村の取引と物語集
ある日、私が家でナイフを使った木工細工を作っていると
私と一緒に勉強している三人のうちの一人のシンメが楽しそうに部屋に突撃してきた。
「シロ、ワタリが戻ったよ!今回もいろいろ持って帰ってきた。」
「本当?早速行かなきゃ。」
急いで家を出る。村の出口に近い広場に着いた時にはすでに村中の人たちが集まってきていた。
「ワタリさーん」
「んん?おお、シロちゃんか。今回もシロちゃんの作った奴は評判よかったよ。」
「へへ、やった。 今回はどんなものと交換してきたの?」
ワタリさんは定期的に森の外に村で作ったものを交換しに行っている。
基本的に村の中で生活は成り立つけれど、どうしても森の資源だけだと手に入れにくいものも多いため、
それを手に入れるための役割をワタリさんが取引市に町まで出て行っていたのだった。
「シロちゃんはナイフ新しくしたいって言ってたからね、ほら それと細工用の飾り石」
「ありがとう。今使ってるやつはちびてきちゃってて」
小さめの加工ナイフを受け取った。
狩りに使うには別に骨ナイフでもいいんだけど、細工物をするときはさすがに金属のナイフじゃないとできないんだよね。
「いいな~シロは。私はまだワタリに渡せるぐらいのものは作れないんだよ。」
シンメがぶーたれる。基本的にほしいものがある人はあらかじめワタリに価値のあるものを渡しておかなきゃだめだというルールがある。
私がさっきまで作っていたのもそのためのものだった。
でもシンメは、まだ何か渡そうにも一人前だと認められていないからほしいものを交換してもらえない。
ちなみに通貨は普通に外では使われているらしいけど、村に持ち帰っても基本集団生活で成り立っているエルフは使わないので物々交換で取引しているらしい。
ワタリさんが管理して持っていればいいのにと思うんだけど。村の中で偏って財産を持つのはあまり好ましくないらしい。
「はは、そんなシンメちゃんにお土産だよ。」
ワタリはそういってシンメに本をわたした。
「いいの?ワタリ」
「今回はシロがえらく張り切っていろいろ作ってたから、必要分揃えてもだいぶ余ってね。
いろんなものをおまけしてもらえたんだよ。」
私の手柄のようだった。ふふ~ん
最近立て続けに村の職人たちから一人前認定されて、調子に乗って作りまくっていたからかな。
あの木彫りの髪留めとかなかなかよくできていたはず。
「そうなんだ。ありがとうシロ。」
「どういたしまして。それで、どんな本もらったの?」
二人して本を覗き込む。
どうやら外の童話や言い伝えを集めた物語集のようだった。
シンメはパラパラと本をめくる。
「うえ~これ精霊語で書いてない」
「当然だろ、外の本なんだから。外だとむしろ精霊語なんて全く見ないんだぞ。それを読めるように勉強すればいいさ。」
「ええ~挿絵も少ないなぁ」
「外の共通語もそれを見て覚えるといいさ。確かシロはもう読めるんだよな。」
『それどころかボクは喋る方も完璧だよ。こんにちは』
「はは、それだけ喋られるならそのうち外との交渉についてきてもらってもいいかもな。」
森の外か。ちょっと興味があるな。
そんな話をしているとシンメが私の服をこっそり引っ張ってきた。
「ねぇシロ。一緒に読もうよ。」
「読んで、でしょ?もう。シンメも自分で読めるようにならないと。」
「そのうち読めるようになるもん。でも今はどんなことを書いているか知りたいから……」
ちょっとお姉さんぶっているけどシンメの方がだいぶ年上だったりする。
ていうか私が村の最年少っぽい。
記憶がないから多分だけど。
シンメはそのまま私の家までやってきた。二人して私の部屋で並んで本を覗き込む。
「異世界の勇者?」
「そう書いてあるね。」
いくつかある物語だけど、実話をもとにしたものも多く、その多くに異世界の勇者という存在がかかわっているようだった。
異世界の勇者
この世界はかつて平和でした。
人々は世界中にいろんな種族ごとに住んでいましたが、世界は広く豊かで、お互いに争うこともあまりありませんでした。
しかし、ある時、突然魔獣が世界の端に空いた時空の裂け穴からあふれて世界中に広がり、あちこちで厄災を引き起こしました。
世界中で人々は蹂躙され、世界は絶望に包まれました。
いくつかの種族はその中で進化し、身を守る術を手に入れましたが、ほとんどの者は魔獣によって追い詰められていきました。
人々は神に助けを求めました。
天の神々はその声に答え、なん柱もの神がそれぞれ魔獣が入り込めない結界をあちこちに作り、人々をその中にかくまい、国としました。
そして、その神たちが力を合わせて裂け目を封印しました。
人々は結界の中の国で安息を手に入れました。
しかし、結界の外には封印を免れた魔獣が闊歩し、栄えていました。
国を得た人々は頑張って魔獣たちから世界を取り返そうとしましたが、いくら倒してもなかなか魔獣はいなくなりませんでした。
人々は神にまた相談しました。
すると、神々はある提案をしました。
我々が異世界から魔獣と戦える戦士を呼ぼう。
戦士には神々から力を与える。
人々はその戦士と協力し、魔獣を倒すのだ。
そうすれば私たちが結界を大きくして、魔獣たちから世界を取り戻してあげよう。
こうして、いくつもある国に、それぞれ異世界からの戦士が呼ばれ、彼らと協力しながら国は大きくなっていきました。
そんな中、戦士たちの中でも大きな活躍をしたものを勇者と呼ぶようになったのです。
「ふーん、じゃあ、この本の物語はそんな勇者さんたちの活躍がもとになってるんだね
でも、勇者さんとか国の結界とか、あんまり聞かないね。」
「それは私たちエルフが『進化して、身を守ることができた種族』だからだよ。」
シンメがそんなことを教えてくれた。
なるほど、精霊魔法が思った以上に戦いに向いている魔法だったのは魔獣から身を守るためだったんだね。
それにしても、異世界、という言葉がどうにも気になって仕方ない。
なんだか心の内側をがりがり引っかかれているような焦燥感がある。
「シロ?どうしたの?続きよまないの」
「ああ、うんごめん」
シンメが続きをせがんできたので、次の物語を読んであげる。
それからいくつかの物語を読んでいくけど、異世界の勇者のかかわる物語を読むたびに私の胸がざわついてしょうがない。
そんな中、ある一つの物語を見た時に、心臓をわしづかみにされたような感覚があった。
―北国の勇者と 雪の村。―
「雪……」
「うん?このあたりじゃ振らないよね。どんななんだろ
確か空から白くて冷たい小さなふわふわが落ちてくるらしいね」
空から……冷たくて白い……小さな……”雪”
「あ、ああ……」
「シロ?どうしたの、ねぇ?」
―ゆき、どうかしたの?―
ハナおねぇちゃん
「ああああああ!!」
「シロ!!シロ、どうしたの!!」
―ゆき、なにかあったのか?―
ツキにいちゃん
「うわあああああああ!!」
「ねえ!!……む、村長ー!!シロが!!」
思い出した。




