「ハァ~……なんなんだよ、ったく……。<アブソリュート(完璧なる)アクター(役者)>でも、心に嘘をついて演技まではできねえってか?」


 クーリア達と校門前で別れた後、俺は一人教会の自室にある机で頭を抱えていた。

 どうにも俺の心は落ち着かず、とにかく乱れて仕方ない。

 何より俺の頭に浮かんでしまうのは――


(クーリアと近づきてえなぁ……)


 ――という、自分で言うのもなんだが、年相応の男の願望。

 これまでちょっと魅力的だった女が、急にさらに魅力的に見えたのだ。

 これは仕方がない。男の性だ。


 だが、こんなことは兄貴の計画にも想定されていない。

 下手に俺が動いて正体がバレれば、それこそクーリアにまで被害が及ぶ。

 それだけは絶対に避けたいので、俺の淡い恋心はここで儚く終焉を迎えざるを得ない。


 ――なんとも惜しい話だが、俺にできることなんて何もない。




 ガチャン――



(ん? 客か? 誰か懺悔にでも来たのか?)


 そうして俺が奥の自室で考え込んでいると、教会に誰かが入ってくる物音が聞こえた。

 一応仮初の姿とはいえ、俺はこの教会の主だ。

 懺悔をしたい人間がいれば、心優しきドジっ子シスター『マリアック・アリビュート』として、その懺悔を聞いてやる必要がある。


 ――シケアルの兄貴の暗躍の道具にもいいように使われ、俺の意志など存在しない。

 腹の立つ現状だが、俺の人生はもう兄貴の手の上にある。

 仕方ないと何とか割り切り、俺は教会の礼拝堂へと向かう――





「…………」

(……え? あれってクーリアか? なんか、メチャクチャ落ち込んでねえか?)


 ――そうして礼拝堂にやってきた俺の目に映ったのは、先程まで密かに思いを寄せていたクーリアの姿だった。

 だが、その様子は明らかにおかしい。

 礼拝堂にある机に顔をうずめ、とにかく落ち込んでいるのがよく分かる。




 ――事情は分からないが、これは俺も個人的に放っておけない。




「あら~? クーリアさんが一人で教会に来るなんて~、珍しいですね~」

「…………」


 俺は『マリアック・アリビュート』として、落ち込むクーリアに声をかけてみた。

 だが返事はなく、相変わらず机に顔をうずめている。

 こいつのこんな態度を見るのなんて初めてで、変な新鮮さがある。


「な、何かあったのですか~? 私でよければ~、話を聞きますよ~?」


 それでもそんな雑念を振り払い、俺はクーリアへと声をかけてみる。

 紛い物の<シスター>だが、俺のような人間でも力になれるのならなってやりたい。

 これは兄貴の計画とは無関係な、『マリアック・アリビュート』としての職務の一つでもある。

 これぐらいなら俺にだって許される。


「……シスター・マリアック。私は懺悔したいことがあります……」


 クーリアはようやく顔を上げて、俺に話しかけてくれた。

 どうやら懺悔に来たようだが、俺はその時のクーリアの落ち込んだ表情を見て――


(なんだこいつ? クーリアって、こんなに表情豊かだったっけ?)


 ――などと不覚にも内心わずかにときめいてしまった。

 俺が知っていたクーリアは、とにかく表情の変化が皆無といってもいい。

 校門で会った時から雰囲気が変わったとは思っていたが、こんな表情の変化は初めて見た。

 他の人間と比べると大きな変化ではないが、それでも元々が『全く変化しなかった』人間だけに、『わずかな変化』が大きく見える。

 いかん。どうにも俺はさっきからクーリアに心を乱されっぱなしだ。


「懺悔ですか~。いいですよ~。それが<シスター>のお仕事ですから~」


 そんな心の乱れを払拭するかのように、俺はクーリアの懺悔を聞くことにした。

 話さえ進めれば、俺も余計なことを考えずに済む――




「私は……<清掃用務員>失格です……」

「……え、えっと~。んっと~。続きをどうぞ~」




 ――と思ったのだが、今度は違う意味で心――というか、頭を乱された。

 『セイソウヨウムイン』という謎の言葉。

 とにかくまず、その意味が分からない。

 それでも俺は<シスター>として、まずは懺悔の内容を全て聞くことを優先し、クーリアが続きを話すように促した――




「私は……ファブリ・フレグラ様をお掃除しました……」

「は、は~は~……」


「私は……フレグラ様が男性だと思っていました……」

「ふ、ふむふむ~……」




「私は……女性であるフレグラ様を、男性用シャワールームで全裸にしました……」

「え……え~……」


 ――その結果、俺も思わずドン引きするような内容が飛び込んできた。


 ファブリを掃除した?

 ファブリが女であることを知らなかった?

 ファブリを男性用シャワールームで全裸にした?


 これらのとにかく意味が分からない内容から、俺は一つの結論に達した――




(この女、頭おかしい。ヤベえ)




 ――とても口に出せない内容だが、率直にそう思った。

 クーリアのことは好みのタイプだが、それとは別でいろいろ頭の中がヤバい。

 ただ、同時に俺はこんなことを考えてしまう――




(こいつ……こんなありえねえレベルで恥ずかしいことを、よくも隠さずに言えるよな。……羨ましい)




 ――そんな風に俺は、クーリアにまた別の魅力を感じてしまっていた。

 俺が一応は<シスター>で懺悔を聴く側であることもあるが、それでもここまで自分を隠さず、偽らないクーリアはどこか魅力的だった。

 それは俺が『フェイキッド・スクリーム』として死んだことにされ、嘘で塗り固められた存在として生きていることにもあるのだろう。

 それだけにクーリアの『嘘で偽らない姿』は、俺にとって余計に眩しかった。




「やはり私は……<清掃用務員>失格です……!」

「…………。た、大変だったのですね~……」


 ただ、話の内容はやっぱり分からない。

 さっきからクーリアが口にしている『セイソウヨウムイン』というのも、なんのことだかサッパリ分からない。

 こっちの頭までおかしくなりそうな懺悔の内容だが、とりあえず俺も<シスター>としてやるべきことをやろう。


「と、とにかく~、落ち込んでばかりいても~、仕方ないですよ~」


 俺は心優しきシスター・マリアックとして、クーリアへと言葉をかけ始めた。


「お仕事での失敗なんて~、誰にだってありますよ~。私だって~、よく転びますし~」

「確かに失敗なんて誰にだってあります。ですが、今回の失敗はあまりに大きすぎます……」

「失敗の大きさじゃないですよ~。大切なのは~、『この失敗を次に活かすこと』です~」

「シ、シスター・マリアック……!」


 そんな俺の表向きの失敗談に基づく経験論を話すと、クーリアの顔が明るくなった。

 なんてことのないありふれた話のつもりだったが、どうやら効果はあったらしい。


 ――それにしても、こいつってこんな表情もできるんだな。

 まるでこれまでの『クーリア・ジェニスター』という人間に、別の人間でも入り込んだようだ。


「ありがとうございます、シスター・マリアック。私も<清掃用務員>としての誇りを取り戻して、これからも精進します」

「そ、それはよかったです~」


 完全に元気を取り戻したクーリアは、俺の両手を軽く握りながら感謝を述べてきた。

 嬉しいが、できればやめてくれ。俺は表向きには女だが、中身はれっきとした男なんだ。

 惚れ始めている女にそんなことをされると、俺も演技が厳しくなる。




「クーリアー! ここにいるのですわー!?」

「え、えっと……クーリアさーん。ボクもお話ししたいことがー……」


 そんな俺の窮地に助け舟でも来るかのように、教会の入り口から声が聞こえてきた。

 どうやらクーリアの主であるココラルの嬢ちゃんと、話題にあったファブリがやってきたようだ。

 その二人が教会に来てくれたことで、クーリアは俺から手を放して二人の元へと向かった。

 名残惜しい気もあるが、理性的には助かった。


 その後、クーリアはココラルとファブリの二人に謝罪をしていた。

 何があったのか詳しいことは分からないが、とりあえず一件落着したのなら良しとしよう。


 ただ、俺には一つ気になることがある――




(あれ? ファブリにかかってた<暗黒魔法>が消えてる?)




 ――シケアルの兄貴がファブリにかけていたはずの<暗黒魔法>は、綺麗サッパリなくなっていた。

 ココラルにしてもそうだが、やっぱりこれもクーリアが何かしたということか?

 もしそうだとしたら、俺はぜひとも話を聞いておきたい。


 俺だってまだ、シケアルの兄貴の呪縛をから逃れることを諦めきったわけじゃない。

 もしクーリアにその可能性があるのなら、俺はそれに賭けてみたい。


「あ、あの~。私には先程からずっと~、お聞きしたいことが~、あるのですが~……」


 ただ、俺には先にずっと気になっていることがある。

 それを尋ねるためにも、俺はクーリアに口を開いた――




「『セイソウヨウムイン』って~、何ですか~?」

マリアック「見た目はいいのに、男のいるところで女を裸に剥き、訳の分からないことばかり言う、頭のおかしいヤバい女」

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