記憶
私の家は幼い頃から引っ越しが多かった。
何故か家族の皆はお隣とあまり関わらず生活していたし
友達を家に呼ぶことも許して貰えなかった。
家以外では仮名を使うことも多かった。
幼い私は理由を聞いても教えてくれない両親の気持ちが理解できずに
悶々としていた。
後になって分かった。私は十分過ぎるくらい守られていたし、幸せだったと。
◆◆◆◆◆
両親と妹が交通事故にあった。
妹と母は手術を受けたが結局ベッドから起き上がることはなかった。
父の後遺症も軽くなかった。
事故のせいで家族の実名がばれた後からは地獄の始まりだった。
興味本位のマスコミ、過去の大惨事の生存者グループ、様々な団体や匿名の個人から
脅迫、嫌がらせを受ける毎日だった。
学校にも行けず、父の科病をしながら病院で人工知能に勉強を教わった。
一年後、死に際の父から事故は人為的なものである可能性が高いということを聞かされた。
父の遺言は決して罪を犯した祖父の研究に関わるなということだった。
これで私は一人になってしまった。
こみ上げてくる怖さのあまり、ただ涙を流すしか出来なかった。
◆◆◆◆◆
父の葬儀式の後、ずっと世話になっていた病院を出て宇宙船員育成学校に入った。
資産も親戚も何もない私に、学費免除で行けるという点は魅力的に思えた。
しかも、この学校成績優秀であれば偽名使用も特に問題視しなかった。
父の遺言に従い超空間跳躍関連の企業、団体には近づかなかった。
育成学校の高学年になった頃、何故かまた身元がバレてしまった。
友達も作らず偽名を使用したりと
徹底したはずだが、何故バレてしまったかわからない。
体が成長し亡き母親に似てくると悪戯や嫌がらせは更にエスカレートしていった。
女からは妬みの、男からは粘着物のような気持ち悪い視線を浴びることが多くなった。
特に胸ばかり執拗に盗撮するやからが出た。
遅い時間に外出する時は怖くて、いつも練習を称して実習用の簡易パワードスーツを着込んで外出した。パワードスーツだと顔が見えないし、色々と便利だったからよく着用することになった。
幸い、卒業に必要な単位獲得はすべて済ませていたので、出来るだけ早く就職することにした。
◆◆◆◆◆
就職先は超空間跳躍とは無縁の宇宙構造物建造船、宇宙蜘蛛に決めた。
パワードスーツを使用する作業部門に志願した。
パワードスーツなんて、今は過去の産物としてみんな忌避する部門だったので簡単に内定が決まった。
また、身元がバレたらと思い、心細かったが幸いそんなことは起こらなかった。
こんな辺境宇宙の宇宙蜘蛛に乗船する者たちは訳ありの人が多く、余程の上位権限者からではない限り身元はバレないらしい。
プライベートを尊重する意味で互いに必要以上の詮索はしない作業現場は悪くなかった。
しかし、
慣れない宇宙蜘蛛の生活は楽ではなかった。
それでも、自分の与えられた作業をこなして誰にも絡まれたり、虐められたりしないことは
感謝の気持ちしかなかった。
何時も分厚いパワードスーツを脱がないし、最低でもヘルメット着用の私を周りは変人扱いしたが、人の噂もなんとやら皆も気にしなくなっていった。
仕事を覚えたり、趣味でこっそり医学を勉強したりしながら過ごした。
◆◆◆◆◆
ここでの生活も半年が過ぎた。
珍しく高級シャトルの着陸誘導と整備任務が入った。
私の仕事はパワードスーツでシャトルの状態確認だ。
っと言っても実際の機体金属疲労の検査、亀裂、気密、外宇宙付着物洗浄などは全部
自立型ドローンがやってくれるし。
私は未届けに行くだけた。
その時、見てしまった。
幼いころ見た祖父の映った写真。
その中で祖父の隣に立っていた人を。
何故、あの人がここに
本当にその人なの? 人違いかも知れない。
心のなかで暫し悩んだ後、再び視線を向けるとそこには
誰もいなかった。
作業が終わり自室に戻ってから知らされた。
今日到着した人の名前はダグラス・メッケンハイム
宇宙開発委員会の会員で超が付くほどの高位階層の人だと。
何故彼がここに?
考えても分からないことだらけだった。
しかし、祖父となにか関係しているのならどうしよう。
何日も悩んだ末に最悪この宇宙蜘蛛から出ていくことを決心した。
◆◆◆◆◆
目が覚めてライフサポートバンドの時間を確認して
しばらくは自分の目を信じられなかった。
経過時間は8661時間、これが本当なら私は時間旅行を経験したか、一年も眠ったことになる。
とても簡単に受け入れらることではなかった。
船内には異常なほどに人が無く、生存者に会うにはかなり時間が掛かってしまった。
リチャード管理局長グループに拾われた時、身元がバレるのではと思い酷く動揺した。
運がよかったのか艦内のシステムは不全のままでスキャンされることはなかった。
◆◆◆◆◆
整備士という渋川シュンという若い男と合流した時から
怪物が現れ始めた。
最初彼をテロリストだと疑ったが自分自身も襲われていたし、嘘をいってるようには見えなかった。
ただ、他の男同様で視線は嫌らしかったけど。
ちょっとだけ、見直したのはリチャード管理局長から庇ってもらった時だった。
身元バレの後でも態度が変わらない人は幼い時以来、殆ど会っていないのだ。
◆◆◆◆◆
それから何度も危機を乗り越えていく中
私は体の異変に気がついた。
二日前は、ほんのりとした模様が体に浮かんでいるだけだった。
最初はパワードスーツの長時間着用のせいで出来た痕かと思った。
いや、そう思いこもうとした。
しかし、怪物と戦った後からそれは光り出していた。
渋川シュンの体も私と同じだとわかった。
わたし、一人ぼっちじゃなかった。
シュンには悪いけど、シャワー室でそれが分かって少し嬉しかった。
◆◆◆◆◆
これはいったい何だろう。
幼い時の事故で家族皆と病院で別れるしかなかった私は個人的に医学に興味を持ち勉強を
している。
いくら素人の私でもこんな現象聞いたこともなく、普通ではないのはわかる。
こうなるんだったら多少無理をしてでも医学学園に行くべきだったと後悔したが、仕方がなかった。
現在の医療行為は殆どが自動化され医師はいわば個人のステータスになっている。
厳しい身元照合の元、かなりの財力を持ってしても長期間の勉学が必要だ。
とても後ろ盾がない一般人には選べない職業になっていた。
なんとなく
病気ではない気がする。
システムが安定したらすこし怖いけど
人工知能にデータをいれて分析して見るしかない。
◆◆◆◆◆
またも、シュンに助けてもらいながら生き残った。
絶対出来ないかと思った第10搬入倉庫制圧
まさか、重力反転を使うとは想像もしなかった。
シュンは何者なんだろう。
相変わらず視線はスケベだけど、そこまで嫌な感じはしなかった。
そして
やっと目標の調査が出来る。
そう思った瞬間、私の目に入ったのは
変わり果てた姿のダグラス議長だった。
しかし、これではっきり分かった。
間違いない。
その姿は祖父と一緒に笑っていたダグラス議長の若いころの写真にそっくりだった。
いくら延命術が発達してもこの前私が見た時より、数十年は若く見える。
身長までも大きいのと角が生えたのは何故?
ワープ事故の後遺症?
遺伝子の損傷?
「よくぞ、ここまで来たな。
正直全部倒されるとは驚いたよ」
ダグラス議長らしい物はわらいながら話かけて来た。
「おや、そこのお嬢さんは私のスキャンだと…
おお、何ということだ。
あのドストンベーク博士の孫娘ではないか。
キリル・タシュケント」
怪物は何か面白い物でも探しあてたかのように
それでいて
酷く懐かしい記憶でも思い出したかもように
私の名前を呼んだ。




