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ヤーさんのお姫様  作者: 不知火 初子
五章 ひとりでだって強くはなれるよ
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参佰弐拾捌




扉付近に立っていた2人のお兄さんの横を抜けて、わたしは逃げるような気持ちで病室から出た。



悪くない。


悠二くんは悪くない。



けれど、気を張っていないと叫んでしまいそうだ。


どうして、と──。




そして、やっぱり考えてしまうのだろう。


……ぜんぶわたしのせいだ、と──。




椎名と歩いていた数時間前とは違う。


受付を過ぎるころには早足になっていた。


ずっと、真っ白な廊下を駆け出してしまいたいのを堪えて。


緊張の糸をプツリと切ったみたいに、自動ドアを越えてすぐ、わたしは上着の肩がはだけるのも気にせず走っていた。






病院から最寄りの駅へ着いても、急かされているような落ち着かない気持ちが続く。



追ってくる声がないことには、すごく安堵しているのだ。


声をかけられても、腕を掴まれても、引き留められたら何を口走ってしまうか分からないから。



自分がどんな言葉を吐き出そうとしているのかを自覚したくない。


形にしないでいられるなら、あやふやで不明瞭なままでも良かった。



この喉から出ていく言葉が、誰かを傷つけるものであるのは嫌だ。


例え、もう手遅れだとしても。




……離れよう。


彼らから一度、距離を置こう。



甘えているだけなら、まだ良かった。


相手のすることに乗り気じゃあないように見せて、好意に浸っている間だけは気持ちが楽なのだ。



自分から行動してしまったら、良い結果も悪い結果も自身で受けきらなくちゃあいけない。



そばに居るのが心地よくて、気づけなかった。


受け入れてくれるから、分からないふりをしていたかった。




だけど、そうもいかなくなってきた。


……今度はちゃんと護ってみせると思ってしまったから。



取り戻せない過去に手を加えることなんて出来ないけれど、今度こそという思いで考えて行動すれば、それが望んだ未来になる。


そうして躊躇わなかった自分が、今になってひどい痛みをもたらすのだ。



正義感なんて、胸のうちを占めるものに比べたらゴマ粒ほどの大きさもない。


正しいことをしたいだとか、役に立ちたいだとか。


それは後からいくらでも変えられるし、変わってしまうこともある。



ただ、この思いというのがややこしくて。



離れていってほしくない。


────なんでも持っていたい。



相手が、自分のもとから去ることが恐い。


────本当は繋ぎとめておきたい。




喪うことも、損なうことも恐くない。


──……でも喪わせることや、損なわせることが恐い。





身代わりになられたら、こんなにも苦しい。


息もできなくなるくらい、胸が痛む。


心はこの場所にあると、存在を示すように強烈に締め付けてくる。




消えない今の想いを知っている。


この焦燥感を知っている。


わたしは、この感情を前にも抱いたことがある。



これは、どうしようもないほど身勝手で夢見がちな幼い自分が持っていた、力なき全能感だ。



あのとき、わたしの全身を占めていたのは、幼少期から巣くうそんな醜いものだった。





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