世界の理
怒り狂った奴の攻撃は一切の容赦がなかった。
怒り過ぎた余り、狙いが狂って床を直撃したのにも関わらず
俺とキリルは衝撃で吹き飛ばされた。
ライデン、いやあれは時間が掛かりすぎる
ライトニングでも打てれば………。
「ライトニング!!!!」
「?」
「ライトニング!!!!」
「シュン…」
システムは構築済みでコマンドを発したのに電撃が出ない。
奴の足元にはちゃんと動力網を引っ張って…。
何も問題ないはずだ。
どういうことだ?
「くっくくく、そんな子供じみた芸が何度も通用する訳ないだろう
おや、さっぱり分からないって顔だな。
くはははははは
よし、特別に教えてやろう」
体の傷が少しは回復したのか、やつは余裕を取り戻しつつあった。
「紹介しよう。 わたしの相棒の最新にして最高の傑作AI≪アナンシ≫だ」
あいつの持つライフサポートバンドが微かに光った。
腕が倍以上太くなっているのにライフサポートバンドは無事だった。
かなりの高スペックの特注ものらしい。
そういえば、対面した時、あいつは俺達をスキャン出来た。
「こいつは≪アラクネ≫には及ばないにしろ
空母クラスの戦艦運用まで可能なスタンドアロンタイプのAIユニットだ。
貴様が建設と改築ようの整備コマンドを勝手に流用してそれを攻撃に転用するのはわかった。
しかし」
奴はもう瀕死の俺の頭をつかんだ。
「対人攻撃には安全装置の解除が必要だ。それには管理者権限がいる。
所詮は貴様の力じゃなく借り物だからだ。ところで考えて見ろ。
AIを挟みシステム使用権限を複数が申請するとしよう」
頭蓋骨がきしむ、いやな音が聞こえる。
「わたしはこの船のトップクラスの大物。
貴様はしがない整備士野郎だ。
くっくっくっ
当然、権限は私に転がりくる。
私が許可しない限り、貴様は電撃どころか火遊びすらできないんだよ」
ああ、意識が遠のいてゆく。
「脅かしやがって。
もう、死んでくれ
まあ、この体でも油断は禁物という点を教えてくれたのは評価しよう。
そうだ、褒美をあげよう。
俺がキリルで楽しむのを見せてから殺してあげよう。
喜べ!!
もし私が力加減を間違えれば彼女と一緒にあの世に行けるかも知れないよ。
フハハハハハハハハ」
◆◆◆◆◆◆◆◆
くそ。
もう最悪だ。
もう周囲が暗くなって何も見えない。
キリルの声が微かに聞こえるが、まるで山の向こうから呼ばれてるようでうまく聞こえない。
このまま死ぬのか
思えば今までがうまく行き過ぎた。
個人の能力でいえば最初のゴブリンの一撃で死ぬくらい低かった。
それがトロルみたいな恐ろしい怪物もやっつけた。
この鬼野郎には手も足も出なかったけどな。
まさか、奴もシステムに命令して攻撃を中断させるとはな。
しかも相手はエリート
地位が違いすぎる。
【これでいいのか?】
仕方がない。
【これでいいのか?】
どうせ、負ける戦いだった。
セオリとおりなら、奴を殺したって次はもっと強いやつが来る。
【これでいいのか?】
キリルには悪いが家族でも恋人でもない。
第一俺は今死にかけている。
他人のことなど考えられるか。
【これでいいのか?】
悔しくないと言えば嘘になる。
逃げればよかった。
体が震える
【これでいいのか?】
…………………………………。
いいわけがないだろう!!!!!!!!
俺の中の何かが切れた。
パワーもスピードもあらゆる面であいつの方が全部つよい。
しかし、それはゴブリンやトロルだった同じだ。
そんな敵をいままで何とか殺ってきた。
システム命令権を奪われたが、攻撃自体は効いた。
だから、あそこまで怒り狂ったいた。
あいつは俺をしがない整備士だと罵る
システムの力を借りないとなにも出来ないと言う。
しかし、あいつの今の姿と力は本来の物か?
絶え間ない努力の積み重ねか?
ふざけるな!!
全部借りものだ。体を構成する細胞からしてなにもかも。
そして、キリル
彼女にとって俺はなんでもない。
よくて、ただの戦友だ。
あれだけ綺麗な女だ。昔俺を振った女のように
尻軽で傲慢で金遣いが荒いかも知れない。
かも知れない…。
しかし、知ってしまった。彼女の寂しそうな表情を。
辛いけど、くっと耐え忍ぶ顔を。
自分も大変なのに無理やり微笑んでくれる健気さを。
このままじゃ、
この事件の黒幕たちは誰も処罰されない。
犠牲者たちも浮かばれない。
俺も死ぬ。
ダグラス議長に一矢報いることも出来ない。
真相も闇のなかだ。
いや
そんなのどうでもいい。
彼女が悲しむ。
決して幸せになれない。
そんなの俺が許さない。
全力でぶっ壊してやる。
この馬鹿げた怪事件も
鬱陶しい現実も
あらゆることわりさえも。
そして始まる
俺の変異が。
◆◆◆◆◆◆◆◆
隠し持っていた切り札の煙幕グレネード
最後の一個を使ってしまった。
これ以上、時間稼ぎはできない。
余程、こっちをなめているのか、未だにダグラス議長は動かずにいる。
今の私は服が破れ、すごく卑猥な恰好になってしまったけど
怪我は殆どしてない。
早くシュンを連れて逃げ無くちゃ……。
シュンの怪我は軽くないけど、まだ生きている。
彼を見殺しにすれば、生存率があがるかも
そんな恐ろしいことを一瞬だったとはいえ考えてしまった。
しかし、そうすると今まで私を虐めて来た卑怯な連中と一緒だ。
いや、もっと最悪だ。
最後まで、私を庇ってくれたシュンのために頑張ってみよう。
そして
うまくいかなかったら……………。
そう思った瞬間
抱き寄せていたシュンの体から
黒い何かが、いや黒いエネルギーが渦巻くのがみえた。
まるで風になびく何かの影が揺れるかのように、それは動いていた。
これは以前シャワー室で見せてもらったシュンの体の模様から?
いや、以前とは比べられないくらい変異してる。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「どれどれ、いいよ、この煙幕が消えるまで待ってやろう
くくく」
ダグラス議長は、まるで子供のようにウキウキしていた。
そこで≪アナンシ≫から緊急のコールが入った。
「なんだ? よんでないぞ」
『緊急事案につき、最終的に勧告します。今すぐ、権限代理人の選任、もしくは医療検査を提案します』
「何を寝ぼけてやがる。ウィルスでもはいったのか?」
『………………承認失敗、≪アラクネ≫の疑惑を肯定とする』
「なんのことだ!??」
≪アナンシ≫が搭載されたライフサポートバンドがダグラスの腕から外れおちた。
「だれが、強制パージなど命じた!! この馬鹿AIめが」
「こういうことですよ」
「なに?」
見るとキリルに支えられて立つのがやっとの渋川シュンという整備士がいた。
出血も続いてるらしく顔も蒼白だ。
半ば死人と変わりなかった。
「……とりあえず、食らえ。
ライトニング!!!」
「はうっつ??!!」
その電撃は綺麗にダグラスの肩に直撃した。
反撃開始!!!
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