参佰弐拾捌
扉付近に立っていた2人のお兄さんの横を抜けて、わたしは逃げるような気持ちで病室から出た。
悪くない。
悠二くんは悪くない。
けれど、気を張っていないと叫んでしまいそうだ。
どうして、と──。
そして、やっぱり考えてしまうのだろう。
……ぜんぶわたしのせいだ、と──。
椎名と歩いていた数時間前とは違う。
受付を過ぎるころには早足になっていた。
ずっと、真っ白な廊下を駆け出してしまいたいのを堪えて。
緊張の糸をプツリと切ったみたいに、自動ドアを越えてすぐ、わたしは上着の肩がはだけるのも気にせず走っていた。
病院から最寄りの駅へ着いても、急かされているような落ち着かない気持ちが続く。
追ってくる声がないことには、すごく安堵しているのだ。
声をかけられても、腕を掴まれても、引き留められたら何を口走ってしまうか分からないから。
自分がどんな言葉を吐き出そうとしているのかを自覚したくない。
形にしないでいられるなら、あやふやで不明瞭なままでも良かった。
この喉から出ていく言葉が、誰かを傷つけるものであるのは嫌だ。
例え、もう手遅れだとしても。
……離れよう。
彼らから一度、距離を置こう。
甘えているだけなら、まだ良かった。
相手のすることに乗り気じゃあないように見せて、好意に浸っている間だけは気持ちが楽なのだ。
自分から行動してしまったら、良い結果も悪い結果も自身で受けきらなくちゃあいけない。
そばに居るのが心地よくて、気づけなかった。
受け入れてくれるから、分からないふりをしていたかった。
だけど、そうもいかなくなってきた。
……今度はちゃんと護ってみせると思ってしまったから。
取り戻せない過去に手を加えることなんて出来ないけれど、今度こそという思いで考えて行動すれば、それが望んだ未来になる。
そうして躊躇わなかった自分が、今になってひどい痛みをもたらすのだ。
正義感なんて、胸のうちを占めるものに比べたらゴマ粒ほどの大きさもない。
正しいことをしたいだとか、役に立ちたいだとか。
それは後からいくらでも変えられるし、変わってしまうこともある。
ただ、この思いというのがややこしくて。
離れていってほしくない。
────なんでも持っていたい。
相手が、自分のもとから去ることが恐い。
────本当は繋ぎとめておきたい。
喪うことも、損なうことも恐くない。
──……でも喪わせることや、損なわせることが恐い。
身代わりになられたら、こんなにも苦しい。
息もできなくなるくらい、胸が痛む。
心はこの場所にあると、存在を示すように強烈に締め付けてくる。
消えない今の想いを知っている。
この焦燥感を知っている。
わたしは、この感情を前にも抱いたことがある。
これは、どうしようもないほど身勝手で夢見がちな幼い自分が持っていた、力なき全能感だ。
あのとき、わたしの全身を占めていたのは、幼少期から巣くうそんな醜いものだった。




